23 強襲上陸部隊の五行鬼たち
「一機撃墜。この地に墜落しつつあります」
「アドナーンだろうか、クラウディアか?」
火炎族オロチ・コアムイとケンラルド・コアムイが会話をしながら、墜落したと思われるオアハカの谷へと、五行鬼部隊の先頭を走っていた。
「そうか、クラウディアを捕捉できるといいな。いい機会だ」
「願わくは、クラウディア。だが、アドナーンでもよい。彼を餌にして彼女を捕捉できるかもしれないからな」
木精族ドラウグル・ミルシテインとインドレイ・キーンは意味深な指摘をした。その不思議な指摘に先行する土塊族デラウドロ・ケンコロラルーとぺリアルドン・ケンコロラルーが振り向いた。
「どういう意味か?」
「どちらも利用価値があるからなあ」
あまり深く考えない水明族ベドラン・エカンドロとパメラ・エカンドロが大声を上げた。
墜落した飛翔体は、谷からそびえたつ山体の上部に突き刺さっていた。既にコックピットはすでにもぬけの殻であり、飛翔体を再び飛ばすためのシステムはすでに作動を止めていた。
そして、その上空には二機目の飛翔体が飛来していた。
「アード! アドナーン! 返事をして!」
「ディア、あそこにアドナーン機が墜落している。すでに無人だな」
「アドは脱出したのかしら」
「敵兵たちが既に押し寄せてきている」
「それなら、この機体で攻撃を.......」
「いや駄目だ。アドナーンにも攻撃が当たってしまう」
「じゃあ地上戦ね。頂上に着陸させて。そこから私が一気に敵兵を撃破できる」
「ディア、無謀だよ。援軍を待った方がいい」
「でも、今アドナーンを助け出せるかもしれないのよ。それに、もし彼だけが捕まったら、彼には耐えられないわ。だからいまは、降り立って彼を助けないと.....」
「わかった。じゃあ僕はどうすればいい?」
「あれほどの人数では、私とアドが捕まるかもしれない。いまから援軍を呼んでくれれば、何とか間に合うかもしれないわ」
クラウディアは、飛翔体の操縦をナサナエルに任せると、地上に飛び降り、谷へ落ち込んでいく崖を、駆け上ってくる敵五行鬼部隊めがけて一気に駆け下りていった。
五行鬼部隊が目前に迫った時、クラウディアは大声を上げた。
「アード!」
すると、敵部隊の通り過ぎた岩陰からアドナーンが飛び出し、敵五行鬼部隊の殿を急襲した。一瞬にして彼の打撃は十人を一瞬にして倒していた。だが、前方に展開していた五行鬼たちももまた反射的に体勢を整えていた。上空から戦況を眺めつつ、ナサナエルはタエ司令官に助けを求めた。
「オアハカの谷あいにて、ディアとアドが敵の軍勢と地上戦になっています。このままでは彼らが危ない」
「ほお、挟撃するつもりかね」
オロチ・コアムイとケンラルド・コアムイがそう大声を上げると、それがきっかけになって全ての指揮官たちが霊剣操を詠唱し始めた。
「霊剣操なら対抗できるね」
アドナーンはそう言いつつ、自らも霊剣操を詠唱すると、彼らの銃剣や全ての武器が宙に舞いあがり、乱雑で盲目的な飛翔をし始めていた。すると、クラウディアとアドナーンは五行鬼たちと間で体術による格闘戦を始めた。
五行鬼たちは三メートルを優に超す巨体であり、アドナーンもクラウディアもまるで幼い子供のように見えた。二人は巧妙に五行鬼たちの腕や蹴りを巧みにかわしつつ、懐に入り込んでは打撃を与え、逃げ続けた。さらに、二人は合流して背中合わせに構え、まるで互いに後ろに目があるようにして次々に五行鬼を倒し続けた。それでも結局、彼らは五行鬼たちの巨体に囲まれて捕らえられてしまった。
「お前たち二人ともとらえることができるとは思っていなかったぞ」
火炎族指揮官のケンラルド・コアムイが、後ろ手に縛られた二人を睥睨しながら嘲るように言い放った。木精族の共同指揮官のドラウグル・ミルシテインとインドレイ・キーンもまた、ケンラルドの言葉に同意した。
「そうだな。クラウディアは、『これからこの大地は僕たちのものだ』と言っていた。彼女の言った言葉と心は、僕たちの未来への象徴だ。利用というよりは、象徴とさせてもらおう」
「象徴だと? なんだそれは? 象徴ってなんだよ?」
火炎族のオロチ・コアムイは、困惑した顔で木精族の二人を見つめた。火炎族より少々知恵のおとる土塊族の指揮官デラウドロ・ケンコロラルーとぺリアルドン・ケンコロラルーや水明族指揮官のベドラン・エカンドロとパメラ・エカンドロも、同感という顔をしていた。
彼らのやり取りを聞いていたアドナーンはチャンスだと考え、急いで考えをまとめ始めた。彼らの謀議中であるにもかかわらず、火炎族のケンラルドとオロチの二人が、嫌がるクラウディアを撫でまわし始めていたからだった。
「互いに十分に戦い、僕たち二人は負け、このように捕らえられました。もはや、僕と彼女はあなた方に敵対しえないことは明らかなのでしょう。そのうえ、僕たち二人に利用価値がある、とあんた方は言ってくださった。私たちの思いを知ってくだされば、もっと利用できるとお考えになるでしょう」
「ほお、どんなことだ」
木精族のドラウグルがそう答えた時、火炎族のケンラルドとオロチとは、後ろで抵抗できないクラウディアを抱え上げてひどい扱いをし始めていた。それを木精族の指揮官インドレイがたしなめた。
「おい、ケンラルドとオロチ。二人でその女を撫でまわすな! 我々は謀議中なんだろ、まじめに集中しろ」
「うるさいなあ。ドラウグルもインドレイも...... 木精族だから少しばかり智慧が回ると言って、威張るなよ」
オロチの言葉にインドレイが反応した。
「威張るな、と言ったのか。そうか、あんたはそれほど知恵が回るんだな。では、木精族はお前たちを助けないぞ。まあせいぜいぶちのめされるなよ」
アドナーンの狙い通り、五行鬼たちの間に不協和音が響き始めていた。ここに、クラウディアの反撃が加われば、逃げ出すチャンスも生まれる......。そう、アドナーンが思った時だった。
「待て。何をもめているのだ」
その声は、二人を捕縛したことを聞いて駆けつけて来た強襲上陸艦隊司令の林聖煕だった。オロチ達がそれに気を取られたとき、オロチ達がクラウディアから視線を逸らすと、クラウディアは瞬時にオロチ達に鋭い頭突きと蹴りを入れて倒していた。ただ、クラウディアの体は、インドレイの両手に抱えられており、逃げ出す隙は無かった。
「ほうれ、言ったこっちゃない。それに司令官の前でのふざけが過ぎるんだ」
インドレイが指摘すると、林聖煕司令長官はのびているオロチとケンラルドを蹴飛ばして目覚めさせ、たしなめていた。
「オロチとケンラルド! 何をしている。アドナーンとクラウディアは大事な捕虜だ。これから尋問もするし、利用価値もある。勝手なことはするなよ」
この後、アドナーンとクラウディアは上陸強襲艦旗艦に収容され、連れ去られてしまった。
「タエ司令官、アドとディアが捕らえられてしまいました。二人は別の場所へ護送されるようです。今後はなんとか、工作部隊によって彼らを救出してください。お願いします......それから、残存部隊はどうやらくまなく調査をしているようです。彼らは大人数でオアハカのわが軍の廃墟に入り込み、または近辺一帯に展開しています」
ナサナエルは、戦況が変わったことを報告すると、飛翔体を海底都市へと向かわせた。
「わかった。ヤザンたちを向かわせよう」
タエ司令官の返答を聞いたヤザンは、少しばかり考察をした。
「すべての五行鬼たちがオアハカに集中している。この時は願ってもない撃滅のチャンスだ。できるだけ大ぜいを上陸させろ。僕とナサナエルを生かすいい機会だな」
ヤザンはそう言いつつ、エレベータを使うのではなく、ナサナエルとともに飛翔体によって海中から2日ほどかけてゆっくりオアハカの島の上に上陸した。その地上には、地上に廃墟として残されていた連邦軍施設を調査する帝国軍地上部隊の大部隊がオアハカの丘ばかりでなく、周辺の山岳地域、街や村に入り込んでいた。
ヤザンとナサナエルは、夜に気づかれないように移動した。だが、ナサナエルが五行鬼の近くにいることは、五行鬼たちに移動する力を与えることであり、ナサナエルが近くにいることを暴露しかねない危険性もあった。
「帝国戦士のあんたたちも来たのか?」
「五行鬼たちによれば、アドナーンとクラウディアを捕らえた後であれば、僕たち帝国戦士でも大丈夫だろうと考えたんだろうかね。そもそも、あんたたち老アサシンだけでは、調査に支障があるんだろう。だから、若い僕たち帝国戦士が来たのさ」
会話を交わしているのは、老アサシンと無名の帝国戦士だった。
「この地上施設の調査結果によって彼らの探知技術を明らかにするつもりなんだろ」
「そう、だから、明日からは地下施設に何とか入り込もうと考えている。上層部の考えでは、どこかに純水の満たされた巨大なセルがあるはずだということだ」
これを聞いたヤザンたちは、偽装工作とブービートラップとを仕掛けることにした。彼らは、地下施設に海水を満たしつつ、偽の操作説明書を作成した。さらに、それらの周辺の施設廃墟には大規模な爆薬を配置した。
数日後、ヤザンはナサナエルとともにアドナーンの残した飛翔体付近に陣取り、二機の飛翔体の中から帝国側の動きを観察していた。帝国側は、ようやく地上施設から地下施設へ入り込んでいく通路を発掘した。彼らは、照明の無い中へと慎重に入り込んでいった。そこに巨大な地下施設を発見すると、彼らは周辺の友軍を狩りだし、多くの五行鬼たちが入り込み始めていた。
「奴らがナサナエルの念波によってミトコンドリアを活性化しているなら、ナサナエルが海深く沈んだ時、彼らは動きを失うに違いない。それが僕たちにとっての唯一の最大の逆襲の機会だ」
ヤザンは、ナサナエルを飛翔体に乗せて海底へ退避させた。これによって、一帯の五行鬼たちは全てが動きを封じられてしまった。ヤザンは、暗闇の海中から閉鎖されていた水路を通って、オアハカの最下層の秘密の通路に入り込んだ。電源を喪失した要塞廃墟は暗闇に閉ざされており、動けなくなった五行鬼たちの気配は感じられたものの、動きは一切感じられなかった。彼は、そのまま暗闇にまぎれて五行鬼たちを探した。要塞内部に入り込んだ五行鬼たちや、周辺に展開していた五行鬼たちを皆殺しにするためだった。
すでに、五行鬼たちは要塞内部に深く入り込んでいた。倒れこんでいる五行鬼たちは、漆黒の中に目だけを光らせており、発見することは難しくなかった。また、彼らは、五行鬼であるゆえ3.5メートルの怪物であり、横倒しの時の肩幅はヤザンの方の高さほどであった。それでも、動かない彼らは、ヤザンにとって仕留めることは容易な仕事だった。
こうして、ヤザンは要塞内部で五行鬼たちを静かにせん滅した。そして、要塞の外が夜の闇に覆われていることを確認すると、次の段階として、オアハカの要塞周囲の五行鬼たちを探し始めた。
ジャングルは漆黒の闇に埋まり、星明りさえもヤザンの足元をわずかに照らすだけだった。だが、ヤザンはついに倒れこんでいる鬼たちを発見した。そして、その足音に五行鬼たちも気づき、ゆっくりとヤザンを見上げていた。
「お、お前は人間。何しに来た? そうか、確かめに来たんだな。そしてついでに殺しに来たのか?」
木精族のインドレイが顔だけをヤザンに向けて、小さい声を出した。ヤザンはその反応に少しばかり違和感を感じた。
「煬帝国の兵士たちよ、あんたたちは全てここで死んでもらう」
「そ、そうか。僕たちを動けないように罠に嵌めたんだな」
木精族のドラウグルがヤザンを見上げて淡々と指摘した。だが、罠であると認識しているのは、どうやらインドレイとドラウグルの二人だけのようだった。その認識が、ヤザンをためらわせた。
「へえ、罠であることを認識したのか。そんな知恵があんた達木精族にはあるのか」
ヤザンはそう言うと、目の前の二人の木精族を手にかけることができなくなった。そのすきをついて、インドレイが緊急信号を発していた。
「何、五行鬼たちが動けなくなったというのか」
旗艦の林聖煕艦隊司令官が突然のことに戸惑った。周囲の袁元洪やチャチャイ・チャイヤサーン、ラシュ・ボースたちもまた言葉を失っていた。
「まさか、月のナサナエルがいなくなったのか」
「康煕アーレス総督を呼び出せ」
「応答がありません」
「なに?」
「ナサナエルが奪われたのかもしれません」
「ガンマ線バーストの後も五行鬼たちは動けていたではないか。ナサナエルの念波が存在すれば、結界があったはずだ。つまりガンマ線バーストの間も康煕アーレス総督は生きていたはずであり、その間ナサナエルを月面に拘束できていたと思っていたんだが......」
「では、まさか? 月面の基地は全てがが壊滅していた? では、ナサナエルはどうしていたのだ?」
「誰が? いつ? そしてナサナエルはどこへ行ったというのか?」
彼らは応えの無い問いかけと堂々巡りの議論を繰り返していた。そこに、ビルシャナが声をかけて来た。
「何を騒いでおるか?」
「ビルシャナ様、オアハカ周囲に上陸させた五行鬼部隊が全て動きを止めています」
「ナサナエルは奪われていたのだろう。まあ良い、少し待て。私が部隊を元気づけてやろう」
すると、ビルシャナがナサナエル以上に強い念波を彼らに送ったことにより、間もなく五行鬼たちは再び起き上がり始めた。
「彼らはまた元気になっただろう! どうだ?」
ビルシャナは不気味微笑みを見せながらそう言いつつ自室に戻っていた。一斉に起き上がった五行鬼たちの様子をみた艦隊司令官などは、一様に息をのんだ。
地上では、ヤザンが周囲の五行鬼たちが動き始めたことに気づいた。
「な、なぜだ? そうか、別の誰かが念波を供給し始めたのだろう。それならば、せめてこのあたりの五行鬼たちを皆殺しにしてくれる!」
ヤザンはすぐに霊刀操によって、背中に掲げていた真刀と、右手に覚えた空刀とを構えると、怒りの形相をしたまま周囲のすべての五行鬼たちや森林のすべてを薙ぎ払っていた。その時の彼はまるで仁王の様な形相であり、彼の足元には、インドレイとドラウグルとが大きい体を震えながらヤザンの姿を見上げていた。それはまるで、仁王と彼に踏まれている鬼たちの様な姿だった。
その後、ヤザンは、一帯に仕掛けた爆薬によってオアハカ要塞とその付近の産地から海底に至る一帯を吹き飛ばした。その爆発の跡は地上から海溝に至る一帯をえぐるクレーターを形成し、さまざまな埋没物を露出させていた。その爆破跡は、ヤザンの手から逃げ去り散り散りに逃げて行った多くの五行鬼たちから見て、この世の最後の姿に見えた。そしてクレータの姿は、オアハカの辺り一帯の陸と海とが恐ろしい場所であることを、逃げ出した五行鬼たちにそしてインドレイとドラウグルたち木精族たちに覚えさせた。そして、この谷が九つの逃亡者集団に試練を与え始めた場所となったことによって、その後この地はニカラグアの谷、もしくは九試練乗郭(ninevehicles)の谷と呼ばれるようになった。




