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第1話:消える人々


 日本国内で、毎年およそ8万人が行方不明になるという。

 そのうち7割は数日で見つかるが、残りの2万人以上は、二度と姿を見せない。

 

 荷物も財布も置いたまま、まるで部屋ごと消えたように。

 街頭カメラに最後の姿を残し、その先は空白だ。

 ニュースは報じない。SNSもすぐに忘れる。

 誰も、彼らが「どこへ行ったのか」を知ろうとしない。


 まさか俺が、その数字に数えられるとは思わなかった。


 ——水無瀬つばさ、17歳。


 マンションの6畳。遮光カーテンの隙間から漏れる薄い光。

 ゲームのバトルに勝った瞬間、親の声が脳裏に響く。

 「役立たず! そんなゲームで何になる!」

 コントローラーが手から滑り、床に落ちる音。

 それが、俺の最後の記憶だった。

 白い光が視界を飲み込み、俺は消えた。


       ***


「……ようこそ、召喚されし星の使者よ」


 目を開けると、目の前に金の冠を戴いた男。

 石造りの広間。壁には星の紋章が輝き、松明の炎が揺れる。

 床には金色の魔法陣。光の粒子が俺を包む。

 空気は重く、肌がピリピリする。


「ここは……どこだ?」


 男の声が響く。


「アストラルド帝国。君たちの言葉で言う、異世界だ。我々は、星の導きにより、救世主の力を持つ者としてあなたを選んだ」


 銀髪の女が男の後ろで俺を睨む。

 「また異世界人か」と呟く声。冷たい視線。

 

 心臓が跳ねる。

 現実じゃ誰も俺を必要としなかった。

 ネット友達にも裏切られ、親にはゴミ扱い。

 なのに、ここでは「選ばれた」と呼ばれている。


 心の奥で、何かが熱くなる。

 でも、本当に、俺でいいのか?


       ***


 その夜、俺は白い石壁の塔に移された。

 窓から見えるのは、星の光が反射する巨大な渓谷。

 銀河が地面に落ちたみたいだ。


 ふと、対岸で小さな光が点滅した。


 6回、短く、ゆっくり。


 「なんだ、あれ……モールス信号みたいだ」


 ゲームで覚えた知識が頭をよぎる。


 仲間? それとも、罠?


 背後で、銀髪の女が低い声で言う。


「ゾルティスの動きに気をつけろ。あの渓谷は、かつて異世界人が灰にした場所だ」


 灰? どういうこと?


 聞き返そうとしたが、彼女はもういなかった。


 静かな渓谷に、ただ夜が満ちていく。



(第1章 第2話に続く)


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