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第17話 狂気の男

「遂に、遂に、舞台の準備の完成が目前に迫ったぞ!! 何年かかっただろうか! 数年、数十年、数百年、いや、それ以上だ! 私が携わったのは数千年だが、ご主人様(マスター)の計画開始からはそれ以上の時間がかかった! それが、それが、遂に!」


 ここはどこかにある城。その頂上にいる黒髪の男は、狂気じみた表情を浮かべながらその紅く輝く瞳で空を見上げていた。


「後は代行者エィジェント様にこの旨を伝え、動いてもらうだけだ! それで、遂に、遂に、始まる! ご主人様(マスター)が望んだ物語が!!」


 男は興奮のあまり、城の頂上から()()()()()。普通の人物なら地面に接触した時、簡単に潰れて命を失ってしまうが、彼は違う。


 地面まで残り数mという所で男の落下が止まった。辺りには誰もいないのに、男は誰かに語るように叫ぶ。


Dis(ディス)-initium(イニティウム)-finis(フィーニス)- 0(ゼロ) luna(ルナ)- abyssus(アビュッスス)-1(ファースト)が織り成す壮大な物語が! 矮小なる存在がご主人様(マスター)に挑む物語が! 幕を開ける時が来た!」


 ……いや、独り言かもしれない。きっと大きな独り言だろう。


ご主人様(マスター)がここまで力を入れたのは、私が知る限りはこれを入れて3回しかない! そんな貴重なことに携わることができるなんて私はどれほど幸福なのだろう……!」


 男が宙に浮かび上がった……と思ったら、玉座の間にいた。信じられない光景だ。瞬間移動をしたようにしか見えない。


 その時だった。


「いってぇ……ってここはどこだ!?」


 何もない空間から茶髪の筋肉質な男が転がり込んできたように現れた。だが、黒髪の男はそのことを微塵も気にする様子はない。


「早く代行者エィジェント様に伝えなければ! この物語の顛末てんまつをできるだけ早く見届けたい!」


「おい、お前。ここはどこだ?」


 茶髪の男が問いかけるも、黒髪の男はそれを無視……というか聞こえていないようだった。


「テメェッ! この俺様が尋ねてやっているというのに答えないとは!」


 そこでやっと黒髪の男は反応した。


五月蝿うるさいぞ。汚らわしい小蝿如きが……おっと、蝿の話をするのはNGだったな」


 鋭い目つきで睨んだと思ったら、再び背を向ける黒髪の男。それに激怒したのは当然、茶髪の男だった。


「テメェ! 無視するなって言ってんだろうが!」


 茶髪の男は剣を抜き、黒髪の男に向かって振り下ろした。


 った! そう思い、勝利を確信した茶髪の男だったが、黒髪の男はそこにいなかった。


五月蝿うるさいと言っているだろうが、小僧」


 後ろから先ほどの声とは全く違う、低くてよく響く声が聞こえる。


「死ね」


 紅い瞳で睨み、そう呟いた瞬間。


 茶髪の男は一言も発する暇なく細切れになり、散っていった。


「ったく。最近は俺を怒らせるとこうなるって分からねぇ馬鹿が多いな。処理も疲れるし、折角上がってた気分が下がって最悪だよ。仕方ない……アイツのところに行ってから代行者エィジェント様に報告しよう」


 黒髪の男は宙に浮くと、瞬く間に玉座の間を去った。


 ……この一連を()()見ていた者は、誰一人としていない。


   ***


「疲れたな……」


 夕食中にそう呟くソルデウス。


「ソルデウスは模擬試験だったもんな。僕は受けてないから内容は分からないから訊くけど、難しかったのか?」


「難しいというより量が多かったな……。俺は勉強より運動や戦闘がしたい」


 気づいたらソルデウスと普通に会話できるようになっていたので、模擬試験について会話する。


「お前は文字の勉強をしたんだろ? まだ文字の読み書きができないなんて先が思いやられる」


「一応少しだけなら読めるようになったぞ?」


「マジか! 早すぎだろ……」


 他愛もない会話を繰り広げる僕とソルデウス……ってどうしてこんなに会話ができるようになったのだろう? 不思議なものだ。


「明日は叔父さんとの訓練だからな。楽しみ……いや、前言撤回だ。全然楽しみじゃない」


 急に顔を青くして震え出すソルデウス。説明会の時も同じようになっていたな。


「レイ。明日のために心構えを作っていた方がいいぞ。覚悟がないと冗談抜きで死ぬ」


 今不穏な言葉が聞こえてきたな……。そんなにティグリスの訓練は厳しいものなのか?




 この時の僕は分かっていなかった。ソルデウスの言ったことが嘘ではないということを。

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