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「あなたは魔族です」

「リヒト、実はあなたは魔族なのです」


 と、俺は家族のそろったリビングで、高らかに宣告された。


「ええっ!? そんなわけがない! 俺はれっきとした人族だ! 父さんと母さんから十一年前に生まれたんだ!」


 俺はテーブルをバンバン叩きながら必死に主張したけど、少し前に俺の妹と名乗った彼女はまるで俺が年端もいかない子供であるかのように、俺を無表情に見上げた。


「それはリヒトがそう信じているだけ。リヒトはまだ生まれて間もない頃に、この家の前に置いて行かれたそうよ。……あれ? それくらいはご両親から聞いてない?」


 全く聞いていない。


「母さん! なんとか言ってくれ! 俺は母さんが腹を痛めて産んだ子だって、母さんは何度も言ってたじゃないか!」


 母さんはなぜか顔が青くなっていた。俺は助けを求めるように父さんを見た。父さんはいつになく険しい表情をーー祭りの前日にソラヤと二人で祭りのごちそうをあらかた食べてしまった俺たちを怒鳴ったときの表情をしていた。


「リヒト、俺は明日、リヒトが十二歳になったときに言おうと思っていたんだがーー実はリヒトは私たちの子ではないのだ。その女の子が言うとおり、十一年と三百六十四日前に、うちの玄関の前に赤ん坊のお前が置かれていたのだよ。俺たちはその赤ん坊にリヒトという名を付け、わが子同然に育ててきたのだ」


 そんなわけがない。俺は父さんと母さんの子であるはずだーーと俺は言いたいのに、俺のこれまでの人生を台無しにしてしまったその少女は、俺の聞きたくないことを話し始めた。


「さてリヒト、わかっていると思うけど、明日リヒトは12歳になる。ということは、リヒトは今日中に魔界に行っておかないといけないね」


 その話なら、俺も聞いたことがあった。魔族は子供のころは人族と同じ姿をしているが、十二歳になると頭から(つの)が生えてくる。これのある状態で魔族が人界に入ると、魔族は激痛に襲われ、すぐに死んでしまうのだ。


「それで、魔族は人族の様子を仕入れるという目的で、赤子を人界に捨て子として送り込み、十二歳になる直前に魔界に戻しているーーという話は、確かに聞いたことがあったけど……」


 まさか自分がそれに当てはまるだなんて、考えてみたこともなかった。


「とにかく、時間がないの。あと二時間でリヒトが十二歳になってしまう。リヒト、最低限の荷物だけ持ってきて。私と一緒に魔界に転移するから」

「ちょっと待ってくれ! 話が早すぎる! まだ心の準備がーー」

「あー面倒臭い! 私がやる!」


 彼女が「転移!」と唱えると、次の瞬間、俺の部屋に置かれていたはずの俺の着替え一式が、彼女の手に収まっていた。


「おい! 荷造りを転移魔法で済ませるな! こういうのって、手作業でゆっくりとやるものだろう……」

「だから、時間がないの! とにかくリヒト、早く行くよ!」


 と言って、彼女は俺に右手を差し出してきた。


「………………」

「ん? どうしたのリヒト? 女の子の手を握るのが緊張するの? でもリヒトは、魔界の私たちの家の場所を知らないでしょ?」

「それはそうなんだけど……」


 これは転移魔法のシステムによるものだ。転移魔法を使うには、転移したい場所のことをはっきりと理解しておく必要がある。そのため、彼女の家(これから俺の家にもなるのかもしれないが)の正確な場所を知らない俺には、自力でそこに転移することはできない。


 だが、その場所がわかっている人に触れていれば、その人と一緒に転移することができるのだ。


「いや、確かに転移するためには、君と手をつなぐ必要があるのだけれど……少し時間をくれないか。俺は妹に別れのあいさつをしておきたい」

「何言ってるの、妹は私よ。リヒトが言っている妹は、血のつながっていない偽りの妹なんだから、放っておけばいいじゃない。ていうか、その妹もう寝ちゃってるようじゃん。リヒトは眠っているレディーを起こすなんて、デリカシーがないなぁ」


 レディーといっても、あんな幼女には羞恥のかけらもなさそうだが。


「どうしたの、お兄ちゃん……さっきからずいぶん騒がしいね。眠れないんだけど」


 どうやら妹ーーリサは、自分で起きてきてしまったようだ。


「………………」


 でも、よく考えてみたら、これから永遠の別れをしないといけない妹に、何を言えばいいんだろう。


「あ、妹さんこんばんは。私はそこのリヒトの妹で、ミラ・ショーリンというのですが」


 俺が口ごもっている間に、俺の実の妹らしい人がーーミラが、勝手に自己紹介を始めてしまった。


「彼は実は魔族で、人界にいられるのは今日までなのですが、ぜひあなたに最後の別れをしたいそうです。まあ目に焼き付けておいてください」


 なんか説明が適当すぎないか。リサが呆れているぞ。


「それじゃあリヒト、家族に最後のあいさつを」


 絶対ミラは慌ててるよな……何か魔族の角を生やすための準備でもあるのだろうか。


 さて……何を言おうか。


「父さん、母さん、これまで俺を育ててくれてありがとうございました。魔界に行っても、父さんと母さんのことを忘れず、魔王を目指して頑張ります」


 紋切り型のあいさつになってしまった。よくある『王都に行っても、勇者を目指して頑張ります』と同じ構文を使っているだけなのだ。こんなことなら、もっと学校の勉強を真面目にしておくべきだったな。


「リヒト……まさかとは思っていたけれど、あなたがいわゆる『交換魔族』の一人とはね。いなくなると寂しいけれど、しっかりやってきなさい」

「リヒト、魔族といえども、本質的には人族と同じだ。良い友達をたくさん作って、悪い奴にだまされないように気をつけるんだぞ」


 父さんと母さんが次々に励ましてくれる。


「では……行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「体に気をつけろよ」


 父さん、母さんとがっちり握手した。次はリサだ。


「リサ、俺がいなくなっても、父さんと母さんを助けてくれよ」


 そう言って、リサの手もしっかりと握る。


「ほらリヒト、いつまでやってんの! さっさと行くわよ!」


 ミラが俺の手をつかんで、転移魔法の準備を始めた。


「あっ、お兄ちゃん、待って……」


 リサが俺の方に手を伸ばしてくるーー


「転移!」


 ミラの掛け声がして、俺の視界は暗転した。

 新連載です。

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― 新着の感想 ―
[一言] いきなり魔族だって言われてから文章の勢いも増して読みやすかったです。 ミラの性格も何となく、好きですね。 これから、リヒトが魔界で何をするのか、楽しみです!
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