表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/56

第52話:第三の封印炉 《トロイアの断層》


 断層帯の深部へと続く魔導トンネルを、俺たちは黙って進んでいた。


 空気が変わる。肌を刺すような微細な魔力の粒子。誰かに見られている感覚。ここが、最後の封印炉なのだと、身体の奥が告げている。


「ツバサ、あれ……!」


 レイラが指差す先に、巨岩の裂け目から露出した魔無核の構造体が見えた。大地そのものに組み込まれた、複雑な魔導式。血管のような魔力ラインが脈打ち、地響きにも似た音を発している。


「これが……第三封印炉、《トロイアの断層》……」


 俺の声に応えるように、空間が震えた。

 そして、その中心に静かに立つ人影があった。


 黒のローブに身を包み、背筋を伸ばしたその人物は、俺たちを一瞥すると、ゆっくりと口を開いた。


「よく来たな、ツバサ・ミナセ、レイラ・クロフト」


 聞き慣れた声。しかし、今までのどんな対峙とも違う。重みがある。恐怖でも威圧でもなく、確信という名の圧力が、言葉そのものに宿っていた。


 ヴェルザンディ――すべての計画の発案者。魔無核再興計画の中心人物だ。


「お前たちは、既に選ばれていた存在だ。ただ、それを拒む自由は与えられなかった。……私たちは、『選択肢を削ることで真理へ導く』方法論を取ったにすぎない」


 ヴェルザンディの瞳は、何の迷いもなかった。


「お前は、人の自由意志を踏みにじった。それを導きと呼ぶのか?」


 俺は詰め寄る。だが、ヴェルザンディは首を横に振る。


「踏みにじったとは思っていない。可能性を絞るという選別を行っただけだ。結果として、ツバサ・ミナセ、お前はここに立っている。自分の意志で」


「そんな詭弁で納得するかよ……!」


 怒鳴った俺の横で、レイラが顔をしかめるように頭を押さえた。


「……また、記憶が……脳に、直接……何かが流れ込んでくる……!」


 ヴェルザンディが手を上げると、封印炉のコアが脈動し始めた。周囲の空間が歪む。レイラの額に浮かぶ紋章が、淡く輝いた。


「やめろ……何をしてる……!」


「彼女の中に眠る“封印鍵”の情報を同期させている。忘れた記憶を、取り戻す段階だ」


 レイラの瞳が、光を帯びて変質していく。


「レイラ……!」


 呼びかけようとした瞬間、青白い閃光が走り、俺は吹き飛ばされた。壁際に叩きつけられ、意識が揺らぐ。


「ツバサ……!」


 それはレイラの声ではなかった。


 宙を滑るように、セラフィナの影が割り込んだ。彼女は魔導式を再構築し、暴走しかけたエネルギーを逸らした。


「今のうちに、離脱を。私は、ここで時間を稼ぐ」


「おい、無茶だ――!」


「ツバサ・ミナセ。お前たちには、選ぶ資格がある。私には……もう、それしか信じられるものが残っていない」


 レイラの瞳から、涙がこぼれた。

 記憶の奔流が、彼女の中で何かを変えようとしているのが分かる。


「私は……私が何者なのか、分かった気がする。私が“鍵”にされた理由。ツバサ、あなたの側にいた理由……」


「レイラ……!」


 セラフィナが振り返らずに告げた。


「次に目覚めるとき、彼女は選ぶ存在になっている。双鍵の完全覚醒だ。……行け」


 俺は、レイラの手を握った。

 彼女の手は、微かに震えていたが、その指はしっかりと俺の手を握り返してきた。


「……まだ、終わってない。俺たちの意思で、終わらせるんだ」


 ヴェルザンディは何も言わず、ただその場に立ち尽くしていた。

 その背には、絶対的な静寂と、揺るがぬ理想の影が宿っていた。


 だが、俺は知っている。その理想が、どれだけ多くのものを犠牲にしてきたかを。


 それでも、まだ遅くはない。次で、すべてを決める。



(第4章 第53話へ続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ