4 アキラ「クラスメート」
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「おはようさん。」
クラスに入ると省吾に声を掛けられた。
学校はもう昼休憩に入っていた。女子は固まって弁当を開けているし、男供はクラスの隅の方で談合でもしているかのように床に輪を作っている。その輪の中から頭一つ分大きい、省吾が立ち上がってこちらにやってくる。
クラスには暖房のために窓を閉め切っているせいか、弁当のおかずの匂いが入り混じって美味しそうを通り越して不快だった。
自然と一同の目がこちらに注がれて、すぐに逸らされる。
ああ、いつもの事か、と。
「うぃー。お疲れさん。」
「お前は何も疲れてないだろ。」
おどけて省吾が言う。
「それもそうだ。…ずっと過去問か?」
その問いに省吾は、「受験組はな」と返した。
12月に入った所から俺たちの授業は受験勉強、と称した高校生活の使い切る為のだけの時間になった。有給消化ってこんな感じなんだろうか。じゃあ、休ませてくれよと言いたいが、出席日数が足りない生徒たちはそうもいかない。そもそも、まだ卒業まで2ヵ月半はあるのだ。皆が各々やることを見つけて時間を潰していた。
このクラスの殆どの生徒はすでに進路を決めている。8割がたの生徒は就職か専門行きだ。
竜也はクラスの中心にある自分の席に近寄っていく。
「よう、小林。おはようさん。」
そう言って、机の上にリュックを投げ置く。ガシャと鈍い音がして、それに驚いたように後ろの席の小林が漫画から顔を上げる。
「おはようって時間じゃないぞぉ、山田。」
気の抜けた声で小林は言う。比較的に身長が高く、筋肉のついた竜也と省吾に対して、小林はひょろっとした体格をしていた。クラスの殆どの男子がクラスの前方角でペンギンみたいにひしめき合って騒がしくする中で、小林はいつも一人でボッチ飯を囲っている。
「なぁに読んでんだよ。」
竜也は小林から漫画を取り上げる。そこには「防御力にごく振りした私が○○で最強になった件」と、見るからにオタク文化満載のタイトルが並んでいた。
「まぁた、お前はこんなんばっか読みやがって。だからモテねぇんだよ。」
「それ、モテてないお前が言うか?」
省吾が茶々を入れてくる。
「えー、おもろいけどなぁ。」
二人が言い争う傍らで、全く気にしていない様子で小林は言った。
この何とも言えない関係は実は俺と省吾からではなく、俺と小林から出来上がった。その小林とも3年になってからの関係なので、まだ、このグループで話すようになって1年と経っていない。経っていないはずなのに、この関係を竜也はずっと一緒にやってきた仲間の様に感じていた。
「そうだ、竜也。今日も帰りやってこうぜ。」
昼休みの終わりを告げるチャイムと共に省吾は言った。
「さみぃって。」
「いいじゃん。いいじゃん。どうせ帰っても勉強なんかしねぇんだろ?」
その言葉に、言い返すことはしない。どうせ帰ってもゲーム三昧だ。
「決まりな。小林はどうする?」
小林はにっこりと微笑んで「寒い。」と言った。