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【8巻4/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師8巻4/15発売
第10巻 打ち出の小槌

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281話 変化の宝物

「総泉寺の狸が怒っている理由は、よく分かった」


 絵馬の中から豊川稲荷のお堂に戻った一樹は、呆れ顔でぼやいた。

 先ほどまでの世界は、土行護法神である姫松が描いた過去だ。

 一樹が小山の小狐、香苗は姫松、良房は亀太郎、伊代はおとん女郎になっていた。

 そして藤内、総泉寺の狸達、大名行列は、いずれも土行護法神の記憶の再現だ。


 一樹が体験した通りの過去があったのなら、妖狸が化けて出たのも道理だろう。

 あのような死に様で、納得しているわけがない。

 もっとも、一緒に絵馬の世界に入っていた三狐は、一樹の予想とは異なる反応を示した。


「お父様が、立派な妖狐で、良かったですわ」

「うむ。天晴れな化かし方だったね」


 おとんを体験していた伊代が亡き父を讃えると、亀太郎だった良房も藤内を褒めた。

 狐のほうは、まったく反省していない。


「藤内狐は、妖狸に対して嘘は吐いていませんでしたね」


 姫松だった香苗も、澄まし顔である。

 これでは狐狸の大戦争は、不可避である。

 もっとも良房の説明では、すでに勃発して、相当の犠牲を出した後のようであるが。

 小山の小狐や藤内は狸と無関係に落命しているが、姫松や亀太郎は、それが原因かもしれない。

 なんとか気を取り直した一樹は、依頼の話に戻った。


「仔細は、承知しました。総泉寺の妖狸が無念を抱えており、妖狐が大名行列に化けてみせれば、多少は無念が晴れるということでございますね」

「そういうことになるね」


 良房は、手元で煙管を弄びながら頷いた。


「争いの火を付けるのは容易いが、鎮火は手間だ。妖狐が化けて、納得させるのが穏当だろうね」

「良房様の方針は、分かりました。それで、香苗が化けてみせるという話ですが」


 一樹が目をやると、香苗は困ったように眉尻を下げた。


「姫松の過去は見ましたが、それほど変化が得意ではありませんでした」

「そうだな。地脈の力は使っていたが、変化はしていなかったな」


 香苗の説明に、一樹も同意した。

 姫松は力のある二尾だったが、陽気で気安く、妖狐らしからぬ真っ直ぐな性格だった。

 神域や地脈の力を使い、神性が高い反面、変化は不向きな印象を受ける。

 木行のように土行を継承したところで、立派な変化の術は、身に付きそうにない。


「あの中で変化が得意なのは、おとんでしたよね」


 音羽が滝のおとんじょろは、滝に来た長兵衛という男を騙して、母子、叔父と叔父の家、僧の幻を見せて、髪を剃り落としたと伝わる。

 そこまで変幻自在な術を使えるのなら、大名行列に化けることもできるだろう。

 おとんを体験していた伊代に視線が向かうと、彼女は苦笑いを浮かべた。


「わたくしには、とても再現できませんでした。そもそもわたくし、一尾でございますので」


 伊代は堂々とした態度で、自分には無理だと開き直った。

 そもそも父親の藤内が、一尾であった。

 血筋、教育、江戸時代に一尾だった藤内の娘という推定年齢。

 いずれの条件でも、二尾には届かなそうである。


「そういえば、おとんは変化を使っていませんでしたね」

「狸との戦いでも、誤魔化しました。わたくしには、分不相応だったようですわ」


 絵馬に描いたおとんには、二尾相当の力が与えられていた。

 だが、いきなり楽器を渡されたところで、演奏などできない。

 それと同様に、いきなり呪力を与えられても、巧みな変化の術など使えないのかもしれない。


 それに、おとんの過去を体験したといっても、姫松の記憶にあったごく一部だ。

 総泉寺の狸に狙われた伊代自身が、大名行列に化けることは、不可能であろう。


「そもそも妖狐の変化は、どのように行うのですか?」


 一樹は興味本位で、三尾の良房に尋ねた。

 すると良房は、手元に狐火を浮かばせる。

 それが一つ、また一つと増えていき、やがて蛍火のように、座敷の中を漂い始めた。


「それでは、先ほどの大名行列を再現してみようか」


 赤かった狐火が、五行の五色に輝いた。

 お堂の中が、幻想的な色に染め上げられていく。

 最初に現れたのは、人の姿だった。


「絵馬の世界で道案内を務めていた男か」


 その後ろには、瞬く間に大名行列が浮かび上がる。

 槍組の者達が、槍を肩に担いで歩いている。

 弓を携えた弓組、火縄銃を抱えた鉄砲組が、周囲を見渡しながら後に続く。

 犬追者が率いる犬達も、尾を振りながら主人の傍を歩いていく。

 とても幻とは思えないほど、精緻な動きだった。

 しかも従者達の着物の柄、刀の拵え、足袋の色など、細部まで完全に再現されている。


「さっきと遜色ありませんね」


 注視した香苗の視線の先では、狐火の行列が、座敷の中を警戒しながら進んでいく。

 草鞋が地面を踏みしめる音、馬の蹄の音、金属が触れ合う音までもが聞こえてくる。

 それらが重なり合って、強烈な存在感を生み出していた。


 やがて馬に乗った殿の姿が現れた。

 立派な陣笠を被り、腰に刀を差している。

 続く馬の背には、狩りで仕留めた鹿が積まれていた。

 殿の表情満足げで、狩りの成果に上機嫌な様子まで伝わってくる。

 先ほどよりも堂々としていて、大名行列らしかった。


「脇差、立派になっていませんか」


 伊代が注目した殿の刀は、総泉寺の妖狸がケチを付けた物よりも上等だった。


「ああ、そこは変えてみたよ。狸が偉そうだったのでね」


 変幻自在な術を見せつけた良房は、軽く煙管を振った。

 すると大名行列を生み出していた狐火が、霧のように消え失せていった。


「こういう感じだね。呪力は、あまり必要ない。どちらかといえば、術の巧緻だね」

「できません」


 造作もなくやってのけた良房に対して、香苗が即答した。


「音楽に練達した香苗君であれば、すぐに身に付くよ」

「今回は、変化の術に長けた妖狸が相手なのですよね。付け焼き刃は、見破られませんか?」

「そこは、補助の道具で解決しよう」


 意外な提案に、香苗は困惑した。

 妖狸を騙した藤内も、七福神に化けられる七変化の玉を持っていた。

 だが七変化の玉は壊されており、鳥取藩内の妖狐が別の道具を持っていた覚えもない。


「打ち出の小槌という宝物は、聞いたことがあるかな」

「七福神の大黒天が持っている小槌のことですか?」

「ほかに、一寸法師なども持っていたね」


 一寸法師とは、『御伽草子』などに伝わる男の伝承だ。

 書物によって内容が若干異なるが、身丈一寸ほどの男が、その身体を活かして鬼の身体に入り、内側から攻撃して退治するという話である。

 逃げ出した赤鬼は、打ち出の小槌を落としていった。

 その小槌を姫に振ってもらった一寸法師は、身体が大きくなり、都で中納言まで出世した。

 御伽草子では、金銀を出したり、飯を出したりして、幅広く使った記述がある。


「打ち出の小槌は、いくつもある神授の道具だ」

「そうなのですか?」

「高知県や鹿児島県には、立派な薪木を海に捨てた者達が、何か勘違いした竜宮から礼品として、打ち出の小槌をもらった話も伝わる」

「竜宮ですか」


 香苗は困惑しつつも、納得した。

 その理由について一樹は、真っ先に柚葉を思い浮かべた。

 龍神は、人と妖狐以上に感覚がズレている。

 そのため龍神の娘である柚葉は、わりと勘違いをする。


 また犬神継承に用いられた『干珠』も、神功皇后が龍神に返すつもりで海に沈めたと伝わるが、意思疎通がままならなかったようで、花咲家の元に渡っている。

 龍神が何かを勘違いするのは、今に始まったことではない。


「打ち出の小槌は、様々な物を自在に生み出せて、一寸法師のように姿も変えられる」

「それを使って、大名行列を出すのですか?」

「狐火で出した行列に、小槌で出した装備を持たせて姿も変えれば、立派になると思うよ」


 香苗に問われた良房が、太鼓判を押した。


「それは立派になりそうですが、道具を使っても大丈夫なのでしょうか」

「道具を使わないなんて、狸と約束していないからね」


 良房は、堂々と言い放った。

 こうして現代の狐は、道具で狸を化かすことになった。

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― 新着の感想 ―
>これでは狐狸の大戦争は、不可避である。 おそらく狸も似たような事してるんだろうからどっちもどっちなんだろうがなぁ。 打ち出の小槌ゲット。まぁ道具使っちゃいけないなんてルール無いから別にいいか。
更新お疲れ様です。
何となく協会長はいつも苦労してそうだな〜と思った。 自分タヌキだけど上司はキツネだし。
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