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家族との対面

 朝日にまぶたの上を焼かれて、俺は目を覚ました。一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。少し時間を置いて、昨日の起伏の激しい出来事の数々がよみがえってきた。


「……やっぱりあるのか」


 頭のてっぺんに手をやると、そこには魔族の証である角が、しっかりと生えていた。ということは、やはり昨日の一連のすったもんだは夢ではなかったのだ。


「……こいつらもいるしな」


 俺の左隣でミラが、少し離れた右側にリサが、それぞれぐっすりと眠っていた。俺はミラの寝顔を見つめた。まだあどけないミラの顔は、何も知らなければ人族のかわいい女の子にしか見えない。


 俺はもう一度頭の角に触れた。昨日ミラは自分が十歳だと言っていた。つまり、二年後にはミラにも角が生えてくることになるのだ。ミラの角はどんな色をしているのだろう。でも、いくら考えてみても、自分の角さえまだ見たことのない俺には、まだそんな想像はうまくできなかった。


 そろそろミラを起こさなければいけなかった。本当は俺たちは昨日のうちにミラの家に着いているはずだったのだ。


 俺はミラの体を遠慮なく揺さぶった。


「おいミラ、起きろ! 出発するぞ!」


 ミラの目が薄く開いたが、またすぐに閉じてしまった。俺はさらに激しくミラを揺さぶった。


「起きろ! 起きないと父さんと母さんと兄ちゃんと姉ちゃんに怒られるぞ!」

「うう……もうちょっとだけ寝かせて……」


 ミラは全く起きる気配がない。しょうがないので、俺は水魔法を使って、ミラの顔に少量の水をぶっかけた。


「……はっ! ああ、なんだリヒトか。おはよう……でも、かなり手荒だね」


「そんなこと言ったって、もう八時を過ぎてるぞ」


 さっきミラの腕時計がちらりと見えたからな。


「えっ? ……わっ! 本当だ! やばい! もうこんな時間!」

「なんでいきなり学校に遅刻しそうなノリになるんだよ」


 ミラは慌てて身支度を始めたけれど、俺とミラは実の兄妹なんだから、ぶつかっても恋は始まらない。


 ミラが忙しそうなので、俺はリサを起こしに行った。リサは緩い手段では起きないことが最初からわかっているので、いきなり水をぶっかけておいた。


 身支度に時間がかかっているミラに近づくと、どうやら化粧をしているようだった。おかしい。これから会うのはミラの家族のはずなんだが。


「ミラ、魔力は回復したか?」

「うん、なんとか。私たちの家までなら、しっかり三人を運べそう」


 よかったよかった。寝ると魔力が大きく回復するのは、人族も魔族も同じらしい。


 ミラが準備を終えて立ち上がった。


「じゃあ行くよ。二人ともしっかりつかまって!」

「了解!」


 俺がミラの右手を、リサが左手を握り、ミラが「転移!」と唱えると、俺の視界は暗転した。


⭐︎


 俺の視界が開けると、そこは家の中だった。俺が昨日まで住んでいた部屋よりかなり広いが、ベッドがあることを考えると、個人の自室のようだ。


「って、ここミラの部屋か?」

「うん、そう……ってぎゃぁぁぁぁ!?」


 なんでミラはリビングに転移しなかったんだ?


「いや、いきなりリビングに転移したら、待ち構えてた家族に昨日の失敗を怒られるんじゃないかと無意識に思ってて……それでもさすがにリビングに行くつもりだったのだけど……体が拒否反応を起こしたのかな……」


 どんな理由だよ。たぶんただのミスだな。ミラはもしかすると魔法の実力はポンコツなのかもしれない。


「ま、まあ、特に見られたら困るものが置いてあるわけでもないし……」


 確かに部屋はきれいに片付けられていた。何も知らなければ女子の部屋とは気づかないほどだ。こんなしっかりした人が転移先を間違えるなんて考えにくい。やはりミラは家族に怒られるのが怖いのだ。


 そのとき、部屋の扉が勢いよく開けられて、背の高い男が部屋に入ってきた。彼の頭には薄い水色の角が生えていた。


「ミラ、戻ってるのはわかってるぞ! どうしてこんなに遅くなった! 俺たちは昨日はずっと心配していたんだぞ!」


 男はずんずんミラに詰め寄っていった。ミラの父か兄だろうか。見た目からすると兄のように思える。


「申し訳ありませんヤム兄上。しかしこれには理由がありましてーー」


 ミラは言い訳を始めようとしたが、俺は思わずそれを止めた。


「ちょっと待て、なぜいきなりーー」


 俺はミラにさっと口をふさがれた。


「ちょっとリヒト兄上は黙ってて」


 いや疑問ばかりだ。どうして俺のことをさっきまで『リヒト』と呼んでいたくせに、いきなりヤムさんになったとたんに『ヤム兄上』になるんだ。しかも俺も『リヒト兄上』ということになっているし。


 もしかして、この家ではこの呼び方をするのが普通なのか? しかし、なぜミラはわざわざそれを破っていたのだろう。確かにショーリン家を何も知らない俺とリサは、今まで疑問に思わず『リヒト』という呼び方を受け入れていたけど。


「ちょっとやってみたかっただけ。貴族も大変なのよ。これからはやらないから」


 ミラが耳元でそうささやいてきた。俺もこの家がもしそういう言葉遣いをさせる家なのだとしたら、窮屈に感じると思う。ミラも少し羽目を外してみたかったのかもしれない。


「ミラ、何をやってる?」


 ヤムさんに(ということは俺も彼をヤム兄上と呼ばないといけないのか……)急かされて、ミラは「はいただ今!」と姿勢を正し、昨日からの出来事を語り始めた。

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