↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/36

13 潜むままに 空港外れの自動倉庫

「ここに宇宙食の貨物が残っているよ」

「すべての貨物が氷漬けになっているね」

「ここに、使われていないカプセルがある。あのカプセルと同じ構造かな」

 自動倉庫のあちこちに、搬送忘れなのだろうか、いくつかの荷物が残っていた。但し、自動倉庫であるがゆえに、人間の手では簡単に届かないはるか上の棚部分に、それらの荷物がいくつも放置されていた。しかも、自動倉庫内の気温は白い息がそのまま凍り付くほど冷え込んでいた。

___________________________________


 自動倉庫内は気圧が保たれていたものの、気温はどう見ても零下20度よりも下だった。身に着けていた衣類がズタズタになった二人にとって、明らかに防寒具を必要としていた。

「アド、少し待っていて。荷物を見立てて来るから」

「ディア、僕が行くよ」

 アドナーンはそう言ったものの、すぐにカプセルに戻ってきた。自動倉庫内の寒さはセータ程度の服装では耐えられなかった様子だった。

「ディア、あんたのシャツからセータを貸してくれないかな? どうせズタズタですぐ脱げるだろ?」

「アド、それ、どういう意味? 私に裸になれとでも言うの? それにあんたには私の服は小さすぎて意味がないでしょ?」

「外はあまりに寒すぎて動けない。せめて羽織ることができれば少しはあったかいよ」

「じゃあ、あんたのシャツからセータまでを私によこして。私が重ね着すれば何とか耐えられるから。そうしたら私が衣類を探して来るわ」

 クラウディアはそう言ったものの、冷凍庫のような自動倉庫の中は、アドナーンのシャツとセータを重ね着したとしても寒すぎた。幸い、低い場所にあった衣類用コンテナの中から防寒具のような服装をいくつか持ち出すことができた。その後、防寒具を身に着けた二人は、自動倉庫内の下層部分から上層部分までを上り下りしながら、いくつかの宇宙食や衣類、抗生剤、医薬、衛生用具、雑貨、カプセルなどを引っ張り出していた。


 数日後、クラウディアは悪寒を覚えた。外目から見ても汗をかいたまま、薄着で零下の自動倉庫内を歩き回ったことが原因で風邪をひき、発熱したことは明らかだった。アドナーンはクラウディアをカプセルの中に寝かせて看病をし始めたものの、寒さを訴えるクラウディアを有効に温める手段を持ち合わせていなかった。

 クラウディアは熱にうなされていた。彼女の口からは様々な言葉がうわごとのように語られた。

「体が熱い。体が勝手に動く。なぜ踊らされているのかしら」

「アド、どこにいるの?」

「お父さん、お母さん、どこに行ってしまったの?」

「私は負けない」

「ビルシャナ、来ないで。あんたは私たちの敵。私の心から出て行って!」

 アドナーンはうなされ続けるクラウディアを介抱し、彼女の汗を拭きつつ二人の肌を直接接触させることで彼女を暖め続けた。さらには、食料の中から消化のよさそうなものを見繕って与えつつ、水分も体温で温めつつ与え続けた。

 幸い、彼女の発熱は下がった。抗生剤が効果的に作用したからでもあったが。アドナーンの献身的な看病も彼女の回復を早めていた。

「アド………」

 クラウディアはようやく目を覚ました。アドナーンは、彼女を抱えるように眠っていた。彼らはアドナーンが引っ張り出してきた比較的大きなカプセルに入り込んでいた。彼らを覆うように、ポリエステル製のシーツ、その上に大きなバスタオル、そして何枚もの毛布と羽毛布団が重ねられていた。枕元には栄養ドリンクと水、さらに宇宙食。それらが何パックも使われており、それだけアドナーンがクラウディアを介抱しつづけていたことがうかがわれた。

「ぐぐ、カー」

 いびきをかくアドナーンはまだ目覚めていない。寝ている顔に、疲労の跡が窺われた。

「そろそろ起きて」

 アドナーンの腕が動いた。途端に彼が彼女のどこを抱いているかが分かった。

「ちょっと………ねえ…」

「ウググ」

 無意識なのだろうか、彼の手が当然のように彼女を弄り始めた。この時になって彼女は身動きが取れないことに気づいた。

「ねえ、起きて。アド、お願いだから」

アドナーンは目を一瞬開けた、はずだった。そう見えた。しかし、無意識なのか、まだ彼は彼女を弄り続け、触れてはいけないはずのところまで手が届いていた。クラウディアは必死に彼を起こし、抵抗したのだが、身動きが取れないまま大声を出した。

「ねえ」

「うーん」

「もうやめて」

「あ、起きたの?。治ったのかな」

「もう治ったわよ」

「いやいや、まだ汗をかいている。体温も高いぞ。ダメだまだ寝てなさい」

 彼はそう言って寝入ってしまった。しかし、手は動いていた。

「起きているんでしょ? ねぇ、もう良いから」

「よかった。もう良いんだね」

 とぼけたようにアドナーンは彼女を起こした。素肌のままであったことに、彼女は驚いた。

「私、ずっとこのままだったの?」

「看病していたから、いろいろと」

「いろいろ? どういうこと?」

「さあで、じゃあ食事にしよう」

 呆れ怒るクラウディアをよそに、アドナーンは淡々と起きて準備を始めてしまった。クラウディアはぶつぶつ言いながら、彼の後を追った。


 こうして、彼ら二人は、自動倉庫に潜んで生活しつづけた。

__________________________________


「今までの月の担当者たちは、よほどの甘ちゃんだったのだな」

 この指摘は、新たに煬帝国の杭州府から派遣された新総督 康煕アーレスのものだった。

名前からわかるように、彼は帝国戦士(クリスパーアーレス)の世代であり、このころの煬帝国の要職は、ベテランアサシンから次第にクリスパーアーレスと呼ばれるデザインベビーたちが占めるようになっていた。

 さて、彼は報告を受けた際、先ほどのように厳しく指摘した。

「それで、逃げた学生二人はすでに死んだと報告されているが、どのようにしてそれを確認できたのかね?」

 「そ、それは、彼らが放り出されたと思われる外環境に、彼らの身に着けていた服と下着類によってです。それらには逃げた学生の出血が確認でき、放り出された際に体内の血液が沸騰したことを示しているのです。したがって、体は破裂して死体は残っていませんし、それゆえに確認できませんでした」

 総督府の役人たちは、震えあがりながら説明していた。彼等は十分に優秀なはずなのだが、行政処理能力でもすでにクリスパーアーレスに抜かれており、指示を受けるにすぎない下級役人にとどまることがほとんどだった。だが、康煕は追及の手を緩めなかった。

「死体を確認せずに死んだ、と報告するのかね? そんな調査では、納得できるわけがないではないか」

「しかし......」

「『しかし』? とはどういう意味かね。やはりあんたたちも配置換えだ。後任には私の選んだ帝国戦士(クリスパーアーレスに代わってもらう」

「は、はい」

「私が納得しないというのだ。したがって、彼らはまだ生きている」

 こうして、新総督以下、月の開発公社、管制司令部などの役人や職員は全てが帝国戦士(クリスパーアーレス)に置き換わっていた。

____________________________________


 すでに二か月がたっていた。ナサナエルは、アドナーンとクラウディアを送り出した後、国術院の講義を引き続き受講していた。彼の計算では逃げおおせた二人についての捜査は終わっており、そろそろほとぼりが冷めるころのはずだった。だが、ある日、管制司令部で何度もナサナエルを尋問した女捜査官美姫アーレスが、寮にある彼の部屋を訪ねて来た。

「あんたは国術院の学生だったんだな。見かけからすれば、帝国戦士(クリスパーアーレス)そのものに見えるが……それで、この国術院で人間なのは、あんた一人か。ほかは、帝国戦士(クリスパーアーレス)、そして五行鬼たちなんだな」

「はい、僕の他にいた人間二人は、逃げ出してそのまま事故で死んでしまいました。僕だけがここに残っている人間です」

「奴らの中であんたみたいな単なる人間が匹敵できるのか? あんたはどうやって匹敵できているのかね」

「僕は副教科で一応のレベルを維持しています」

「ほお、どんな科目なんだね?」

「一例は、陸戦陣形術です。一戦やってみますか」

「ほほう、戦歴の長い私を相手にやってみるのかい?」

 ナサナエルは、美姫を国術院演武場の演習用三次元戦況空間へと誘った。まだ学生たちの登校前であり、一切の見学者がいない時間帯ということもあって、彼は彼女を模擬試合に誘った。そして、いとも簡単に彼女を圧倒した。

「いずこかで見た攻城の陣形だな。そして、裏への長距離砲撃。これで一気に突入か。この城の弱点を鋭く見抜いているね。ほほう、なかなかの腕前、いや、これでは確かに国術院の卒業生でも敵う者はなかなかいないかもしれんな」

 ナサナエルはそのほかにも、副教科で受講して体得している技をいくつか示した。その内容もまた、帝国戦士(ハイパーアーレス)や五行鬼を超越した内容であり、それゆえに国術院で一目置かれている存在であることを示していた。

「そろそろ、受講時刻になりますので、ここで失礼したいのですが」

「そうかい。あんたの演技と能力を見せてもらって終わりではないのだがね。それにしても、あんたはそんな能力を持っていたのか。すると、頭脳も抜け目なく働きそうだな」

 美姫はそう言うと、周囲の国術院生を観察しつつ、移動し始めたナサナエルの横を歩き始めた。

「教官や師範たちは、ああ、まだ変わっていないんだね」

「美姫捜査官。あんたもここの卒業生なのですか?」

「そうだ、私は一年前の卒業生でね。だから、あんたが嘘をつくとも思えないんだが。だが、あんたの能力を披歴してもらった今、あんたに改めて疑いを持ったよ。あんたの頭脳の良さからすると、捜査対象の二人の逃亡をうまく隠しおおせているのではないか、とね」

「僕は、すでに説明をしました。証拠もあんた方が押収したじゃないですか。そして証拠を分析したのもあんた方ですよ」

「そうだな。その仕事の完全さから、もっと早く疑うべきだった。あんたは単なる学生じゃないね。あんたを逮捕する」

「証拠もないのに? おかしい。抗議する」

「総督に抗議するんだね。この件は総督も了解済みだ。総督権限での逮捕だ」

 こうして、ナサナエルは逮捕された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。