第9話 迫り来る復活の刻
ティグリスが『深淵の魔女』の話をすると、急にレイ君がふらつき始め、そのまま床に倒れ込んだ。
……ティグリスが私も知らない情報を知っていることが気になるが、それは後で問い詰めよう。今はレイ君のことを優先する。
「あれ? なんか悪寒みたいなものが……」
少し顔を青くしているティグリスを無視し、レイ君の身体を抱える。
「俺はこのまま客室へ向かう。ティグリスはあの方に報告をしてほしい」
「りょーかいっ。じゃあ、また後でね」
そう言い、玄関の扉を開けて家の外へ出ていくティグリス。報告は手間がかかるが、わざわざ外出する必要はない。それなのに外へ行くティグリスを不審に思いながらも、レイ君を客質まで連れていく。
客室の扉を開け、奥にある寝台に横たわらせる。私はそれから、レイ君が起きたときのために食事を作り、水と共に机の上に置いた。
横たわったレイ君の姿を見て、好機だと思った私はある行動にでる。
「気を失っているうちに見ておくか……『分析』」
『分析』は対象に使用すると詳細やステータスを見ることができるスキルだ。尚、対象に該当するのは基本的に植物以外の生物だけである。
13歳未満の者はステータスがまだ存在しないので、今回は年齢などについてを知るために使う。
『分析中……エラー発生。正確に分析することができませんでした。それを考慮した上で表示しますか?』
エラーだと?
今までほとんど発生したことがないエラーが発生したことに驚いたが、見ることには変わりない。
『それでは表示します』
―――――――――
基本情報:レイ 男 12歳
人種:“error”
種族:“error”
位階:“error”
LV:“error”
MP :“error”
筋力:“error”
耐久:“error”
魔力:“error”
魔耐:“error”
敏捷:“error”
持久:“error”
器用:“error”
幸運:“error”
ステータスポイント:“error”
スキルポイント:“error”
ユニークスキル:“error”
スキル:“error”
魔法:“error”
称号:“error”
〈備考〉
汝はこの世で最も強いお方を知っているか?
―――――――――
「……」
……ありえない! 何故ステータスを授かっているのだ!?
この歳でステータスを授かっている者なんていない。なぜなら、洗礼を受けないとステータス――恩恵を授かることができないからだ。
その洗礼は13歳になると強制的に受けられる。ちなみに、13歳未満の者は受けることができない。年齢は人が判断するものではなく、神が判断するので、13歳未満の者が洗礼を受けようとしてもできないのだ。
それなのに、レイ君はステータスを授かっている。これは異例の事態だ。
「私からもあの方に報告しておこう……」
謎の備考も含め、全てをあの方に報告するために執務室へと向かった。
***
『ステータスのアップデートを開始します。終了するまで、しばらくお待ちください』
『……アップデート中……』
『アップデートが終了したことにより、情報を更新しました』
『新たな機能が追加されました』
『「管理者」のlvが2になりました』
『複数の機能が使用可能になりました』
***
「支配者、『例の計画』の進行はどうだ?」
銀色に輝く椅子に座りフードがついた漆黒のケープコートを着用した長身の男が、「支配者」に問いかける。
「私達は大丈夫です、代行者様。先ほどに『例の計画』のパート1を実施し、成功を収めることができました」
「そうか。引き続きよろしく頼む」
男――代行者はそう言い席を立つ。窓際に行き、暗闇に染まった空を見上げながら主人の復活の刻を希った。
「我々は命に代えてもご主人様の復活を成し遂げます。どうか、お見守りください」
その時に代行者の頭に浮かんだのは、微かに紫紺の輝きを放つ漆黒の鎌だっ
た――。
***
目が覚めると、視界に入ったのは見知らぬ天井だった。僕は周りを見渡そうとしたが、身体が全く言うことを聞かない。
意識はあるのに身体が動かない現象を「金縛り」というらしいが、これはどうにも違う気がする。
……まるで、僕が僕ではなくなったような、そんな感じ――。
===
その現象は数分後に収まり、僕は動けるようになった。
改めて辺りを見渡すと、近くにある机の上に硬そうなパンと質素なシチューのようなもの、水が入ったコップが置いてあるのが目に入る。
これは食べても良いのだろうか? 毒が混入しているかもしれないのでやめた方が……。
『食べようぜ。もう限界なんだろう?』
……気づいた時に机の上にあったのは、何も入っていない木の皿と木のコップだった。