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初めてのラブコメ計画

「やっぱりな、思い切って告白するべきやと思うねん」

浅黄駅前のハンバーガーショップ。

学校終わりのこの時間は浅高生でいっぱいになる。

こんな所で話し合いたくないデリケートな話題を、目の前の2人は平気で口にする。

「だから、それじゃあダメなんだよ。

 クボチンは小説の主人公を現実の人生でやりたいんだから、いきなり告白とかじゃなく、こう、友達として共通の困難に立ち向かううちに自然と関係性が育まれていく、みたいなそういうのがいいんだよ。

 ねえ?」

御堂が屈託ない笑顔を向ける。

あの後、誤解を解こうと俺は御堂に俺の願望について打ち明けた。

現実の人生(リアルライフ)を主人公として生きたい、というあれだ。

御堂は一応俺の気持ちを分かってくれたようだった。

それはいい。

ただ…

「なんでアナタが付いて来るんですか…」

つい声に出てしまった。

「何でって、そら、はずみとはいえ悪いことしたと思ってるからやん…」

目の前のもう一人は黄木きりんだ。

どうやら落書及びセクハラ(飽くまでハプニングであったという事は強調しておくが)についてはもう怒っていないようだった。

それより今は…

「何で主人公やったら告白したらあかんの?

 とりあえず告ってみて、それから困難に立ち向かったらええやん」

意外な事に格闘ギャルは恋バナが大好きなようだった。

「だからさー、運命的じゃないじゃん?

 創作物では、告白されて相手の事が好きになるとかは不純な行為とされていて、口に出さずとも育まれる想いってのが重視されるんだよ。

 ほら、主人公ペアがモタモタ両片想いしてる所に噛ませキャラが告白してきて、断り切れずに付き合ったりするけど、やっぱり『自分の気持ちを偽れない!』ってなるの定番じゃん?」

「あー、少女マンガでよくあるやつやねー」

「主人公になりたいクボチンとしては、噛ませムーブは避けたいわけで…」

2人して勝手な事ばかり言っている。

「御堂さあ、俺、そういう話じゃないって言ったよな?

 俺は単に、メインキャラに入りたい訳。中嶋さんが居るとか居ないとか関係なく!」

無。

無の顔で俺を見つめる二人。

「ちょ、聞いてる?」

「でも、超常現象研究会(チョーケン)に居る知り合いが御堂と風香だけで、御堂に頼るのがヤラセみたいで嫌や言うんやったら、もう風香に言うしかないやん」

「戦隊モノの主人公チームに途中合流するパターンで、女子メンバ-の紹介で、ってあり得ないだろ!」

「そうなん?」

きりんが無邪気に御堂に訊く。

「そうだねー、途中合流っていうと、卑怯な事が嫌いな敵の一匹狼キャラが寝返るとか、主人公の危機に謎の男が現れるとかが定番かなぁ…その正体が前作に登場した強キャラだったりすると(たぎ)るよねえ~」

「ふーん、でもそもそも敵とか危機とか無いやん」

関心なさそうに言い、シェイクをひと啜りする。

「あ、ウチが赤木襲おか?助けに来る?」

「イエローがレッド襲う戦隊とかあり得ないだろ!」

俺は思わずツッコむ。

大体その後の人間関係どうする気なんだよ…

「え~、そしたらやっぱりパン咥えて風香に体当たりするしかないやん?」

「だから、俺は超常現象研究会に入りたいんであって、中嶋さんと仲良くなりたいんじゃないんだよ!

 あと、俺は自転車通学だから」

「自転車かー、それはキツイな。

 あ、でも、赤木にやったら自転車アタックでも大丈夫ちゃう?」

「いや、自転車アタックって…」

「キッカケとしてやん」

「…」

「パンはウチが用意したるから」

きりんはあくまで真剣な表情でそんなことを言っている。

俺は助けを求めて御堂を見た。

「いいんじゃない?インパクトのある出会いで」

「いや、せめてもっと運命のライバル的な…」

「クボチンさあ、運命を待ってるだけじゃ主人公チームに入れないんだよ?

 あんな落書き書いてうじうじしてるのなんて似合わないよ。

 日常現象研究会(ニッケン)の頃のクボチンは、もっと、『とりあえず挑戦してみる』て感じだったじゃん」

引っ越してからの1年余りで、俺は変わってしまったんだよ。

もうあんな万能感は、今の俺には無いんだよ。

俺は額に手を当てて溜息をついた。


その手が、温かく柔らかいものに包まれた。

驚いて見ると、きりんが両手で俺の右手を包み込むように握っている。

『NTR』という言葉が頭に浮かび、思わず御堂に目をやる。

御堂も驚きに固まっているようだった。

「あのな、照れくさいとか、恥ずかしいとか思って何もせんかったら、高校生活なんて一瞬で終わってまうで」

きりんは俺の目を真っ直ぐ見つめて熱く語りかける。

「あんたは友達(ひが)んでノートに落書きするような卑怯モンやないって理希弥は言うてた!」

この人のぶっ壊れた距離感はどうやら恋する女子のそれじゃない、松岡修造のそれなのだと、俺にもだんだん分かってきた。

「あんたは中学時代、理希弥のヒーローやったんやってな。それやったら、そんなカッコ悪いとこ見せんといたって」

何を言い出すんだこの女は。

見ろ、あの御堂が顔を背けて照れている。

「ウチらも協力するから、やったり!自転車アタック!」

「えぇ…」

赤面する男2人をよそに、きりんが『ふんっ』と鼻息を荒らげた。

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