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14 大型宝珠の人体実験

 逮捕されたナサナエルは、そのままモルモットとして研究所へ送られた。

 美姫アーレスはナサナエルを拘置所に送る手続きを取る際に、帝国法務局へ報告をしていた。

「彼は帝国戦士(クリスパーアーレス)でも五行鬼でもない。確かに人間です。しかし、国術や副教科での彼の能力は帝国戦士(クリスパーアーレス)や五行鬼を超越しています。彼の見かけは私たち帝国戦士(クリスパーアーレス)と同様ですが、思考力とその仕事は通常の人間のレベルはもちろん、その上のクラスの私たち帝国戦士(クリスパーアーレス)をも超越しています。私は、先ごろの逃亡ほう助の犯行についても、彼が行ったに違いないと考えました。つまり、彼の逃亡ほう助の仕事の完全さから、私は、彼が明らかに単なる学生ではないと考え、逮捕に至りました」

 そこには、美姫の秘密の上司である康煕アーレス総督が来ていた。

「確かに、彼の念波の強さと思考能力の高さは異常だ。警戒してよいだろう。だが、今後、彼をどうするつもりなのか?」

「彼には、アカバガーネット大型宝珠体内埋込み処置の導入の前試験として、モルモットとなってもらいます。この埋め込み術は、今後、帝国臣民や帝国戦士に対して行うことになっている処置です。」

「どんなことをしようとするのかね?」

「総督閣下のご指示をお忘れですか?」

「強制労働の人間を一人、まず実験台とすることか?」

「そうです。この処置は、我々帝国戦士(クリスパーアーレス)や煬帝国臣民という現人類の肉体をして吸血鬼変幻能をもたせしめ、五行鬼には至らなくてもそれなりの能力を人工的に着けさせます」

「よかろう」

「そしてもう一つあります。今回は、この実験体の異常に高い念波発信能力にも着目しています。我々帝国戦士(クリスパーアーレス)や帝国臣民は、少ないながらも念波発信能力を有しています。この処置によって体内に埋め込んだアカバガーネット大型宝珠は、念波を増幅して五行鬼たちに絶えず念波のエネルギーを与える機能があります。すると、我々は、周辺の五行鬼たちを活動させ続けることができるようになるでしょう。今回、その実験も行うことにしています。特に、この実験体は強大な念波のエネルギーを有しているようです。そこで彼にこの大型宝珠を埋め込みます。そうすることで、彼は、地球の太平洋地域一帯に上陸させる五行鬼たちに、絶えず念波のエネルギーを与え、五行鬼たちの活動を可能にさせ続ける念波発信媒体となるはずです。この実験がうまくいけば、この処置を受けた帝国戦士(クリスパーアーレス)や帝国臣民は、この実験体ほど巨大な範囲ではないにしても、ごく近くの五行鬼たちに動く活力を与え続けられるようになるでしょう」

「ほほう、処置はどうやるのかね」

「実験としては、彼の脳の近くの鼻孔の中に、大きなアカバガーネットを埋め込むのです」

「そんなことをして、彼は大丈夫なのか」

「ええ、おそらく。それに安全かどうかを試すための実験でもあります」

「それなら許可しよう」

 美姫は康煕アーレス総督から許可を得たことで、急ぎ足で法務局を後にした。


 この時代、煬帝国はすでに新人類五行鬼を完成させつつあった。中でもマッドサイエンティストと呼ばれたレビ・アイアサン博士は、遺伝子中にアカバガーネットを導入することで、念波を受けたミトコンドリアが活動速度を上げ、体力及び表皮構造の強化が達成されていた。また、彼の研究によって、ミトコンドリアの活動速度が飛躍的に上昇したことで、新人類五行鬼の筋力・反射能力などの身体能力もまた、現生人類の数十倍に飛躍していた。また、ミトコンドリアの暴走を最大限に引き出し、表皮構造を数百倍に強化したことで、大気圏外での超真空における耐久力を持たせ、酸ばかりでなく耐アルカリに対する耐久力も得させていた。但し、彼らは絶えずミトコンドリア中のアカバガーネットが微弱な特定波長の念波を絶えず受け続ける必要があった。いまでこそ、彼らは研究と育成がなされる月世界がアイアサン博士によって発生させている念波が満ちているために、何の不都合もなく活動することができ、いまでは大量に生まれていた。しかし、コロンビア連邦を圧倒するために近々地球表面に派遣される際には、地球表面に展開した五行鬼たちに向けて念波を時々送り届ける機構が必要とされていた。それゆえに、念波を大きく発することのできるナサナエルが好都合な人間媒体であり、彼を利用して『彼の強力な念波を特定波長で増幅して発信させる手段』が考案されていた。

 また、彼らには頭脳の明晰さが無いため、指揮官クラスとして帝国戦士(クリスパーアーレス)を想定していた。しかし、五行鬼とともに走り、展開の早い戦闘速度についていくには、現在の帝国戦士(クリスパーアーレス)では身体能力が不足していた。それゆえ、アイアサン博士は、現人類や帝国戦士(クリスパーアーレス)に対して『アカバガーネットの念波蓄積能とそれによる増幅機能とを与えることで、一時的に吸血鬼変幻能を持たせる』ことを研究しており、それが最終段階だった。それは、ミトコンドリアをある程度活性化させ、身体能力をアップすることだった。

 都合の良いことに、人体に用いる初めての実験台として、強制労働者出身のナサナエルが選ばれた。それは、彼がすでにアカバガーネットのチョーカーを身に着けて活動している実績を持っていたからでもあった。

 この二つの方策を同時に実現するために、『念波蓄積能・増幅機能・対内投射機能・外部投射機能』を持たせた大型アカバガーネット宝珠を、ナサナエルの鼻孔の奥深くに埋め込む人体実験が企画された。


 他方、収監されていたナサナエルは、自らに何をされるのかを全く知らず、それでも様々な考察を重ねていた。

 彼は月世界に連れてこられた時から、国術院をこの地で運営するようになった煬帝国が何を狙っているのかを探ることにしていた。それが聖杯城落城の際に心に決めていたことだった。

「何を考えればいいんだろうか?」

 彼はふと国術院内での生活を思い出した。学生たちのほとんどが、地球や煬帝国でも見たことの無い五行鬼と呼ばれる怪物たちだった。このことから、ナサナエルはこれからの煬帝国を支える人材について、考察を繰り返した。なにか、気付くべきことはないかと考えつづけた。

「僕たち三人や帝国戦士はチョーカーを身に着けている。でも、五行鬼たちはアカバガーネットを身に着けていない。これはどういうことなんだろうか」

 「国術院の学生は、皆がアカバガーネットを埋めこんだチョーカーを身に着けさせられているわけではなかったなあ。そうだ、僕たち三人と帝国戦士(ハイパーアーレス)たちだけだ。五行鬼の奴らは、アカバガーネットを何らかの形態で身に着けているわけではなかった」

 ナサナエルは、過去にハイスクールでの選抜生にすぎなかった頃、教練教官がナサナエルたち三人に身に着けさせたことを思い出した。

(これから私が国術の神髄を伝授することになる。まず、あんたたちはこれを身に着けるんだ)

 かの日、教練教官が持ち込んだものは、宝珠ともいうべきアカバガーネットを埋め込んだチョーカーだった。

(ちょっと前までは、この教えは限定されたものにしか享受されなかった。だが、今の時代では考えが変わった。今の国術院は、初めから武術、戦闘術に優れた人材を入学させている。そこで、まず神髄たる霊剣操を教えてから、国術の様々な技へと展開することになったのだよ......では、まず、このチョーカーを首に着けてもらおうか。そう、これからまずあんたたち三人には、このアカバガーネットと呼ばれる太極を用いた戦い方を教えていくつもりだ。後に国術院に入ってもらうためにな)

 ナサナエルはこの言葉を思い出していた。確かに、現在の国術院では、国術の神髄である霊剣操をまず体得させ、その後に副教科を学ばせている。いわば促成栽培と言ってもよい教育法だった。そして、あの教練教官の話からすれば、その教育対象はアカバガーネットをすでに身に有している者のはずだった。

 確かに、帝国戦士(クリスパーアーレス)と呼ばれるデザインベビーやナサナエル達はアカバガーネットのチョーカーを身に着けていた。だが、同じ学生の五行鬼と呼ばれた新人類すなわち水明族、木精族、火炎族、土塊族はそのようなチョーカーやアクセサリーを一切身に着けてはいなかった。ナサナエルの見立てでは、体内に何らかの仕組みで内蔵させているに違いなかった。それゆえに促成栽培のような教育を課し、全てが、いにしえのアサシンと呼ばれた強化人類を多く生み出しているように思えた。それが今の時代の煬帝国の狙いのように見えた。

 それは確かに煬帝国の人材に関する方向性のように見えた。ただ、本当の煬帝国の狙いはまだナサナエルには見えなかった。ただ、ナサナエルにとって、新人類に名付けられた「五行鬼」という名の『鬼』は、まさに煬帝国を導いてきたビルシャナたちを現しているとしか考えられなかった。そして、もしそれが煬帝国の神髄であったならば、ナサナエルはそのために人間やその他の存在を犠牲にするビルシャナという存在は、ナサナエルにとってまさに敵とすべき者だった。


 逮捕されてから数日後、ナサナエルはある実験棟へと連れ出された。拘束具を着けられ、大の字に体を固定されると、そこに、レビ・アイアサン博士と名乗る男が入ってきた。彼は、帝国の天才的ガーネット学者として活躍を重ねていたマッドサイエンティストだった。

「ほほう、やっと実験台を連れて来たか」

 レビの言葉で、ナサナエルは自分が実験台であること、それゆえ将来が閉ざされたことを悟った。それでも、彼は憎しみを込めてレビを睨みつけた。

「何をする気だ?」

「あんたは実験台だよ」

 ナサナエルは自分が追い込まれていることは理解した。だが、どんなことが行われるかを、せめて知りたかった。

「何をする気だ?」

「簡単に言えば、あんたのアカバガーネットをさらに高度化するんだ。それにあんたが耐えられるかどうかも確かめるのさ」

「人体実験か?」

「早く言えばそうだ。うまくいけば、あんたは新人類五行鬼を地球に展開する際に、彼らを元気にする存在となる。また、今の帝国戦士を超えた能力が、さらにパワーアップし五行鬼並みの能力を身に着けられるかどうかも、試験するのじゃよ」

「僕を帝国の手先にするつもりか?」

「帝国の手先? いや違うな。あんたは国術院の学生なんだろ? じゃあ、あんたは帝国戦士(クリスパーアーレス)か? いや、あんたは、まさか旅団の残りの者たちか......スイスアルプスのローヌ川上流の攻略戦で落城した際の捕虜? まあ、それならそれで都合がいいじゃないか。五行鬼たちを生かすも殺すも、あんた次第になるね」

「何が、都合がいいんだよ?」

 ナサナエルは、アイアサン博士の言っていることが理解できなかった。博士はそんなことには構わず、説明をつづけた。

「まあ、いずれにしても、国術院はそもそも優れた能力を持っている者だけが入学を許されている、いわば月の士官学校なんだぜ。すべての卒業生は帝国軍に加わって、地球上の戦場や現場で活躍することになっている。であれば、ちょうどよいではないか。あんたはこれから五行鬼たちの要として動いてもらうのさ」

 アイアサン博士は、そう言いながらナサナエルの横に大きなアカバガーネットの宝珠を収めた絶縁容器を持ってきた。

「これだよ。あんたの身に着ける宝珠だよ」

 アイアサン博士がこういうと、ナサナエルは猛然と暴れ出した。だが、博士はそれを予想していたように、すぐにナサナエルの頭部を完全に固定させてしまった。

「放せ」

「もうおそい」

 博士はナサナエルの目の前に宝珠を見せると、ニヤニヤしながらねじ込み器具に宝珠を取りつけた。

「さあ、これをねじ込ませてもらうよ」

「ねじ込む? どこへ?」

「穴だよ」

そこで、彼は、手で自分の下半身と口を守ろうとした。

「残念、鼻の穴が大きく開いているよ。では」

 そう言うが早いか、大きな宝珠がナサナエルの鼻の穴へと無理やりねじ込まれていった。「む、無茶だ。無茶苦茶だ!。い、いてえ。やめろー!」

 ナサナエルは一通り苦悶に悶えたが、しばらくたつと落ち着きを取り戻し、アイアサン博士を睨みつけていた。ナサナエルのそんな姿を楽しみながら、アイアサン博士は一言付け加えた。

「もう、体の中に入ったからね。取り出せないよ」

「このマッドサイエンティストめ」

「誉め言葉じゃな。私はいつもそう呼ばれておる」

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