第20話 絶望との邂逅
ホーンラビットの血を吸い尽くしてしまったので「吸血」をやめる。当然、ホーンラビットは力尽きていた。
「吸血」の確認が終わったし、次にすることは称号について調べるか、LV上げをするかの二択だな。どちらにしよう?
これからのことを考えていると、アドミンの声が聞こえた。
『n.bに通知が届いています』
通知?何の通知が届いているのだろう?……いや、これは届いた通知を確認すれば分かることか。
そう考えたのでn.bを開こうとしたが……
「……n.bの開き方がわからん」
訊くのを後回しにしていたので開き方が分からない。とは言っても、アドミンに訊けば解決すること。
……アドミンに頼りきっているのは気のせいだろう。
『n.bを開くには呪文を詠唱する必要があります。その呪文は以下の通りです。
「管理を命じられし者 汝が飼う白い鳥 其れは羽ばたき我の許へ
“報じろ―― open notification box”」
尚、閉じる場合には、「“close notification box”」と唱えてください』
やはり変な詠唱文だな。通知に関係ないような言葉しかない。
……誰が詠唱文を作成したのかが気になる。意味も伝えたいこともわからないし、詠唱が必要な理由も不明だ。
詠唱文にある「管理を命じられし者」は「管理者」、つまりアドミンのことか?そうだとしたらアドミンが飼う白い鳥の意味が思い当たらない。しかし、この白い鳥が意味していることが判明しないとこの詠唱文の意味は謎のまま。
……考えてみても結局は判然としなかった。……って今はそんなことを考えている場合ではない。呪文を唱えないと。
「管理を命じられし者 汝が飼う白い鳥 其れは羽ばたき我の許へ
“報じろ―― open notification box”」
すると、翠色に輝く粒子と共に神導書が出現し、自動でパラパラとページが捲られた。
*
『トメルディホーンラビットを討伐しました』
『経験値を5獲得しました』
*
今回倒したホーンラビットは、以前倒したホーンラビットとは違うようだ。名前は「トメルディホーンラビット」。日本語に訳すと「臆病角兎」だ。
そして違うのは名前だけではない。獲得経験値も違う。
ただの「ホーンラビット」の獲得経験値は1で、「トメルディホーンラビット」の獲得経験値は5。
明らかに後者の方が獲得経験値が多い。5倍も開きがあるのだ。経験値のことだけを考えて狩りをするのなら、大抵の人はホーンラビットよりトメルディホーンラビットを選ぶだろう。
いい情報を得たな。これからは獲得経験値のことを考えて狩りをするならば、「ホーンラビットでななくトメルディホーンラビットを狩る」ということと、「動物を倒したときと経験値を得たときはn.bで知らせてくれる」ということを覚えておこう。
「“close notification box”」
確認を終えたのでn.bを閉じた。……今更だが、n.bは神導書の機能の一部なんだな。ステータスを確認するときはn.bを開くことができるのか?
『残念ながら、まだステータスを確認するときにn.bを開く、またはn.bを開くときにステータスを確認する、ということはできません』
僕が直接訊かなくてもアドミンが教えてくれた。相変わらずの有能ぶりである。
……n.bのことも終わったし、称号について調べるか(称号かLV上げの二択で称号を選んだ)。
「なあ、アドミン。称号につ「ガサガサッ」――」
背後にある茂みから音が聞こえてきたので質問を中断し、音が聞こえた方を向いて身構える。俺は内心で冷や汗をかいた。
一体何が出でくるのだ……。
僕は構えを保ちつつゆっくりと後退する。茂みとの距離が10mほど開いた(初めは5mほど開いていた)時、それは姿を現した。
体の色は黒く、爛々とした紅の瞳が特徴的。そして4.5m以上の体長に足が3対(6本)あり、鋭い爪が生えている――熊。
……僕は再び「熊」に邂逅してしまったようだ。
*
あの熊に再び邂逅した時、零の止まった歯車は少しずつ動いていき、レイの心は烈しく燃える――
ここから第一章完結まで突き進んでいきます!