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【8巻4/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師8巻4/15発売
第10巻 打ち出の小槌

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・白い八咫烏【第8巻、予約開始】

 今話は、第8巻 予約開始の記念SSです。

 二年生への進級が間近に迫った3月。

 青ヶ島への遠征を計画した一樹が帰宅すると、事務所のパソコンにメッセージが入っていた。


「誰かなぁ」


 一樹がオンライン会議の連絡先を交換している相手は、それほど多くはない。

 陰陽師協会、陰陽庁、海上保安庁、配信者の数人くらいだ。

 そもそも事務所の連絡先を公開しておらず、協会と知り合い以外の依頼を受けていない。

 それで新たな連絡先が、増えるはずもない。


 首を傾げながら、アイコンをクリックしたところ、上役がメッセージを入れていた。


「宇賀様か」


 メッセージの内容は、『帰ったら連絡を頂戴』だ。

 厄介ごとの予感がした一樹は、溜息を吐いた。


 ――仕事、受けなさすぎだからなぁ。


 あまり依頼を受けない一樹は、ほぼ手透きの状態だ。


『名前を聞いた依頼人の誰もが納得する、二大宗家の賀茂家出身』

『陸海空の全状況に対応できる、万能型のA級陰陽師』


 宇賀から見れば、何度でも切れる、とびきりの手札に見えるのかもしれない。

 いつから自分は協会専属だったのかと首を傾げつつ、一樹は通話を繋げた。


『ごきげんよう。学校帰りかしら?』

「はい、先ほど帰ってきたところです。宇賀様は、どちらかに出張中ですか」

『ええ、いつものことよ』


 モニターに映った宇賀は、見慣れぬ会議室に居た。

 少なくとも、奈良県御所市に置かれている協会本部ではない。

 無常鬼でも追っているのかと考えた一樹の表情を見て、宇賀は苦笑した。


『違う違う、そっちじゃないわよ。お見合いの世話人ってやつ』


 宇賀の説明を聞いた一樹は、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。


「……と、仰られますと?」

『陰陽大家って、高呪力者同士で結婚しないと、呪力を保てないでしょう。でも最近は、親が言っても、なかなかまとまらないの』

「昭和の高度成長期くらいからは、そうらしいですね」


 国立社会保障・人口問題研究所の『出生動向基本調査』では、次のように示している。

 1960年前半、お見合い結婚が約6割。

 1965年半ば、恋愛結婚とお見合い結婚が同率。

 1970年後半、恋愛結婚がお見合い結婚を大きく上回る。


 理由は、高度経済成長期の動向だ。

 農村から都市部に人口が移動して、親の監視が届かなくなったこと。

 子供が親から独立して暮らして、親が制御できなくなったこと。

 職場で男女が、自由に交流する機会が増えたこと。

 それらによって、恋愛結婚とお見合い結婚の比率が逆転した。

 60年前の出来事にして、宇賀の基準では最近の話である。


「それで宇賀様が、仲人役に奔走しておられるのですか?」

『対等な陰陽大家同士だと、下手したてに出られないでしょう。それで代わりに、どうかしらと聞いてあげているの』

「宇賀様のご紹介だと、スムーズに話が進みそうですね」

『まあね。貴方の祖父母を引き合わせたのも、わたしなのだけれど? って言ったら、大抵の相手が黙るわよ』

「それは何も言えなくなります」


 陰陽大家の当主でも、陰陽師協会の創設メンバーである宇賀には敵わないらしい。


『それに駄目そうなのは、紹介しないから』


 宇賀は、予知能力を持つ人魚だ。

 その斡旋であれば、両人は末永く幸せになるだろう。

 それにお見合いをしたからといって、必ず結婚しなければいけないわけではない。

 宇賀は仲介して、機会を与えているだけだ。両者には、断る自由がある。

 それなら良いかと、一樹は頷いた。


『それじゃあ、本題に入っても良いかしら』

「お願いします」

『用件は、埼玉県支部からの調伏依頼よ。埼玉県入間市に、三本足の白いカラスの霊が出たんですって』

「三本足の白いカラスですか」


 三本足のカラスと言われた一樹は、真っ先に八咫烏を思い浮かべた。

 ただし、普通の八咫烏は黒い。


「それはアルビノですかね」

『アルビノの八咫烏って、全体で何羽くらい居るのかしらね』


 アルビノのカラスは、数万羽に1羽くらいとされる。

 八咫烏の全体数が少ないので、ほぼ居ないと考えられる。


「それでは金行が強くて、白色になっている。とかですかね」

『順当に考えれば、そちらでしょうね』


 宇賀はオンライン会議のチャット欄に、データファイルを載せた。

 それを一樹が開くと、伝承が載っていた。


 白い三本足のカラスは、埼玉県に伝わる妖怪だ。

 昔、偽物の太陽に化けて日照りを引き起こし、人々を大いに困らせていた。

 そこで平安時代に権勢を振るった『源平藤橘』の四姓が一つ、敏達天皇の子孫である『橘氏』の橘諸方(左大臣・橘諸兄の子)が赴いて、弓で射落とした。

 すると偽物の太陽に化けていたのは、三本足の真っ白なカラスであったという。

 このカラスを弓で退治したことに由来する射魔いるまから、埼玉県入間(いるま)市の地名が生まれている。


「埼玉県入間市という地名の由来は、この妖怪なのですか?」

『ええ。ほかにも、関連する地名はあるわよ』


 矢が落ちた場所は、『飯能市矢颪(やおろし)』という地名になった。

 太陽を討ったことから、『日討にっとう』(川越市日東(にっとう))という地名も生まれた。

 それを祀った地は、『日祭にっさい』(坂戸市入西(にっさい))と呼ばれている。

 細かく挙げていけば、さらにいくつかある。


「そこまで広範囲の地名になるなら、大物の妖怪だったのですね」

『そうみたいね。退治した橘諸方の母は、大化の改新を行った中臣鎌足の孫娘だから、結構な呪力持ちだったのではないかしら』

「退治した側も、なかなかの大物ですね」


 中臣鎌足は、三尾である藤原良房の六代前にして、藤原氏の始祖だ。

 稲荷神から『鎌槍』という武具を授かった人物でもある。

 その孫娘が、敏達天皇の子孫である橘氏へ嫁入りして生まれた子供なのだから、血統的に呪力の低かろうはずがない。


 そして一樹は、埼玉県支部が自分に依頼した理由に思い至った。

 八咫烏を5羽も使役している陰陽師は、一樹のほかに居ない。


 ――俺を八咫烏の専門家だと思われている気がしてきた。


 専門家とは、技術や芸術などの職域で精通し、専門的な知識と能力を持つ人のことだ。

 そして一樹は、八咫烏を育て、陰陽師として妖怪調伏に使役している。

 すると定義や実態に鑑みて、一樹は、八咫烏の専門家で間違いないかもしれない。

 テレビのテロップに『八咫烏の専門家』と付けられる姿を想像した一樹は、唖然とした。


「対応するのは構いませんが、空に対応できる陰陽師は、本当に少ないのですね」

『支部の陰陽師だと、強さが釣り合わないのよ。それじゃあ、よろしく』


 予知能力を持つ人魚の御墨付が、出てしまった。

 こうして一樹は、埼玉県入間市へ赴くこととなった。


       ◇◇◇◇◇◇


 週末、一樹は埼玉県入間市の入間市駅に降り立った。

 埼玉県の南西部に位置する入間市は、いわゆるベッドタウンだ。

 武蔵野台地と丘陵地に囲まれた自然豊かな土地で、都心まで通える範囲にある。

 農業産出額は、19億円。

 農業経営体数348経営体のうち、半数近い172経営体が、狭山茶を生産している。

 市のホームページでも、『全国手もみ茶品評会で入間市が産地賞20連覇!!』などと強くアピールしているほどの力の入れ様だ。

 そのため日照りにされては迷惑千万なのである。


「はぁ。まったく、迷惑な奴だな」

「「カアッ?」」


 一樹の両肩に留まった朱雀と白虎が、首を傾げた。


「白い八咫烏の霊の話だ。とりあえず西の加治丘陵に向かおう」

「「クワッ」」


 朱雀と白虎は、相槌を打つように鳴き返す。

 なお八咫烏達の理解度について、一樹はあまり期待していない。

 とりあえず頷いたからヨシと判断して、市内を歩き始めた。


 都内のように高い建物は見当たらず、遠方には山も見える。

 春の陽気に包まれた街並みは穏やかで、のどかな田舎町の空気が感じられた。


「タクシーで移動したほうが早いけど、土地を知るには、歩くのが一番だな」


 しばらく歩いた一樹は、やがて呪力を纏い、小走りになった。

 頑張って肩に乗っていた朱雀と白虎は、諦めて頭上へと舞い上がる。

 そのまま数分ほど駆けていくと、やがて一樹は、入間の茶畑に到着した。

 今の季節は、茶樹の新芽が膨らみ始める頃合いだ。

 だが茶畑は葉が黄ばみ、枯れていた。


「土に影響が出るのか」


 一樹は膝をつき、変色した土を手に取った。

 指先で揉むと、土がぱさぱさと崩れる。

 鼻を近づけると、かすかに金属臭がした。


「これは金行の影響だろうな」


 農作物に悪影響を及ぼすのは、一般的には土行だと思われがちだ。

 だが鉱物や金属の金行でも、悪影響は起きる。

 銅、ニッケル、亜鉛、マンガンなどの重金属元素が土壌中に過剰に存在すると、農作物の生育が阻害されるのだ。

 伝承の白い八咫烏が農作物に悪影響を及ぼしたのは、金行の力を振るったことで説明が付く。

 あとは偽物の太陽になったという伝承だが、八咫烏の専門家だと思われている一樹には、大いに心当たりがあった。


「お前らって、何でも掴んで運ぶよな」


 空を舞う朱雀の足に、行きがけで拾ったと思わしき小鬼が、ぶら下がっていた。


「ギャッ、ギャッ!」


 小鬼は小刀を振り回しており、その刃が陽光に反射して、キラリと輝いた。

 それで太陽の誤認は、達成である。


「朱雀、白虎。白い八咫烏の霊を見つけて、2羽で狩ってこい」

「「クワッ!」」


 バサリと翼を広げた朱雀と白虎が、入間市の空に舞い上がった。

 一樹が連れてきた朱雀は火行で、白虎は金行の八咫烏だ。

 相手は白い八咫烏の霊で、金行だと推定される。


 朱雀が戦う場合は、五行思想で、相剋の火剋金となる。

 火は、金を溶かす。火行が金行と相対すると、圧倒的に優位なのだ。

 白虎が戦う場合は、金行同士なので、不利が無い。

 一樹が呪力を供給するので、消耗戦になれば白虎の勝ちとなる。

 高らかに舞い上がった朱雀は、掴んでいた小鬼を投げ捨てると、飛行を始めた。


「ギャッ、ギャッ、ギャーーッ!?」


 放り投げられた小鬼は、万有引力の法則に従って、茶畑へと落ちていく。

 静かになった茶畑の上空では、2羽が小さくなっていった。


「頼むぞー」


 折れた茶樹を見なかったことにして、一樹は2羽に声援を送った。

――――――――――――――――――

★2026年4月15日(水)、第8巻が発売となります!

挿絵(By みてみん)


・第8巻『温羅伝説』

『千年、待っていた。全て受け取れ』

 その言葉とともに、小狐の魂が静かに香苗の身体へと溶け込んでいく。

 まるで長い眠りにつくかのように、穏やかに消えていった。


・共通特典『霞谷の妖物』

「怪しい女共だ」

「然り。日の入り後に山道を歩く女とは、如何にも怪しい」

 身長三メートル近い大男が二人、法師の格好に手燭を持って佇んでいるほうが、余程怪しい。

 陽鞠は周囲を見渡して、人通りが無いことを苦々しく思いながら訴えた。

「私達は、稲荷山への参拝の帰りです!」


・電子特典『獅鬼』

『我と汝は、陰陽の理に基づき顕現する。我が魂を籠めし白虎の矢よ、我らが敵を引き摺り出せ』

「グワアアアアアッ」

 一樹が放つ呪に、白虎の呪力が共鳴する。

 そして呪力を膨れ上がらせた矢が、一樹の手から放たれた。


・TO特典『馬入川の大スズキ』

「う、うっ、うおおおおおっ!」

 釣り人の身体が大きく引っ張られたと同時に、馬入川から大スズキが跳ね上がった。

 高らかに舞い上がった大スズキの大きさは、成人男性に匹敵している。

 それは通常一メートルとされる一般的なスズキとは、明らかに隔絶した巨大魚だった。



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本作が、TOブックス様より刊行されました。
【転生陰陽師・賀茂一樹】
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前作も、よろしくお願いします!
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おぅ,モロ地元だ……。
Web予約で見かけたので、更新期待してきました! ありがたや(^◇^) 予約? 気付いたら既にポチってあったから、予約済ですね。 きっと豊川の狐さん達が押して回っていると思われw 千幸さんの件で、折…
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