第36話:再会の代償 (Part 4)
暗い峡谷の底。
叩きつけられる寸前に、右手の魔導ガントレットをフルパワーにした。
手のひらに焼けるような痛みが走ったが、どうにか落下速度は落とせたが、回転の勢いまでは止めきれず、何かぶつかって……。
そこで意識が途絶え、次に気がついたのは頰を何かに突かれて目が醒めた。
血の匂いが鼻をつく。
渓谷の冷たい風が吹くたび、凍えるような寒さに、再び意識が遠のいた。
だが、頰をしきりに突く何かに意識を手放すことなく、ゆっくりと体を起こした。
「グォッ、めちゃ……痛い……」
全身に電気が走ったみたいで、再び地面にひれ伏した。
うまく力が入らない。
それでも、歯を食いしばって顔を上げると、一羽の鳥が羽ばたいていた。
「ああ……天国に来ちまったか」
白く光りながら、ゆっくりと羽ばたく白い鳥。
しばらく眺めていると、鳥は鳥でも折り鶴だということが分かった。
意識が飛びそうになるたびに、くちばしで頰を突いてくる。
「まさか、折り鶴に助けられるとは……これが本当の鶴の恩返しってか。アハハ……」
ギャァ、イテェェ!
笑ったせいで肋骨の辺りに激痛が走った。
「クソ、一体どうなった……」
痛みで目の焦点が合う。
辺りはほとんど真っ暗で、少し先にぼやっと光っている岩が見えた。
おそらく、レイラと出会った魔石のかたまりだろう。
その時のことを思い出し、薄っすらと笑みが溢れる。
羽ばたく鳥が、余計に彼女の存在を大きくさせた。
「レイラからの手紙か」
先に手紙を書くという約束は守れなかったが、今は勇気をくれる温かい気持ちになれた。
「オォォッ! くぉそぉ!」
気合を入れて上半身を起こすと、震える腕に折り鶴がそっと舞い降りた。
そして、自然に展開して、一枚の白い紙になった。
月光がない月折波は、ただの白紙。
次の満月は……。
「ヤバい……どれくらい時間が経ったんだ!」
光の矢。
俺の行動を知っているやつ。
覚醒したみたいに、思考が回転しはじめた。
空はまだ暗い。
そんなに時間は経っていない。せいぜい、30分、長くても1時間くらいだろう。
「俺を探しに来るか……」
召喚者は「封印鍵」とリリアナは言った。
だったら、このまま俺を放って置くわけがない。
押しつぶされたリュックを痛む体からなんとか下ろすと、手を突っ込んだ。
指先に冷たい感触が当たる。
「あった!」
取り出したそれを目にして、歓喜が漏れる。
魔法レンジで作り出した、回復薬。
レシピ本の最後に、英語で書かれていた「Potion」の文字。
ゲーマの俺にはすぐにピンときた。
「作ってて良かった……でもめちゃくちゃ苦いんだよな」
一瞬で顔が歪む。味見をしたときを思い出した。
舌の上に一滴垂らしただけで、無意識に吐き出すほどの苦さだった。
「飲むぞ、飲んでやる! くそったれ!!」
躊躇っている場合ではない。
気合を入れて蓋を開けると、一気に飲み干した。
舌がしびれ、喉の奥に痛みが走り、吐きたくなる衝動を必死に抑え込む。
顔にしわが寄り、数十歳は老けた気分になった。
次の瞬間、痛みはスッと消え、ゲームでよく見た緑色のきらきらエフェクトが俺を包んだ。
(第3章 第37話に続く)




