第3話 大きなミス
やっと水が飲める。川を見たときにそう思った。僕は走って川に向かう。ああ、走ったのはいつぶりだろう。……走った記憶は残っていないが。
川と関係ないことを考えながら進んでいき、あと少しで水にありつける、というところで唐突に身体の動きが鈍り、体勢を崩す。
「うわっ!危なかった……」
危うく転ぶところだったが、体勢を立て直すことに成功した。……と思ったが、完全に立て直せず、地面に倒れ込んでしまった。ふう、受け身を取らなかったら怪我をしていたところだったぞ。
あれ?何だか怠くて、身体もうまく動かせないし、気分が悪い。その上、目の前に川があるのに飲めないだと……!これは新手の拷問か……?
僕は早急に起き上がろうとする。しかし、身体に力が満足に入らなかった。
そもそも、何故川に近づいたときに身体の動きが鈍ったのだろう。やはり脱水症状だろうか。これ以外に思い当たる節がない。
それはさておき、この状況を打破する方法を探さなければ……。早くしないと干からびてしまう。
僕は這いつくばったまま進むことにした。力があまり入らないが、少しずつ進んでいるのがわかる。
「あと少し……!」
あと少しで水が飲めそうだ。僕は逸る気持ちを行動力に変えて進む。
……そして遂に川に到着した。川を見つけてからここまで数十分掛かった気がする。実際は1、2分ほどだろうが。
僕は手を出して水を掬う。……ことができなかった。水を飲める、ということに安心して脱力してしまったのだ。
……仕方ない。川に口を直接つけて飲もう。僕はそうして水を飲んだ。そのときにさらに力が抜けたが、気に留めなかった。
「……」
久しぶりに飲んだ水は言葉で表せないほど美味しかった。
しかし、このとき僕は水を飲むことだけしか頭になかったので、力が抜けた理由も、大きなミスを犯していたことにも気づかなかった。
「ふぅ。助かった」
水を飲み終えた僕は這いつくばったままで、これからどうするか考える。
「やはり、この水を持っていきたいな。……でも、どうやって水を保管するかが問題だな」
しかし、残念ながら現在は水が入れられる物はない。結局、水を諦めるしかなかった。
水の件は置いておいて、どこに行くか考えないとな。水や食料が確実に手に入る場所がいい。
そう考えていたら、お腹が減ってきた。……どこに行くかは、食料を入手してから考えるとしよう。
早速、食料探しを始める。まずは、木の実がなっていないか確認するために上空を見上げた。
木の葉が完全に日を遮っているからか、現在は薄暗い。なので、木に実がなっているのか見えづらい。だから目を凝らして見てみると、木の実はなっていなかった。
ここら辺には木の実がなっていないのか……。
森を探索していたときに生き物には遭遇しなかったし、川には魚がいないし、木には実がなっていない。
状況を簡潔にまとめてみると、「絶望」の二文字が頭に浮かぶ。
……これって、僕の人生詰んでる?
そう思うほど現在の状況は悪かった。川があるから水はなんとかなるけど、食料がないなら20日も生きられない。
いや、20日もあれば食料が見つかるはずだ。今は諦めるときではない。
……このとき、「まだ生きたい」と僕は思ったが、心のどこかで「早く死んでしまいたい」と思っている俺がいた。
食料を探して始めてから数十分ほど経った頃。僕の身体に異変が起きていた。……お腹が痛い。そう思った時には手遅れだった。
僕のお腹が激痛を訴えている。痛みには慣れているが、痛いものは痛い。
どうしてこうなった……!?原因を考えてみたら、心当たりが一つあった。
川の水だ!
川の水は一見すると清潔に見えるが、菌が潜んでいる可能性がある。なので、煮沸してから飲むのが正解だ。
しかし、あのときの僕は水を飲むことだけしか頭になかったので、煮沸せずにそのまま飲んでしまっていたのだ。
腹痛のせいで、食料探しは中断されることになった。
皆さんは零(主人公)の力が抜けた本当の理由がわかりましたか?
理由は後ほど明かされます!