6 アキラ「バンバン」
(6)
地面にボールが突くたびにバンという破裂音と、その中に少しだけ高音のパンという音が尾を引いている。規則正しく地面につかれるバスケットボールは時折激しい躍動を見せ、股下から手のひらを介して額の上へ。そうして放たれるボールは綺麗な孤を描いて、赤いリングに吸い込まれていく。
パッシュ。
省吾の体が着地すると同時に響いたゴールネットの音が、演目を踊り終えたダンサーに贈られる拍手のように竜也には聞こえた。
「っシャア!」
「あーもー。やめだやめ。」
腕までまくったシャツで汗を拭う。激しい心音と、漏れ出る息は白く、荒々しい。
「これで30勝10敗。随分と負けが込んできたんじゃない?」
「普通に無理だろ。現役のバスケ部相手に勝てるとは端から思ってねぇし。」
「元、バスケ部な。」
省吾はそう言って拾い上げたボールを拾ってシュートを放つ。息の上がってる竜也に対して省吾は飄々としていた。パワーも体格もこちらの方が上のはずなのに、どうしたって体の軸がブラされてブロックに飛ぶことが出来ない。
「もう一本だ、もう一本!」
「おお、いいぞぉ。と言いたいとこだけど。今日はここまでだ。」
省吾の示した指の先には俺たちとは違って半袖短パンの集団がこちらの方を窺っていた。
体育館の横に設置された外用のゴールはバスケ部はバスケ部以外でも使うことが出来る。
「省吾先輩こんちわっす。」
省吾と同じぐらいの身長の生徒が出てきていった。
「悪い悪い。もう出るから使っていいぞ。ボールさんきゅうな。」
そう言うと、そいつは頭を下げて、それが合図の様に半袖集団がボール籠を持ってなだれ込んで来る。二人だとだだっ広い空間が一気に窮屈になった。
「出るか。」
「ああ。」そう言ってブレザーとネクタイを掴んで、フェンスを潜った時、ある集団が竜也の前を通り過ぎていった。肩幅も、盛り上がった僧帽筋も、砂まみれの練習着も。全て竜也には見覚えがあった。その中の数人と目が合って、すぐにまた逸らされる。
振り向くと、省吾がこちらを見ていた。
「何してんだ行くぞ。」
省吾が言う。
「いつもいつも高いアイスばっかねだってんじゃねぇよ!」
全く気になっていないと自分を奮い立たせるのだ。それは、酷く子供っぽい。
後、半年もすれば俺たちは子供ではいられなくなると言うのに。