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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第4巻 天狗の羽団扇

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96話 断れる日本人

「お帰りなさい、お婿さん」

「違います」


 大森山の怪鳥を調伏した後、一樹達は秋田市の春日邸まで戻ってきた。

 最大の目的は、結月から教えられた『金文の霊鳥』と『白鷹』について、再確認するためだ。

 2日前に聞いたときは、如来や菩薩の名前が出てきたために、倒すのは論外と断念した。だが、羽根を得るだけならば、倒す必要はない。

 拾い集めても良いし、地蔵菩薩の神気を持つ一樹が事情を話して譲って貰うのも手だ。


 ――楽をして集めよう。


 その様な発想に至ったのは、一樹は6種類の羽根を集めなければならず、現段階では1種類を達成したに過ぎないからだ。

 残りは5種類だが、現段階では他の怪鳥について、何ら情報を得られていない。


 ――そもそも鳥の妖怪は、基本的にはB級以上の強さにならない。


 生物は、種として存続するために、身体の大きさが最適化されている。

 飛ぶという行為は、基礎代謝が大きい。それでも飛ぶのは、獲物を獲得するためと、天敵から逃げるためだ。

 もしも鳥類にB級以上の強さがあれば、飛ばなくても地上で好きなだけ獲物を狩れるし、天敵に襲われる心配もなくなる。

 すると恐竜が絶滅して天敵が居なくなったダチョウのように、鳥類は飛行しなくなる。

 したがって風切羽を持ち、飛んでいる鳥類は、B級以上ではない。


 その例外が、特別な事情を有する種や個体だ。

 だがそれらも、大抵は出現した時代の武将、陰陽師、神仏などが倒している。

 怪鳥を探すのは困難であるため、一樹は『金文の霊鳥』と『白鷹』を候補に戻した。

 一樹はトラウマが強すぎるために、如来や菩薩に関わるのは極力避けたいと思っている。

 だが一樹であれば、仏の力を利用できる。

 そのため情報を再入手すべく、春日家を再訪問したのであった。


「任意の怪鳥作りについて、ご説明をしようと思いまして。それと宿泊もお願いしたく」


 そのように名目を立てたところ、秋田県の統括である結月は、当然ながら要請を受け入れた。


「あたしの部屋、鍵は掛かっていないから」

「違います」


 蒼依と沙羅が何かを言い出す前に、一樹は率先してツッコミを入れた。

 そして再び迎え入れられた一樹達は、荷解きをした後、結月を交えて応接室で話をした。

 昼下がりの応接室には、ケーキと紅茶が運ばれてきた。一樹達と結月で4人しか居ないにも拘わらず、ケーキは8種類も出されている。


「ありがとうございます」


 結月に礼を述べた一樹は、大森山の怪鳥に関する制御について切り出した。


「地脈の力を宿した怪鳥の素材は、新たに地脈の力を流す際の目印に使えます。それで新たな怪鳥を任意に作れば、弱い間に倒せて、制御可能です」

「声良鶏とか?」

「あるいは、もっと無害な鳥でも良いと思います」


 どのような鳥が良いのかについて、一樹は候補を考えていない。

 実際に怪鳥の誕生を管理する場合、管理する春日家が、自己責任で選定すべきだからだ。

 声良鶏の怪鳥は、ニワトリでありながら空を飛んでいた。

 これなら弱いと思った鳥が、予想外に強くなるかもしれない。そのため一樹も、断言や保証までは出来なかった。


「声良鶏は、強かったの?」


 結月は一樹に対してではなく、沙羅に向かって尋ねた。

 一樹に尋ねなかったのは、強さが相対的なもので、一樹の力を推し量れないからだ。一樹が「怪鳥は弱い」と言ったところで、結月にとって弱いとは限らない。

 それに対して従姉妹の沙羅であれば、力は概ね把握している。沙羅はB級認定されたが、結月もB級であり、同レベルの五鬼童一族とは共闘もしている。

 沙羅の主観は、結月にとって最も理解し易かった。


 沙羅から視線で問われた一樹は、答えて構わないとの意志を籠めて、軽く頷き返した。

 すると沙羅は、結月の問いに答える。


「前に倒した、東側の絡新婦の母体くらいの強さだと思います」


 沙羅が挙げた例に、結月は驚きで目を見開いた。

 その妖怪は、かつて沙羅の右手の肘から先と、左足の膝から先を失わせた個体だ。

 結月の母と兄も妖毒を受け、気の廻りを阻害されて、陰陽師を引退に追い込まれている。


 ――警告するために、敢えて出したのか。


 沙羅は、B級陰陽師でA級妖怪と戦う無謀を訴えたかったのだろう。

 格上と戦うことが、如何なる結果をもたらすのか。それは絡新婦の母体と戦った結果で、沙羅と結月は思い知っている。

 一樹もS級の獅子鬼との戦いで、敗退を経験している。

 蜃で呪力を消費させられた後の不意打ちだったが、獲物を襲う野生動物は、基本的に不意打ちをする。

 妖怪とは、交戦協定を結んでいるわけではない。

 作戦を立てる知能も、強さのうちであり、一樹達は敗北した。

 だからこそ、敗北する可能性の高い同格以上の相手とは、戦ってはならない。

 そんな協会の方針、かつ真っ当な警告を受けた結月は、沙羅の意を汲んだ。


「管理するけれど、怪鳥が弱いうちに入れ替えることにするわ」

「それが良いと思います」


 方針が定まった後、結月は一樹に尋ねた。


「怪鳥は使役しないの?」

「そうですね。大きくて、乗って飛べそうな点には惹かれますが、恨みを買いすぎました」


 一樹は怪鳥に対して、地脈を封じて誘き寄せ、殺して、羽根も抜き取っている。

 恨みは大きいであろうし、それを縛るのであれば友好的な妖怪よりも消費は大きい。

 消費量は、おそらくA級中位ほどになる。

 それで戦力的には牛鬼より低くなりそうなのだから、非効率の度が過ぎる。


 メリットがあるとすれば、飛行能力だ。

 大抵の陰陽師は、車に霊具などを積んで、現場に向かっている。

 だが一樹は、車の免許を取れる年齢ではない。バイクであれば免許を取れるが、荷物の積載量は小さいし、二輪車で走行中に怨霊に襲われれば事故も必至だ。

 飛べる怪鳥には利点もあるが、弱くて消費が大きい点が、一樹に使役を断念させた。


「鳥が駄目なら、馬はどうかしら」

「馬ですか」

「東北には、龍馬りゅうばという飛べる馬も居るわ」


 龍馬とは、龍の頭に馬の身体を持った霊獣だ。

 霊獣であるため霊力を持っており、人を乗せて空も飛べる。

 栃木県にある日光東照宮の陽明門に彫られているが、山形県最上郡金山町有屋の龍馬山には、本物が姿を現わす。

 毛並みは白色で、山頂や岩場を渡り歩く姿が確認されている。

 およそ60年に1度の周期で現れるそうだが、日露戦争の頃に目撃された記録があるため、そろそろ出ても良い頃合いだ。


 ――でも生きているなら、霊体として影から出し入れ出来ないから、逆に不便か。


 馬に乗り歩きながら仕事をするのは、非常に難しい。

 駐車場に馬を停めれば、奇異な視線を向けられるだろう。

 飼葉と水を与えておいてくれなどと、誰に頼めようか。そして犬の散歩をするように、道路に落ちた馬糞は拾わなければならないのか。

 一樹が難しい表情を浮かべていると、蒼依が微笑んで宣う。


「馬を飼ったら、名前は馬太郎でしょうか」

「……馬は、結構です」


 断れる日本人である一樹は、仏頂面で答えた。


――――――――――――――――――

・新年のご挨拶

あけましておめでとうございます。


旧年中は、大変お世話になりました。

本年もよろしくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 確か海外で観光地の家畜化されていない野良鶏は飛べるみたいな話を聞いたような。 [一言] 次の怪鳥はペンギンにしましょう!
[良い点] 倒すのは論外と断念した。だが、羽根を得るだけならば、倒す必要はない。 そうだな。倒さなくとも入手法は有るか。 [一言] 確かに移動に使える式神が欲しいですねぇ。
[一言] あけおめ! 今年私は休みの大半を風邪に取られてしまったZE! 風邪にはお気を付けください、ゴホ
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