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第16話:言葉の届く距離 (Part 1)


 淡く光る白い紙に、文字が浮かぶ。



 「あなたが返事をくれるなんて、思っていなかった。

  それだけで、胸がぎゅっとなった。


  名前がわかっただけで、ちょっと近づけた気がして。

  本当に、ありがとう。ツバサ。


  私のことも、少しずつ伝えたい。

  でも……どうしても言えないこともあるの。今はまだ。


  それでも、ここで話せることが、今の私の救いです。


  次の夜も、空を見ていてね。


                    ――レイラ」



 深いため息がこぼれた。

 黒の霧が襲ってくる先日の手紙。


 俺は次の手紙を開く前に、もう一度深く息を吐いた。


「……読んだら、戻れなくなりそうだな」


 誰に言うでもない独り言がこぼれる。

 話す気なんてなかった。知るつもりもなかった。

 けど、気がつけば、今日の出来事よりも、手紙の中身のほうが気になって仕方なかった。


 机の端に横たわる、レイラからの三通目の折り鶴。

 視界の端で月光が反射してきらりと光る。


「くそ……」


 椅子を引き、静かに腰を下ろす。

 読まない選択肢なんて、とっくになかった。



 「さっき、渓谷が赤く染まるのを見ました。

  

  あなたが無事であることを、ただそれだけを祈っていました。

  でも、祈ることしかできない自分が、悔しくて仕方なかった。


  ツバサ。


  あなたが何を見て、何を感じているのか――

  少しでも、知りたいと思ってしまった。


  これって、わがままかな。


  もうすぐ月が欠け、新月です。


  月折波は、月の明かりがないと読めません。

  次の満月の夜、もっとちゃんと話ができますように。


                      ――レイラ」


 手にした白い紙が月光を受けて、淡くきらめく。

 そこへ、窓からの風がふわりと吹き込んだ。


 もう一通の手紙が、宙を舞う。

 まるで「返事を」とせがむように、部屋の中をさまよい、やがて静かに床へと落ちた。


 「……なんだよ」


 思わず漏れた声は、かすかに震えていた。

 どうしようもない感情が胸を締めつける。

 呼吸が浅くなり、心がざわつくのがわかる。


 「……なんだよ……」


 次の言葉は喉の奥に詰まり、出てきたのは、愚痴とも嘆きともつかない声。


 席を蹴るように立ち上がり、炊事場へ向かう。

 流し台の蛇口をひねると、勢いよく水が噴き出した。


 俺は、そのまま頭を突っ込むようにして冷水にさらす。


 「……クソ、クソ、クソ! レイラ……俺に、どうしろって言うんだよ!」


 水音が、声を打ち消す。

 いつの間にかこぼれていた涙も、冷たい水とともに頬を伝い、床を濡らしていった。



(第2章 第17話に続く)


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