2 更紗「はい、終了。」
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「はい、終了。」
担任の声が合図となって皆が一斉に気を抜くのが分かった。
「じゃあ、ここからの時間は各自自己採点しろ。分からへんとこ会ったらそこは聞いてもらったらいいし。」
弦さんはそう言って「よっこらせっ」っと教卓の後ろに持っていったパイプ椅子に腰を下ろす。男の人は大人になると皆水風船みたいな体になるのかと思ってしまうぐらい、この高校は中年太りの先生が多い。
その言葉を教室の生徒は一体何人が聞いていたんだろうか。次々に今解いた問題の答えなどどうでもいいと言うように生徒たちは次々に口を開く。
「サラーどうだった?」
由奈も同じようで、隣の席から声を掛けられた。
「まぁまぁ、かな?」
「うげ、やっぱ頭いい子は違うねぇ。」
由奈とは同じ女子バスケットボール部だった。公立のよくある普通科高校の私達は別に強くはないけど、弱くもないと言った形で府大会では見事2回線を突破。これはもしかしたらなんて希望を抱いた矢先に3回戦で準優勝校と当たり、ダブルスコアの勝利のしの字も掛からない大敗北を着っして夏に引退した。
「もう12月だよ。」
「あー、それ聞きたくない。」
由奈は勉強が得意じゃない。いつもテスト前日に無理やり暗記出来る範囲を頭に詰め込んでテストに臨むので、点数は悲惨の一言だった。だから、彼女が進学を考えていると聞いた時は皆が驚いていた。
「カラオケ行きたいー。」
「受験終わったらね。」
冬休みが開けたら、すぐに共通テストが控えている。共通テストが終わったら入試まではあっという間だ、と言う先生の話を「いや、言っても約1ヵ月くらいはあるんだけど」なんて思っていたけれど、さっき考えていた事がまた頭に浮かんで億劫な気持ちになる。多分、先生の言っていることは間違いじゃないのだろう。
「はぁー、裕子と美緒が羨ましい。」
「あー。それは何となく分かる。」
裕子と美緒はこれも同じ元、女バスのチームメイトだ。彼女達二人は専門学校志望で、すでに受験を終えている。
「インスタでパンケーキの写真とかめっちゃ流れてくんの。こっちは問題集と単語帳を積み上げてるのに、あっちは甘くて美味しいふっくら生地なんて積み上げちゃってさ。いっそ私もシスタンにシロップぶっかけてやろうかと思ったもん。」
「それは悲惨。」
二人で笑っていると、弦さんが「お前らぁー、もう12月やぞ。」とさっき誰かが言った様な事を言ったので、私も由奈も過去問に向き直った。それでも、教室はムワッとした熱気と学校が終わる高揚感に捕まって、さっきまでの集中で張り付いていた空気には戻らなかった。