閑話Ⅰ エボニー?視点「暴走する感情」
倒れた少年を見つめていると、幸せだった頃と幸せが崩れた「あの時」がフラッシュバックした。
幸せを崩したのはこの少年ではない。だが、あの少年を彷彿とさせる容姿のせいか、怒りが芽生えてくる。
……完全な八つ当たり。そうと自覚するも怒りの矛を収めるこてができない。
むしろ、どんどんと怒りが湧いてくる。制御しきれないほどの怒りが。負の感情が。
私が私でなくなった気がするぐらいの激情、憤りを感じる。
「少年の死を見届けよう」という気持ちが、今すぐにぶっ飛ばしたいという気持ちに変化する。
――憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ憎イ殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス――
怒り狂い燃える感情 其れに我は支配され 新たなる強さと引き換えに
一時に理性 そして一片の記憶 其れらを失う
捧げよ 我らが王に 献げよ 王の主に
*
「グゥゥァァァァァッ‼︎ガルルルルゥ!」
熊は唐突に咆哮し、零の胴体を己の巨大な腕で掴み上げる。そのままグルグルと腕を回し、上空に放り投げた。
その直後に高く跳び上がり、バレーボールでスパイクを打つようにして零を地面に叩きつける……ということはせずに、数十メートルほど離れたところにある川の方へ吹っ飛ばす。
川に無事(?)着水したものの、流されていく零。その様子を熊は静かに眺めていた。
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――零を殺すためなら、上空に放り投げた時に地面に叩きつければよかったこと。また、放り投げずにその場で潰すという手もあっただろう。
川に流すのではそれらよりも殺傷能力が劣る。
なのに川へ吹っ飛ばしたのは理由があるのか、それとも何も考えていなかったのか。それは熊にしか分からない……?
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何故あの少年の姿が見えぬのだ?
私はあの少年に致命傷を与えたはずであり、それに加えて意識も失っていた。そのような状態で自力で逃走することなどできはしない。
……それなら第三者が関わった可能性が高いと見るべきか。
しかし、私が目を離した刹那の隙に第三者が干渉するのは非常に難しいだろう。
ならば何が……!
そう考えた時、私は底知れぬ『ナニカ』の存在に気がつく。その『ナニカ』はこれ以上関わるなと警告をしているように感じた。
……一体、何が起きているというのだ!?
*
紅い月と煌めく星々が黒と赤の立派な城を照らす。その城の頂上には一つの影があった。
「ここで彼を殺すのはもったいないよね。もっと踊ってほしいしなぁ」
その影の正体は、不適な笑みを浮かべた■■の■■だった。
これは零が意識を失った後の出来事です。何やら不穏な気配がします……!