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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第10巻

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283/287

271話 翼に斑点を持つ巨鳥

「修学旅行で立ち寄った土産物屋の1店舗で、1時間半も使うなよな」


 札幌市の土産物店で買い物をした後、一樹達は札幌場外市場に移動した。

 札幌場外市場は、札幌駅からタクシーで15分。

 中央卸売市場の隣に位置し、鮮魚店、青果店、乾物店、塩干物の店が軒を連ね、観光客向けの飲食店も充実している。目的は、もちろん昼食だ。


「札幌伏見稲荷が何時間掛かるか分からないから、空き時間でお土産巡りをする予定でしたよね。予定通りだと思いますけれど」

「1店しか行っていないから、巡れていないだろう」

「午後にも、別のお店に行きますから、巡れますよね」

「午後にも同じことをするつもりなのか」


 一樹のツッコミが、柚葉に突き刺さった。


「俺も、講師用と後輩用のお土産を配送できたけどな」

「それなら10分くらいは、賀茂さんが原因ですよね?」

「俺は柚葉の隣で、自分の伝票を書いただけだ。俺が居なくても、柚葉が掛けた時間は減らない」


 柚葉の買い物は、目に留まった商品を手当たりに大量注文する形だった。

 一樹が陰陽師の資格証を提示していなければ、どこかの仕入れ業者だと思われたかもしれない。

 それに比べて一樹は、ささやかだったと自負している。

 買い物に付き合った一樹が呆れてみせると、柚葉は抗弁する。


「姉妹は沢山居ますから、好みも違うんですよ」

「手当たり次第に贈れば、どれかは好みに合うだろうということか?」

「そういうことです!」


 ほかにも予定を入れていれば、柚葉も時間配分を考えただろう。

 すると現状は、一樹が時間に余裕を持たせすぎたことに、問題があったのかもしれない。


 ――陰陽師協会って、余裕を持たせることが是だからなぁ。


 妖怪の調伏では、等級が低い相手と戦うことが推奨されている。

 B級下位の柚葉なら、C級以下の妖怪を相手にするようにと勧められる。それに加えて一樹は、知能を使う相手だと柚葉では危ういと考えて、さらに安全策を採らせる。

 普段から余裕が大きいほど良いと考えて行動しており、今回も同様に余裕を持たせた。

 その結果が、現状である。


「参拝が早く終わった場合の予定も、しっかりと組んでおくべきだった」


 一樹は反省しつつ、10店舗以上も立ち並ぶ食事処の一つに入った。

 料理の写真と文字の巨大な看板、観光バスすらも留まっている大きな駐車場、沢山の人の入り。ネットで調べた口コミ情報で、大人気があった海鮮食堂だ。

 案内された席に置かれたメニュー表には、大きくて色鮮やかな海鮮丼の写真が載っている。


「……ぼたんえび丼、うにかにいくら丼、焼きタラバガニ、12種の海鮮丼、お刺身尽くし」

「どれも美味しそうですね」


 どれも美味しそうだが、その中でも一樹の関心を惹いたのは、12種の海鮮丼だった。

 写真に映る魚介類は、いくら、うに、マグロ、サーモン、ホッキ貝、つぶ貝、アワビ、ホタテ、牡丹海老、タコ、イカ、タラバガニだ。

 見事な赤色が、視界に焼き付いた。

 さらに追加メニューの『追いいくら』を頼むと、追加でいくらを持ってきてくれるという。

 余らせたご飯で、ミニいくら丼まで食べられる。


「この海鮮丼、美味しそうですね」

「そうだな。この海鮮丼と、蟹汁と、追いいくらにするか」

「良いですね。いかにも北海道っていう感じですよね」

「確かに、マグロとアワビ以外は、北海道が主な産地かもしれないな」


 だとすれば新鮮だろう。

 6人が決めたところで店員を呼び、昼食を注文する。

 それから待つこと十数分、一樹と柚葉の目の前に、海鮮丼が運ばれてきた。

 同時に蒼依達のメニューも届いたので、店側が運ぶタイミングを合わせたのかもしれない。


「大きくて色艶が良いな」

「新鮮ですね」


 木製の盆に乗せられた丼には、12種類の海の幸が丼をはみ出して盛り付けられていた。

 いくらの粒は煌めいており、うには黄金色の艶を放っている。

 サーモンは、今捌いたのかというほど赤くて瑞々しく、油が輝いている。

 ホッキ貝やつぶ貝も淡い光沢を纏っており、ホタテやタラバガニの脚肉も厚みがあって、産地ならではの贅沢な盛り付けだった。

 蟹汁にも、しっかりと具が入っている。


「それじゃあ食べるか」

「いただきまーす」


 一樹は添えられたレンゲを手に取り、いくらの部分を掬って口に運んだ。

 プルプルと揺れていたいくらが、口の中で弾けて濃厚な旨味を広げていく。

 続いて箸を付けたサーモンは、油が口の中でとろけた。

 ホッキ貝には甘みがあり、ツブ貝はコリコリとした歯応えが強く感じられた。

 アワビは柔らかく、磯の香りが鼻を抜けていく。

 ホタテは厚みがあり、噛むと甘い汁が滲み出た。

 蟹汁は白味噌で、贅沢に使った蟹の出汁がしっかりと利いている。


「産地の海産物は、格が違うな」

「これも、お土産にしたいですね」


 柚葉も満足そうに食している。


「さっき、冷凍いくらを配送していなかったか」

「サーモンも頼もうかと思いまして」

「数百人分のサーモンを送るとか、量が多すぎるだろ。だけど女子が食べる量だったら、それほどでもないのか?」


 柚葉の体型は、普通の女子高生だ。

 姉の香林には、蒼依の昇神と神域作りを手伝ってもらったが、そちらも見目麗しい女性だった。

 二人が姉妹の標準体型だとすれば、とても大食漢には見えない。

 但し柚葉の姉妹は、蛇神から昇神した龍神の娘達だ。

 食事量は、人間が基準ではない。

 蛇は食い溜めをするし、龍には大食いのイメージもある。


「もしかして、結構食べるほうだったりするのか」

「そんなことはないですよ。普通です」


 柚葉の普通は、どこの界隈にとっての普通だろうか。

 安心材料は、学校での柚葉の食事量が普通であること。

 不安材料は、姉妹が多くて金が掛かると耳にした記憶があること。

 そんなことを考えながら箸を進めて、半分ほど片付けたところで、小太郎のスマホが鳴った。

 着信画面に目を落とし、小太郎が通話を始める。

 花咲グループの会長は大変だと思いつつ、一樹は柚葉との会話を止めて、食事に集中した。

 そんな食事は、小太郎が席を外して店外に出て、犬神を解き放ったことで終わりを迎えた。


       ◇◇◇◇◇◇


 午後2時半。

 一樹達を乗せたタクシーが、札幌市の北側に位置する石狩市内の海浜公園に到着した。

 公園の入口にはパトカー3台が停まっており、その先に警察官達の姿が見えた。ほかにも成人男性が居て、格好から北海道陰陽師協会の陰陽師と推察された。

 彼らが囲んでいるのは、北村班の北村を除く5人と、5人の傍に立つ引率の佐竹と教頭、そして傍に居る犬神だ。


「バウッ」


 タクシーを降りた小太郎は、尻尾を振る犬神と人だかりに向かって、歩み寄っていった。


「A級陰陽師の花咲小太郎です。修学旅行を行っている花咲学園の理事長でもあります」

「北海道警察本部、警備部妖怪対策係の警部、三浦です」

「北海道のD級陰陽師、渡辺です」


 警部の三浦は、30代前半。引き締まった長身で、冷徹な雰囲気を纏っていた。

 D級陰陽師の渡辺は、20代後半。黒の狩衣に茶色の袴姿で、鋭い眼光を放っている。

 自己紹介した3人のうち警察官の三浦が、小太郎の後ろに視線を向けた。


「あちらは賀茂A級陰陽師と、陰陽師事務所の所員です。事件解決に協力してくれます」


 小太郎が関係者だと説明すると、三浦は頷いて渡辺に視線を向けた。

 渡辺は一樹達を一瞥した後、小太郎に向かって話し始める。


「本日13時頃。石狩海浜公園に、翼に斑点がある巨鳥が出現。修学旅行中の生徒1名を捕らえて飛び去りました。妖怪被害と判断されたことから、道警本部の妖怪対策係が対応となり、北海道陰陽師協会に連絡が入って、私も駆け付けて情報収集をしているところです」

「状況は、電話で聞いていた通りですね。現地の陰陽師として、妖怪に心当たりはありますか」


 小太郎は短く礼を述べて、話の続きを促した。


「石狩川の河口に現れて、翼に斑点を持つ巨鳥。その特徴で真っ先に思い当たるのが、ケソラプという妖怪です。ケソラプとは……」


 ケソラプとは、アイヌに伝わる妖怪の名だ。

 アイヌ語では、ケソが斑点、ラプが翼の意味を持つ。

 その名の通りケソラプは、クジャクのオスのような斑点を持っており、大きさは人間を上回る。そして、人間の姿にも化けられる。

 気に入った人間を殺して魂を奪い、鳥に姿を変えて、自分と結婚させようとする話が伝わる。


 昔、石狩川の中流に住む男と、河口に住む男が居た。

 彼らは、長い友人付き合いをしていた。

 そんな2人が老人になった頃、河口に住む男の長男が、行方不明になった。

 そこで中流に住む男は、自分の息子に探しに行かせた。


 中流に住む男の息子は、上流側へと向かう。

 そして途中で、大きなエゾマツで出会った男に宿を貸してもらった。

 しかし宿を貸してくれた男は、一言も話さなかった。

 口が利けないのかと納得して、気にせず宿で眠っていると、夢にエゾマツの神の妻が現れる。

 エゾマツの神の妻は、宿を貸している男こそが行方不明になった男であり、彼はケソラプという魔鳥に連れ去られ、このエゾマツの木の下に来たのだと伝えた。

 ケソラプは男を餓死させ、魂を奪うことを目的としていた。

 そのためエゾマツの神の妻は、木の枝を曲げて家を作り、食料を与えていた。そしてケソラプを退治するため、中流に住む男の息子に暗示を掛けて、呼び寄せたのだと告げる。

 中流に住む男の息子は、ケソラプを毒矢で倒すようにと、矢と弓を渡された。


 中流に住む男の息子は、やがて様子を見に来たケソラプを射抜いた。

 それから攫われた男を無事に返し、自分も家に帰ったところ、夢に黒い着物を纏い、黒い被り物をした女が現れる。

 女は酷く怒った顔をしながら、中流に住む男の息子に訴えた。


『私は、神の国で伴侶を見つけられず、人の国で彼を見出したのです。私は死なぬ身体ですから、もう一度、あの若者を奪うつもりです』


 これに驚いた中流に住む男の息子は父親に話し、父親は村人を集めて、神々に訴えた。

 その後、中流に住む男の息子の夢に再び女が現れた。

 神々に阻止されて、河口に住む男の長男を奪えなくなったのだと、恨み言を告げたという。


「ケソラプは、鳳凰にも例えられています。人を災いから守って、幸運をもたらす存在であると。その羽根は、最高の御守りになると伝えられていますが……」


 脱線しそうになった渡辺は、頭を振って話を戻した。


「ケソラプはオスとメスが居て、異性の人間を奪おうとする伝承がいくつもあります。石狩川に現れた翼に斑点を持つ巨鳥は、ケソラプの可能性が高いと考えています」


 D級陰陽師である渡辺は、これからどうするかと小太郎に視線で問う。

 本来であれば、専門家として呼ばれた渡辺が、対応にあたる流れだった。

 だがここにはA級陰陽師が居て、陰陽師には不文律もある。

 小太郎は、北村班の傍に居た犬神に声を掛けた。


「皎、北村と妖怪の臭いと気は、嗅ぎ取ったな?」

「バウッ」


 堂々と吠え返した犬神に向かって、小太郎は指示を出す。


「北村を探せ」

「バウワウッ!」


 吠えた犬神は、百体ほどに増えながら、周囲へ散っていった。

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― 新着の感想 ―
北村かぁ…って思ったらおんなじ気持ちの人いて笑ったw
>それに加えて一樹は、知能を使う相手だと柚葉では危ういと考えて、さらに安全策を採らせる。 柚葉の評価は相変わらずw 話タイトルの巨鳥で飛行型式神かと思ったら違いそう?それにしても北村を選ぶとは中々癖…
北村とは...あの勇者を狙うとは趣味が良いと言うべきか否か
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