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【6巻5/20発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介
第1巻 転生陰陽師
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06話 見習い陰陽師

あるじ様、朝ご飯が出来ましたよ」


 山姥を撃退した一樹は、式神にした山姫・蒼依の家に引っ越した。

 式神にした蒼依は、霊的な存在では無く、生者だ。

 式神術には、3大系が存在する。

 1つ、鬼神・神霊を、呪力と術で使役する陰陽道系。

 2つ、異界より喚び出す護法神系。(神社の稲荷、寺の金剛力士など)

 3つ、紙や木片に、自分や誰かの呪力を籠める道教呪術系。

 故に本来であれば、生者を式神には出来ない。

 だが蒼依は、女神イザナミの分体である山の女神で、陰陽道系で使役できる『神』に含まれる。

 そのため一樹は、蒼依を式神として使役できた。


 蒼依は生者であり、常時顕現している。

 そのため使役者である一樹は、気を与え続けなければならない。

 あらかじめ大量の気を与えて節制させれば、消費し切るまでは保つだろう。霊的な質の高い護符や装飾具に気を封じて渡せば、期間も伸びると思われる。

 だが気を消費するごとに会いに行く手間や旅費、呪具の購入費といった切実な問題が立ちはだかるので、遠距離で保つのは一樹には不可能だった。

 そのような事情もあって、一樹は多少の心理的な抵抗を抑え込みながら、開き直って一緒に居るという結論に至った。


『俺と一緒に暮らしてくれ』


 まるでプロポーズである。

 はたして蒼依は、開き直った一樹に上目遣いで目を合わせながら、微笑んで答えた。


『はい、分かりました』


 かくして一樹は、蒼依と一緒に住む事になった訳だが、住居は蒼依の住んでいた家になった。

 賀茂親子が住んでいたのは、築40年は経っている家賃4万円台の激安アパートだ。対する蒼依は、山姥が所有するリフォーム済みの立派な日本家屋に住んでいた。

 蒼依を和則の激安アパートに同居させるわけにはいかない。かくして一樹は、自分が半独立して住民票を移し、中学校も転校した次第であった。

 実態は、式神の家に居候であるが。


(許すまじき、閻魔大王)


 裁定者を罵った一樹は、人生で初めて手に入れた自室を出て、リビングへと向かった。

 2階建ての日本家屋は、1階部分が6LDKで、その他に応接間などもある。2階部分は4LDKで、ようするに広い田舎の住宅だ。かつて山姥が1階に住み、蒼依と両親は2階に住んでいた。

 応接間には鷹の剥製や絵画が飾られており、庭には大きな納屋や作業場もあって、人を解体できそうな道具も沢山置かれていた。

 家の駐車場は車8台が同時に駐車できる広さで、一樹は人を招き入れて喰う山姥の家らしい造りだと、妙に納得した。

 現在は一樹と蒼依が2階で暮らしており、1階は手付かずとなっている。




 朝食は、一汁三菜の和食だった。

 ご飯に汁物、主菜となる焼き魚、副菜が茄子南蛮で、副々菜がほうれん草のお浸しだ。それが一樹と蒼依の2人分、並べられている。

 なお和則は、激安アパートで自炊している。


(まあ、母さんに離婚された父さんが悪いと言う事で)


 父親の哀れな姿を見た息子が自戒する中、未だ感情が冷え込んでいない蒼依は、一樹に作った朝食を見せながら尋ねた。


「もっと多い方が良かったですか。ちょっと分からなくて」

「いや、全然大丈夫だ。朝は焼いた食パンにバターを塗って終わりとかだったからな。ありがとう。美味しそうだ」


 一樹が感謝の言葉を述べると、蒼依は機嫌良さそうに答えた。


「おかわりも、有りますから」

「いただきます」


 一樹は新しく用意された箸を使って朝食を摂り始めた。

 なお一樹が相川家に住む名目は、相川家の山に住み着いた妖怪から、相川家を守るためという事にした。

 その依頼は、依頼主の老婆からC級陰陽師の賀茂和則に対して、正式に行われている。

 だが残念な事に、陰陽師が来る前に老婆は孫娘に対して、「もう一度だけ森を見てくる」と言って姿を消した。そして到着した陰陽師が孫娘の話を聞いて森に入ったところ、何かが戦った痕跡があった。

 ……という形で、老婆に対しては蒼依が特別失踪届を出した。

 他の陰陽師も入って現場検証が行われ、確かに妖気は確認された。

 正式に依頼が出された記録があり、初対面の国家資格を持つ陰陽師と、当事者の家の孫娘の証言とが一致しており、現場検証でも確認されたので、これ以上は疑う余地が無い。


「もしも山姥がノコノコと出てくれば、『これは依頼主を喰った山姥だ』と主張するから、その時は口裏合わせを頼む」


 食事時にする話では無いが、早めに伝えておくべき事であろう。

 一樹が対処方法を話すと、蒼依は疑問を尋ねた。


「もしも祖母が全てを話したら、どうしましょうか」


 すなわち蒼依が山姥の孫であり、山姥になりかねないという事だ。

 なにしろ山姥は、夫に振られて「1日1000人殺す」と宣うような相手の分体である。自暴自棄になって、周囲を巻き添えにする可能性は、無いとは言えない。

 一樹は箸で焼き魚の身をほぐしながら、山姥の捨て身に対する方法を語った。


「その時は、蒼依が山姥ではなく、神気を備えた山姫だと説明する」


 陰陽師には、妖気と神気の判別くらいは出来る。

 輪廻転生時、一樹の気を倍加させた裁定者……本人は閻魔大王とは名乗っていなかったが、閻魔大王は地蔵菩薩の化身だ。地蔵菩薩は疫病や悪霊を防ぐ神であり、その気は神気である。

 それを送り込まれる蒼依は、まさに神気を備えている。

 神気を備える山の女神は、陰陽師協会の討伐対象には指定されない。

 人を守る神を討伐するなど不遜であり、陰陽師の方が人の敵になってしまうからだ。


「俺が気を送る限り、人を喰わなくて良い。そして神気を備えていけば、神性を得て山姥では無く、山の女神に至る。まあ、俺の式神だけどな」

「別に、良いですよ」


 蒼依の返答に対する解釈に迷った一樹は、沈黙して箸を進めた。

 なお山姥が抱え込んでいた財産は、1年ほどで蒼依に相続される予定だ。

 蒼依は既に両親の財産を相続しており、死んだ祖父から相続した母の預金があったため、生活に困る事は無い。

 それに対して一樹は、名目は兎も角として、実態は居候である。威厳の無さにも程があった。


「今後の事だが、俺は正式な陰陽師になろうと思う」

「正式な陰陽師ですか?」


 聞き返された一樹は、厳かに頷いた。

 陰陽師は、試験を受けて合格すると与えられる国家資格である。

 日本のライセンスは国際基準にも沿っており、上はS級から、下はF級まで7段階で統一されている。

 そして一樹は見習いで、未だ正式な資格を持っていなかった。


「合格者は毎年500人以上で、収入は上に上がるほど稼げる」


 実入りが良い分だけ、命の危険もあって、一定の殉職者も出ている。

 高齢になった陰陽師が現場に出られなくなり、資格が人数外の退役陰陽師に切り替わる時期は、60歳が目安とされている。

 16歳で合格して60歳まで活動すれば44年間で、毎年500人を受からせれば2万2000人の陰陽師がいるはずだが、日本には1万人しか陰陽師が居ない。つまり半数以上の陰陽師は、定年を迎えられずに引退ないし殉職する。

 それでも父親の姿を見ている一樹は、陰陽師を志望する。

 父親の和則は、稼ぎが少なくて、離婚されている。そして一樹が最も稼げそうなのが、陰陽師だった。


「試験は夏にある。それまでに試験用の式神を使役して、準備を整える。だから済まないが……金を貸してくれないか」


 貧乏な転生先に送り込んだ裁定者に向かって、一樹は呪詛を送った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] バターなんて贅沢だ(笑) マーガリンにしな!(笑)
[気になる点] 数話で同棲することになるとは..... [一言] 情けない夫と支える妻の関係に見えてきた笑笑
[一言] 蒼依は今まで通り紛れるために歳取ってく様にするんですかね?もしくは式神としていきるってことである程度の年齢で止めるのかな?(容姿の若さを操れるならですが)
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