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20 帝国の第二次攻撃

「敵飛翔体群接近、こちらの両翼に展開」

「上方に飛翔体群」

 ナサナエルの観察結果の報告に応じるように、ヤザンが苦悶しながら、転舵指示を出した。少しばかりのずれはあるものの、ヤザン機とナサナエル機は互いに連携した操縦をしていた。にもかかわらず、煬帝国艦隊から発したミリオンガングナー、すなわち刃の大群は彼らを追い詰めつつあった。

「下方へ転進だ」

 二つの飛翔体(クロスアラベスク)はそのまま進路を90度下方へ急速に帰ると、その後に無数の刃の群が追随していった。

「前方にも飛翔体群」

「しまった。囲まれた」

 ヤザンの声にナサナエルの絶望的な報告が重なった。

「後方から飛翔体大群の無数、接近」

 二つの飛翔体(クロスアラベスク)は、速かった。だが、怪我をしたヤザンの操縦と、慣れていないナサナエルの操縦ではその機能を十分に果たすことができていなかった。

 そうしている間に、無数の刃が次々に飛翔体(クロスアラベスク)へ文字通り刃を立てるようにして劈き始めた。

「もう、ダメだ」

 飛翔体クロスアラベスクはまだ無傷のまま飛翔をつづけた。いつまで持つかが問題だった。

「ナサナエル、見ていられない。私に操縦させて!」

「え、今は待ってくれ」

「みていられないの! ヤザンも、アドナーンに操縦を代わってもらって」

 クラウディアの提案に、ナサナエルばかりかヤザンも驚いた。

「しかし、あんたたちに操縦なんて......」

「もう体得できたわ。アド、あんたも分かったでしょ」

「ディア、僕も準備ができているよ」

「さあ、ナサナエル、あんた、換わりなさいよ」

 クラウディアはナサナエルを威嚇するような口調で交代を迫った。こうして、二つの飛翔体(クロスアラベスク)は急に動きが俊敏になった。

「アド、行くわよ。操縦と霊剣操よ」

「ディア、当然だね。さあ、来たぜ、早速右翼から」

「そうね、あんたの後ろからも来たわ」

「ディア、さらに左方向!」

「アド、そのまま直進して!。私が横から横切るわ」

 クラウディアたちは、次第に機体を自由に操れるようになり、刃たちが来るであろう先をこまめに避けつつ突き進み、細かく方向を変え続けた。それらと同時に、二人は習得していた国術、すなわち霊剣操によって刃の群を制御し始めた。すると、刃の群は、次第に刃同士の進路が交わり乱れ、相互に衝突して食いこみ合い、それが飛翔体(クロスアラベスク)の逃げる隙を作った。

「左翼の敵、薄い」

「そちらへ直進!」

 スキを突くとそこを補うように、多数の刃が集中した。それが新たな衝突と刃同士の食い込み合いを生じ、ついには刃の群はほとんどが使いものにならなくなった。

 すべてが終わった時、飛翔体(クロスアラベスク)二つは、それぞれコックピット内には、肩で息をするパイロットと助手席で蒼い顔をしている同乗者を乗せたまま、ゆっくりと艦隊から地球表面へと離れていった。航行不能となった旗艦では、ビルシャナが苦虫をつぶした顔をして呪いの言葉を吐いていた。

「ほほう、アドナーンとクラウディアと言ったな。あの二人は仲のいいことだな。それなら、片方を頂くことにするさ。さすれば、もう片方は苦しみに苦しむだろうよ」

 こうしてガンマ線バーストのなかでの空中戦は終わった。


「ガンマ線バーストはまだ続くのか?」

 ビルシャナはいらだつように、ビーム通信を通じてアサシンたちに問いかけた。

「煬帝国からの連絡では、ニュートリノの数値が高い時期から計算すると、3、4か月は続くのではないかとのことです」

「今頃ニュートリノの観測をしているのか? 煬帝国の後宣明帝は無事か。煬帝国での避難はうまくいったのか?」

 ビルシャナは本国からの報告に胸をなでおろしつつ、次の指示を出した。

「コロンビア連邦でも、室内に避難しているのだろうな。対空防御もなされないはずだ。上陸作戦が不可能ではあるが、これから3,4か月は爆撃をする好機だ。爆撃艦隊による攻撃を開始しろ」

 こうして、上陸強襲艦隊と入れ替わるように、地球衛星軌道に多数の爆撃艦が爆撃隊形を取りながら散開し始めた。


 オアハカ沖の深海都市ニカラグアでは、帰投したヤザンたちが司令官のタエと情報交換をし始めたばかりだった。

「え、あんたは聖杯城からきたの? 『聖杯城のナサナエル』?」

 タエは驚いてしばらくナサナエルを見つめたままだった。

「タエさまも、この時代に御健在だったのですね」

「そうね、悪者を追って断層結界に巻き込まれて、そこのヤザンと一緒に......。でも、あんたはなぜ私の顔を見て名前を言えたのかしら?」

「タエさまにお会いしたことがあります。私がこの時代まで冬眠する前の時代に、湯あみ着のタエさまにマッサージを差し上げたことがございますよ」

「え? どこで? いつの時の?」

「覚えていらっしゃらないのですか? 私はよく覚えています。夢に見るほどに......」

「あの、ナサナエル、何を言っているの?」

 クラウディアは訳が分からないという顔をして、ナサナエルに呼びかけた。ヤザンもまたナサナエルを改めて見つめた。

「何を覚えているんだ? 教えてくれるか?」

 それを聞いたタエが慌てて口をはさんだ。

「ナサナエル、あんた何を覚えているの?」

「ええ、あの時のお姉さまはとても魅力的でした。豊満でスレンダーで」

 ナサナエルがそう説明すると、ヤザンがさらに問いかけた。

「もっと詳しく」

 さらに問いかけたヤザンを、タエが睨みつけていた。それに気づかずナサナエルは話を続けた。

「ええ、僕がお世話した胸と腰の前の方を、タエさまは僕に任せてくださいました」

「ええ!?」

「ナサナエル、あんた、そんなことを覚えているの? いつそんなことがあったというのよ?」

 タエが顔を真っ赤にしてうろたえつつナサナエルを捕まえて問い詰めていた。

「ええ、シミエン山中の聖杯城です。僕の月に連れていかれた兄弟姉妹たちもよく覚えていますよ」

「もう、やめて」

「それに、タエ司令官、あなたも霊刀操を使える方でしたよね」

 ナサナエルはヤザンを見て、タエを見た。ヤザンはタエを見つつ応えた。

「僕はタエ司令官から霊刀操を体得したんだよ。踊るような技をね」

「へえ、やっぱりタエ司令官は昔からきれいな人だったんだね」

 アドナーンが感嘆したように指摘をすると、クラウディアも肯定するようにつづけた。

「今でもきれいな人ですね」

「そうか、ナサナエル、その時は裸が見えたんでしょ? 僕もその時の姿を見たかったな」

 タエはヤザンを蹴飛ばした。

「ヤザン、それ以上言わない方がいいわよ」

 司令官のタエは全員を睨みつけていた。


「ところで、帝国軍の動向は?」

 ヤザンの質問にタエが答えた。

「観測班の報告では、上陸強襲艦隊は上空へ撤収。代わりに爆撃艦体がロッキーアンデス一帯の要塞めがけて爆撃を始めています。味方の要塞からはすでに撤退が完了していますので、被害は皆無です。このまま静観しますか」

「要塞を守らなければ」

 ナサナエルは自ら守り切れなかった聖杯城を思い出していた。その思いを組んだのか、ヤザンが志願した。

「では、私が」

「ヤザン、あんた、まだ銃創が治っていないじゃないか」

 タエはヤザンをたしなめた。ヤザンもそれに一応同意せざるを得なかった。

「それなら、アドとディアに任せるよ」

「アド? ディア?」

 ナサナエルはアドナーンとクラウディアに問いかけるように見つめた。それにヤザンが言葉を添えた。

「そう、彼らは僕たちよりクロスアラベスクの操作が上手だから」

「そうなのか?」

 タエは半信半疑であった。ヤザンはつづけた。

「信じられんだろうね。だが本当だ。これからあんたたちが彼らの戦いぶりを見れば、納得するだろうよ」

「じゃあ、『聖杯城のナサナエル』が同乗するならいい。彼ならもしもの時に役に立つだろうから」

「『聖杯城のナサナエル』という呼び方はやめてください」

「じゃあ、三人で出撃してくれ」

「それならクロスアラベスクを2機使うね」


「ナサナエル、私の横に乗って」

「ディア、何でナサナエルを同乗させるんだよ?」

「え、だって、ここに来るときも、私の横にいたのよ。その方がなぜか気分がいいのよ」

「じゃあ、僕がディアの横に座るよ」

「アド、ディア、それでは僕がクロスアラベスクを操縦するのか?」

 ナサナエルがそう言うと、アドナーンは答えに詰まった。

「じゃあ、アド、あんたが僕と一緒に乗る?」

 ナサナエルがアドナーンに問いかけると、アドナーンは首を横に振った。

「いやだ」

「じゃあ決まりね」

「ディア、僕と別々で平気なのかよ」

「ええ、だからナサナエルを横に乗せるのよ」

 アドナーンは不満そうな顔をしたままだった。


 二機の飛翔体(クロスアラベスク)は出撃した。まずは出だしで、爆撃艦5隻を衝角攻撃によって爆発させた。そのまま爆撃隊形の艦隊上部へ上昇しつつ急降下し、ふたたび、別の5隻を貫いた。これに対して、ようやく全体に包囲陣形を取りつつある帝国艦隊は、十字砲火を浴びせ始めていた。濃密な十字砲火にもかかわらず、2つの飛翔体は細かく進路を変えつつ、十字砲火を潜り抜けていた。それとともに、次々に数十の爆撃艦を航行不能にさせた。

 そのうちに帝国側は再び飛翔する刃の群をアドナーンたちに向けた。それらが押し寄せてくると、もう帝国艦に攻撃を仕掛けることができず、逆に刃の大軍をやり過ごしながら逃げることになった。それでも、彼らは息の合った操舵術と霊剣操によって巧みにやり過ごしつつ、大気圏に突入すると、刃の群は燃え尽きてしまった。その後アドナーンたちは、ふたたび帝国の爆撃艦を餌食にし始めた。

 このようなことが繰り返され、帝国側はようやく爆撃艦体をロッキー、アンデス域上空から引き揚げさせることとなった。ガンマ線バーストというチャンスにも関わらず、煬帝国軍側はコロンビア連邦に対して攻撃を完遂することができずに、ラグランジェポイントへと引き上げざるを得なかった。他方、飛翔体(クロスアラベスク)も、帝国艦からの刃の大群「ミリオンガングナー」による霊剣操の迎撃があっては、敵の本体が遊弋するところまで深追いすることもできず。到底帝国艦をラグランジェポイントまで追撃することは無理だった。

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