第13話「若い時は二度ない」 Bパート
もう14年ほど前になるのかな?
あの時、朱鷺羽総理の言っていた「正しき心を持ち、正義を貫く」の意味が最近ようやっと現実味として理解できてきた気がするよ。
本当に、世の中には超能力者であるなしに関係なく、悪いことをする人がたくさんいるんだ。
だから、あたしたちは正義側のパイオビッカーとして、警察の方と協力しながら結構忙しい毎日を送ってる。
あたしと憩子は真美や愛子と違って今でも独身貴族。
いやいや、貴族っていうような優雅さはまるで無いよ。
忙しさにかまけて男の人と付き合う・・・どころか、出会うヒマさえないんだから。
ううん。別に気にしてないよ、そんなこと。
いやいや、ホントだってば!
あとね、憩子。
この半年くらいで能力が段々弱まってきたって言ってる。
“布”を完全に没収されて、すぐに能力が消えた人や、徐々に消え始めた人、それぞれ違いがあるみたい。
あたし?
あたし雨滝砂姫乃サンはすこぶる快調だよ!
え? その“パイオボイニャーの布”はどうなったかって?
それなんだよねぇ・・・。
実はあたしも知らないんだ。
斑鳩さんも明日花も知らないって。
NASAかどこかの研究所が保管してるんじゃないかな。
何か新しく分かったことがあれば教えてくれるかもね。
えっと、近況だったね。
夜風と豊岡さんは無事に結婚して、やっぱりかかあ天下で仲良くしているみたい。
もちろん今でも同じチームとして一緒に頑張ってるよ。
ただ夜風は能力を使うのをかなりためらってるけどね。
来月に12年目の結婚記念日なんだけど、お祝いは何がいいかなぁ?
明日花は結局、砂歌音お姉ちゃんとあたしの、上のお姉ちゃんにはなってくれなかった。
残念だったけど明日花がよく考えて決めたんだから仕方ないよね。
13年前にナーサとオットモットさんの養女になってから、ずっとアメリカ暮らしをしてる。
・・・でもね。
残念なことに去年の7月、ナーサは亡くなってしまったの。
悲しくてみんな泣いたよ。
話も面白くて頼りになる人だったから。
憧れだったし、あんな気持ちのいい女性になりたいと思うよ。
今でも思い出して寂しくなる時がある。
もう会えないんだなって・・・。
うん。最後に会ったのは去年の今頃だった。
日本の宇宙開発計画の会合に来た時、みんな一緒に温泉旅館に泊まったんだ。
ナーサとみんなとのお泊まり会は2年に1回ぐらいしてたけど、あれが最後になっちゃうなんて・・・。
ご遺体は明日花の能力で小惑星に送られたんだよ。
ナーサが中学生の頃に発見して名前を付けた小惑星なんだって。
驚いたのはね、その1ヶ月あと、オットモットさんもナーサの後を追うように亡くなってしまったこと。
あの人も楽しいおじさんだった。
オットモットさんのご遺体は明日花に託した遺言通り、「ナーサのそばに」行ったんだよ。
続いた不幸にかなり落ち込んでいた明日花も、少しずつ元気を取り戻して、今はアメリカの宇宙局のお仕事を手伝ってる。
うん。ひと月に1度は、日本に帰ってきてくれるよ。
もちろん能力で。
これは飛行機会社には秘密ね。
パパは“布”没収で能力はすぐに消えたって。
どんな能力かは結局教えてくれない。
夜風は「時間と関係ありそう」って推理してた。
でもまぁ、ママとも仲がいいし家族のために頑張ってくれてるし、別に分からなくても、もういいかな。
砂歌音お姉ちゃんは、睡眠時無呼吸症候群が治ったよ、あっさり。
せっちんが能力の日本刀で斬る真似のおまじないをしたら、何故かケロッと治っちゃった。
タカイシ博士は「それもストーン星人の科学力なのかも知れんのぅ」って言ってた。
不思議。
まだまだ謎は多いよ、ストーン科学。
そのせっちんは大きな病院で研修外科医をしてるよ。
あたしはまだ診てもらったことはないけど。
将来は医療過疎地域を巡る外科医になりたいって言ってる。
斑鳩さんは警察を辞めたあと、奥さんと居酒屋をしてる。
あたしはお酒は飲まないけれど、週に1、2回、ご飯をご馳走になりに、あ、いや、顔を出しに行ってるよ。
アインザッツ博士はペニーくんと旅に出たままなんだって。
旅って言うより世界各地をのんびり転々としてるみたい。
ちょっとうらやましいね。
マグマくんが言うには、アインザッツ博士もペニーくんも、オーロラが観たくて今は北欧で暮らしているらしいよ。たまに手紙が来るって。
アインザッツ博士は、ひねもす詩を紡いだりしてるみたい。
それこそ優雅な生活よね。
そうなの! ペニーくんが男の子だったのもビックリだよ!
すっごく可愛らしいんだもの。
成長が停まって子供の姿のままだって言ってたけど、マグマくんの話だからウソっぱちかも。
あぁ・・・、確かに、ペイシェントの影響はあるかもね。
でも動物電話能力はもう10年ほど前に無くなってしまってるって。
一子さんと梅子さんも、もうパイオビッカーじゃなくなったらしいけど、アインザッツ屋敷を拠点に、何か農産物を通信販売してる。
ファイファイさんもアルバイトで一緒に働いてるって。
結構忙しいみたい。
よくケンカしてる印象だけど仲いいよね、あの3人。
マグマくんは5年前にお祖父ちゃんを亡くしてから能力も消えちゃって、今は配達のお仕事をしてる。
外回りしてるからこうやって色んな情報を仕入れて話してくれるけど、やっぱり声は変わらず大きい。
鳥男の鳥羽上飛世児は、出所した次の年・・・一昨年なんだけど、焼き鳥屋「飛世児」を始めたけど2ヶ月で潰れた。
時々、大男イワシ君のことを思い出して公園に行くんだよ。
そうすると、だいたい誰かが青い花束を飾ってる。
迷惑で困った敵だったけど、何かしら思うところはあるのね、みんな。
この前は、久しぶりにあの時の警察官のお2人とバッタリ会った。
お元気そうでなによりだよ。
初穂たんは唯一無二のパイオビッカー・サーカス団の花形スター。
いつも世界中を飛び回ってるよ。
あたしの知ってる近況はそれぐらいかな。
あ。そうそう。そうだそうだ。肝心なお話が抜けてた。
13年・・・12年ほど前だったかな?
パイオビッカー全員が呼び出されたことがあったんだ。
あの時は全員。
牢屋の中のパイオビッカーも。
世界中のパイオビッカーがアメリカに大集合、全員だよ。
総勢62名だったかなぁ。
それで新感情感知システムを囲んで、パイオビッカー全員が能力を発動させてみようってアイディアを実行してみたんだよ。
パイオビッカー自身が送信者なのかもって仮説があって。
でね。
そうしてみたらね・・・何も起こらなかった。
やっぱりメッセージにあった通り、地球人が新たな感情に目覚めないとダメなんだよ。
今は1994年5月だから、ストーン星人のメッセージ公表からもう13年半も経ったよ。
そうなんだよね。
未だに地球人には新しい感情が芽生えてない。
ストーン星人の科学はもう諦めるしかないのかな?
砂漠の真ん中のレーダーが、ぽつんと寂しそうだよ・・・。
でも、「地球人は宇宙にひとりぼっちじゃない」という事実がハッキリしたんだよね。
今回のパイオボイニャー1号の一連の騒動は、その点だけでも十二分に意味があった。
あたしはそう思う。
もちろん、居るのに会えない寂しさはあるよ。
遠い遠い距離がもどかしいね。
うん。それじゃ。これで。
・・・そうだね。
きっとまた明日も、あたしたちは正しい心で正義を貫き、悪い人と戦うよ。
世界に本当の平和が来ますようにって、願ってね。
「至急応援お願いしますッ! パイオビッカーなので警察じゃ敵いませんッ!」
「知らぬ存ぜぬ誰かのクシャミ、聴かば怪腕ナンバーワン!」
「うなる一閃、打撃羽根! たたく乙女の尿意棒!」