22 オアハカ攻防2
「久しぶりだな。誰かと思えば、クラウディアじゃないか」
呼びかけてきたのは、月の国術院でのクラスメイト達だった。彼らは、五行鬼の中でも霊剣操を優れて操する実戦部隊の指揮官となっていた。そこには、ソース顔の赤肌吸血鬼の新人類の火炎族オロチ・コアムイとケンラルド・コアムイ、長身で頑強な褐色肌の新人類の土塊族デラウドロ・ケンコロラルーとぺリアルドン・ケンコロラルー、煬帝国本国人に似たソース顔だが、背がはるかに高い薄桃色の新人類木精族ドラウグル・ミルシテインとインドレイ・キーン、エチオピア人の様な国褐色の輝く肌と美貌を持つ新人類水明族ベドラン・エカンドロとパメラ・エカンドロが勢ぞろいしていた。
「クラウディア、お前ひとりか? それなら俺たちの方へ来いよ」
「歓迎するぜ、お前は国術院の同期の中でも優れた戦士、そして頭も切れる奴だからな」
彼らは口々に親しげな声をクラウディアにかけていた。
「お断りだわね」
クラウディアの言葉で五行鬼たちに緊張が走った。その様子を睥睨しながらクラウディアはつづけた。
「そうね、あんたたちは知らないことだけど......私の両親は帝国の強制労働者として犠牲になったのよ。それであれば、帝国に味方する理由がないわよね。それに、あなた方こそ、帝国側に立ち続ける理由は何なのかしら。よく覚えておいて。あなた方もこのまま帝国側に立ち続けるなら、未来はないわよ。帝国から離脱するなら、今からこの地球の大地はあなた方のものになるんじゃないの?」
この言葉に、木精族のドラウグル・ミルシテインとインドレイ・キーンだけが、反応した。
「この地が我々のもの? それならあんたが僕たちを導くのか?」
だが、ほかの五行鬼たちはクラウディアが味方にならないことがはっきりしたことで、ふたたび敵意を示し始めていた。
「クラウディア、それなら敵だな。では、ここがお前の最後の場所だな」
その言葉と同時に五行鬼たちの霊剣操によって、クラウディアめがけて周囲の剣や銃剣が殺到した。そこに、それらを跳ね返しながら、二機の飛翔体がクラウディアの周囲を高速に周回した。さらに殺到する銃剣を一機が弾き落し続ける中を、もう一機がクラウディアの近くに着地した。
「ディア、乗って」
ナサナエルが声をかけ、クラウディアが乗り込む間、アドナーン機が周囲をさらに巡り飛び続け、さらに周囲の五行鬼たちを弾き飛ばしていた。
「これで、追い払えたなあ」
アドナーンは一息つきながら、そうつぶやいた。だが、クラウディアは今までの帝国軍の動きから指摘をした。
「でも、このままだとまた彼らは戻ってくるよ」
「そうだね」
ナサナエルは、帝国軍の今までの所業を今までの学びに照らして結論した。
「彼らは、なぜここを狙っていると思う?」
「タエ司令官が指摘していました。『我々が彼らの動きを探っていたこのオアハカを調査したいだろう』と」
アドナーンはアサーラからの電文を思い出していた。確かに、タエ司令官の指摘は鋭かった。ナサナエルもそれを聞いており、その点から結論をせざるを得なかった。
「このまま彼らを残しては、海底都市が危なくなる。手掛かりとここに海底都市へ至る入り口があったと思わせるすべてを消さなければならないよ」
「じゃあ、まず、上空の艦隊を撃破しなければいけないね」
クラウディアはそう言うと、ナサナエルを同乗させ、アドナーン機とともに大気圏外の帝国艦隊へと一気に急上昇していった。
「林聖煕総司令。敵機接近。アリューシャン上空にて爆撃艦隊を壊滅させた敵機群です」
袁元洪はチャチャイやラシュに目配せをしながら、林聖煕へ大声を上げた。聖煕はそれにすぐに答え、声を張り上げた。
「わかった。やはり来たか。艦隊全艦、対空防御。十字砲火を開始せよ」
十字砲火が開始されたときには、すでに二機の飛翔体は艦隊の懐に入り込んでおり、二機を追って開始させていた砲撃が味方の艦を撃つほどに艦隊は混乱し始めていた。
「同志打ちになっているぞ。十字砲火を止めよ。砲撃を止めよ」
だが、林聖煕の指示によって砲撃を止めると、途端に聖煕の座乗する指令室にいくつもの悲痛な無線通信が叫び始めていた。
「こ、此方ゾディアック。エンジン部に衝角攻撃により大破。エンジン部崩壊、爆発しま.....」
「ほ、報告、わが艦は艦首崩壊、戦線を離脱します」
「わが艦、操舵不能。誘爆回避のため、戦線を離脱します」
クラウディア機とアドナーン機は帝国艦への衝角攻撃を開始しており、すでに、瞬時に二十数艦が粉砕されていた。
「敵機が衝角攻撃を始めています」
「艦隊全艦、散開して迎撃態勢をとれ」
クラウディアが叫んだ。
「遅い」
その声に、アドナーンが答えた。
「この辺の数隻は一度に撃破。敵旗艦に向けて進撃する」
その声とともに瞬く間に周囲の艦十数隻が一度に撃破され爆発、誘爆していった。
「司令、間に合いません。既に損耗率10%です」
「敵機二機、この旗艦に向けて直進してきます」
袁元洪、チャチャイ、ラシュが悲鳴を上げた。それに応じるように林康煕が怒鳴った。
「旗艦及び艦隊内部の残存上陸部隊全員を退艦させろ」
「司令、損耗率20%です。艦隊散開隊形が間に合いません」
袁元洪が絶望的な声を上げると、ビルシャナが声を上げた。
「私が渦動結界を起動しよう」
「しかし、一隻規模の渦動結界では、艦隊の全滅は防げません」
林康煕が、艦隊の展開した地球直径ほどの膨大な空間を連想して指摘をすると、ビルシャナは冷笑した。
「私を誰だと思っているのかね? 艦隊規模の結界を張ってあげるよ」
「了解。それでは艦隊全艦密集隊形!」
林聖煕総司令は、艦隊に改めて密集するように指令を出した。だが、一度散開するように行動していた艦隊を再び密集することは至難の業であり、時間を要することだった。
「司令、損耗率30%に達しようとしています」
「よい、袁元洪、全艦に艦隊全艦ミリオンガングナーを用意させろ。結界は間もなく発動!」
聖煕は驚きながらも指示をしつつ、ビルシャナの考えを先取りした。
「ビルシャナ様、これでいいですね」
「そうだ。今から始めよ」
ビルシャナの声と同時に広範な渦動結界が展開された。その直後、射出された「ミリオンガングナー」と呼ばれる無数の刃が二つの飛翔体を追いすがった。
それらは、入り乱れるようにして互いに互いを撃破しようとすれ違っては、互いが接触するたびごとに撃力の大きさを表すような轟音が響いた。すると、次々に無数の刃が二機の飛翔体に襲い掛かった。そして、次第に二機の飛翔体は追い詰められ、苦し紛れに二手に分かれた。だが、それは命取りだった。
クラウディア機はきりもみ上になりながらも、彼女の反射神経の速さによって、かろうじてミリオンガングナーの刃に追いつかれることはなかった。
「ディア、霊剣操の詠唱、いけるか?」
ナサナエルの呼びかけに、クラウディアははっと気づいたように霊剣操の詠唱を始めた。それにより、ミリオンガングナーは途端に混乱したように各々勝手な方向へと飛び去った。他方、アドナーン機は、きりもみになって大気圏の中へ逃れようとした。しかし、途中でミリオンガングナーが次々に激突するようになり、バランスを失ったアドナーン機はオアハカの谷あいへと落ちていった。
「アード!」




