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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻 山の女神

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37話 究極の契約

 晴也の式神を探す2日目。

 ホテルを出た一樹はタクシーを呼び、晴也とキヨを連れて、同じ田辺市中辺路町真砂に流れる富田川のほとりまでやって来た。


「安珍・清姫伝説の初出は、西暦1040年から1044年に書かれた『法華験記』だ。色んな書物や芸能があるけど、概ね整合できる」


 安珍・清姫伝説は、まとめると次のとおりだ。

 昔、和歌山県田辺市中辺路町真砂に、荘司(荘園の管理者)の藤原左衛門之尉清重という者が居た。清重は妻に先立たれ、子供の清次と共に暮らしていた。

 ある日、清重が散歩していると、黒蛇に飲まれている白蛇を見つけた。

 白蛇を哀れに思った清重が助けると、数日後に白蛇の化身である白装束の女が宿乞いをしてきて、そのまま清重と夫婦の契りを結び、妻となった。

 やがて白蛇の化身である妻は、清姫を生んだ。


 それから13年後の西暦928年の夏頃、岩手県出身の安珍なる僧が、和歌山県で熊野参詣の道中、清重に宿を借りた。

 安珍は其形端正な男で、清姫から懸想される。

 言い寄られて困った安珍は、熊野参詣後に再び立ち寄ると口約束して、旅立ち、戻って来なかった。

 誰彼構わず聞いて探し回った清姫は、安珍を追いかけて見つける。だが清姫の姿を見た安珍は、逃げ出した。

 日高川を渡し船で逃げる安珍に対し、清姫は大蛇に変じて追いかける。道成寺に逃げ込んで、鐘の中に匿われた安珍は、清姫に鐘ごと焼き殺された。

 やがて2人は蛇に転生して、道成寺の住職に供養を頼んで成仏する。


 1359年、鐘の再興を行おうとした道成寺は、清姫の怨霊に妨害された。蛇に変じた怨霊が、鐘を引き摺り下ろし、鐘の中に入り込んだのだ。

 寺は鐘を取り付けたが、不穏な音が続いたため、やむなく鐘を打ち捨てた。

 1585年、豊臣秀吉が紀州征伐を行った際に家臣が山中で鐘を見つけて、怨念を解くべく、京都市の妙満寺に鐘を納めている。

 清姫の墓は、故郷である真砂の富田川のほとりに石塔が建てられた。

 石塔の横には、清姫之墓と刻まれた石碑があって、『煩悩の焔も消えて今ここに眠りまします清姫の魂』と書かれている。


「石碑は、怒りが消えたから建てたんじゃなくて、他人が勝手に消えたと決め付けて、安心したかっただけだろうな」


 蛇は、恩も執念も深いから……とは口にせず、一樹は墓前まで連れてきたキヨに語り掛けた。

 1100年もの昔話だが、自らの墓を眺めた怨霊のキヨは、やがて泰然自若と首肯した。


「あたしが居ますから、そうなりますね」


 一樹が想像したとおり、キヨは伝説の清姫であった。

 人が隠れた巨大な青銅の鐘に巻き付いて、融解させられる大蛇の清姫は、氷柱女とは比較にならない程に強いだろう。

 他にも色々な事が出来そうだが、人間を殺すだけであれば造作もなさそうだ。


 清姫の母であった人化する白蛇は、齢千年を超える白蛇の精が、仙術を会得して至る存在だとされる。

 白蛇の能力に関しては中国の記録を頼るしかないが、日本では同格の存在として、齢千年を超えて神通力を得た仙狐がある。

 神通力を会得した仙狐は、人界にあっては最強の狐だ。

 位が1つ下とされ、500年から900年を生きる気狐の1人が、日本陰陽師協会に属しているA級3位。仙狐や白蛇は、それよりも強いかもしれない。

 それでは白蛇の半妖で、仙術を会得していないキヨは、どの程度だろうか。

 修行していないにしても、怨霊として齢千歳を過ぎたキヨは、力がA級に達するか、準じるかはしているだろう。


(狐よりも蛇の方が、戦闘型の生き物だからな。A級の強さは、有りそうだ)


 一樹はキヨの力について、まともな修行は行っていないが、怨霊として1100年も存在した点を考慮して、A級だと見積もった。

 キヨに対しては、B級上位の牛鬼を前面に押し立てたところで、勝利できるとは限らない。

 D級の晴也が有する呪力程度では、式神として維持できる存在ではなかった。


「結婚すると嘘を吐いた安珍は、悪い男だとして……」


 キヨが怒って暴発しないように、一樹は逃げた安珍が悪い男と断言しつつ、対策を考えた。

 手持ちで最大の戦闘力を有するのがB級上位の牛鬼である一樹は、より強い力を持つキヨと争えば負ける可能性が少なからずある。

 敗北は死とイコールであり、力での排除は試みられない。

 A級陰陽師を複数呼べば排除できるかもしれないが、下手な動きをすれば知能が低くないキヨは気付くし、A級を呼び集める前に晴也が衰弱死する。


 だがキヨは、人との対話が可能な白蛇の半妖だ。

 一樹は自身がリスクを負わず、晴也も焼き殺されず、衰弱死もしない方法について思い付き、キヨに交渉を試みた。


「晴也はキヨさんを捨てず、大切にすると約束した。その約束を守れば、晴也を害さないという事で良いですか」

「それは勿論です」


 キヨは当然だとばかりに、力強く主張した。

 それならば、交渉が成立する余地も有る。

 陰陽師の一樹は、怨霊であるキヨとの妥協点を模索した。


「晴也は式神じゃなくて、可愛い彼女が欲しかったんだろう。本音では、彼女ではなく、結婚したいと思っていた。この際、使役する式神契約は諦めて、別の契約、キヨさんと夫婦の契りを結んだらどうだ」

「……何だと!?」


 疲労して虚ろだった晴也が、驚きの声を上げて反応した。

 あまりにストレートすぎる物言いだっただろうか。

 だが晴也はそれを望んでいたし、逸話通りならばキヨも同様に望んでいる。それが最善だと確信した一樹は、勢い良く晴也に畳み掛けた。


「キヨさんは、霊として自立してきた。だから使役ではなく、これまで通り霊として存在してもらう。そして晴也に取り憑き、気の吸収を最低限に抑えて貰えば、陰陽師の呪力を持つ晴也なら衰弱しない」


 晴也が浮気せず、大切に扱えば、その分だけ任意の協力を得られる。

 式神として使役するのではなく、背後霊のように勝手に取り憑いて、勝手に協力する存在とするわけだ。


「使役ではなくて、夫婦間での任意の協力だな」


 晴也が衰弱死せず、キヨも納得するには、それしかない。

 夫婦と聞いて大人しくなったキヨに対しても、一樹は畳み掛けた。


「キヨさんも式神に成りたいのではなく、捨てられず、大切にされたいのだろう。晴也は式神契約してくれと言ったが、式神化する約束は果たしたし、ずっと式神契約を続けるとも言っていない。次の段階が、夫婦になるわけだ」


 約束は破っていないと念を押した一樹は、現状のままでは拙い事、他の道がより良い事を補足する。


「式神契約だと、晴也は呪力が足りなくて衰弱死するが、夫婦であれば約束を守って添い遂げられる。キヨさん、妻として、不甲斐ない夫の晴也を許してやってくれないか」


 晴也を死なせないためには、キヨに売り飛ばすしかない。

 医者が壊死した部位を切除して患者を救うように、一樹は陰陽師として、取り憑かれた晴也を救うための判断を下した。


「晴也、お前は衰弱していて、このままだと残り数日の命だ。他に助かる方法は無い。お前は独身で、他に彼女も居ない。今がチャンスだ。さあ、キヨさんに結婚を申し込め」


 本当に彼女が居ないのかは、一樹も知らない。

 夕氷に振られていたので、多分居ないと思っただけである。

 一樹は晴也の身体を90度回転させてキヨに向け、困惑して大人しくなっているキヨの方へと軽く押し出した。

 そして早く申し込めとばかりに、晴也の背中を軽くバシバシと叩いた。

 はたして憔悴している晴也は、やがて必要な言葉を口にした。


「…………俺と結婚して下さい」

「はい、あなたの妻となります」


 かくして陰陽師の晴也は、A級の強大な怨霊を結婚という契約で縛った。

 結婚が成立したのを確認した一樹は、両手を挙げて無言のままガッツポーズをした。そして直ぐさま、2人に向かって指示を出した。


「結婚おめでとう。晴也、奥さんとの式神契約を解除しろ。奥さんは、旦那さんとの式神契約の解除後、ちょっと弱っているから、優しく取り憑いてやってくれ。いや目出度い、実に目出度い!」

「……ああ」

「分かりました。どうぞ解除して下さい」


 晴也とキヨの合意によって、式神契約が解除された。

 すると晴也に掛かっていた多大な負担が、瞬時に消え失せる。途端に晴也が蹌踉めいて、その身体をキヨが甲斐甲斐しく支えた。


 強引に「めでたしめでたし」で纏めた一樹は、晴也の式神探しには二度と協力しないと、固く心に誓ったのであった。


>晴也は、A級妖怪(可愛い幼妻)を手に入れた


ヽ(*´∀`)ノ 「めでたし、めでたし」

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― 新着の感想 ―
[一言] 草生えるwwwwwww 一樹「アホくさ」
[良い点] まとめ方がひどいww いや、他人事だしね。今回は式神増やさないって約束したしね。 晴也は自業自得だしね。 でもひどいwww 以前から気になってましたが、コミック拝見してWEB版読みに来…
[一言] 約束破って正体見て逃げたら追いかけてきてーってところ考えると 一樹くんのところの嫁さんも大本的には結構なもののような気もする 他人事でもないような
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