1 更紗「シャーペン」
恋愛小説なんて書けるんかいな
(1)
カチカチと電波時計から漏れる音。
B5のルーズリーフの上で踊るシャーペンの先。
少し効きすぎた空調のムワッとした空気を吸い込んで、疲れを訴えてくる脳みそを黙らせるために眉間にキュッと力を込める。
――あと少し。
手元に置かれた分厚い参考書はいつしかカバーが無くなった。そして、知らないうちに角が少し丸くなっている。こうやってボロボロになっていく分、私は堅い勉強と言う立方体から知識を削り取っている、いつかまん丸にしてやると意気込んで。
――いかんいかん。集中集中。
回りからも同じようにカツカツと先っぽの尖ったシャー芯の先を机に向かって打ち付ける音が聞こえてくる。それが聞こえだしたという事は、もう大丈夫。
――油断は禁物。
そンな事を思いながら、更紗は最後の英語文を日本語に訳し終える。フッと視界が広がって、そこには縦列綺麗にそろえられた数字と、その横にアルファベットが文章を形作っていた。音が出ないように更紗は椅子を少しだけ引いて、伸ばしきっていた背中を丸める。
時計を見ると終了までは少し余裕がある。
ふぅ、と息を吐いて窓に視線を向けるとブラインダーの隙間からオレンジ色の光が漏れていた。
朝、この教室に入った時には窓から青い空と少しくすんだ東山が見えたのに、多分帰るころには太陽ではなく月が登っている。
高校3年になって、1日は体感4分の1ぐらいしか無くなった。
もうすぐ冬休みだ。
学校にこなくて良くなる分、私は予備校に通うことになる。毎日着ていく服を選ばなければならない。多分、1日の体感はもっと加速して短くなっていくんだろう。
私は1回ノックしてもう癖になってしまった動きでシャーペンを回す。