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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第10巻

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282/287

270話 子龍の爆買い

 異界の花畑から石の階段に戻ると、周囲の空気は、夏の暑さを取り戻した。

 スマホの時刻は、まだ午前10時を過ぎたところだ。

 集合時間は17時なので、まだ7時間以上もある。


「これからどうする。事前提出した計画では、札幌伏見稲荷に行く予定にしているけど」


 一樹が班員を見渡すと、視線が香苗に集中した。

 札幌伏見稲荷を希望したのは、香苗である。


「行動計画は、佐竹先生に納得してもらうために出しただけです。本当の用事は、終わりました。御利益を得る目的は、果たしています」

「確かに、庭の神・ミンタラコロカムイの御利益は得たが」


 香苗は神話を再現して、神刀で庭の神を斬った。

 斬られた庭の神は、神話のとおり散らばって、塗り潰しの絵馬・大根に宿った。


 ――ミンタラコロカムイは、あれで良いのかなぁ。


 心情を推し量れない一樹は、生物学の観点から考えてみた。

 植物が実を成らすのは、動物に食べさせて、種を広げるためだ。

 広がっていくことが植物にとっての本望だとすれば、新たな世界に広がったことは、庭の神にとっては良いことなのかもしれない。

 塗り潰しの絵馬に宿った後、野菜の大根を1本出しており、協力の姿勢も見せている。

 神話によれば酒好きなので、定期的に酒を供えておけば、満足度は上がるかもしれない。


「まあ良いか。それなら、次の目的地に行くか」

「お土産巡りですね!」


 はつらつとした柚葉の声が、旧参道の山道に響いた。


「そうなるな。タクシーを呼びながら、幌西自転車公園まで戻るか」

「時間、結構ありますよね。沢山回れそうです」

「程々にしておけよ。さっきと同じタクシー会社で良いよな……」


 一樹はホテルで掛けたタクシー会社の電話番号に、再び連絡を取った。

 柚葉がリストアップした店は数多あって、行き先には困らない。

 札幌伏見稲荷の後、お土産巡りで埋まる行動計画が通ったのは、佐竹を言いくるめたからだ。


『神社の参拝は、何時間掛かるか分かりません。ですから残り時間は、お土産巡りで埋めます』


 これを普通の生徒が提出していれば、佐竹はタイムスケジュールがおかしいと言っただろう。

 だが陰陽師の班が「参拝に時間を掛けることで、御利益が得られ易くなります」と説明すれば、担任も「そうか」と応じる。

 それは学校教育法第50条において、高等学校が以下のように定められているからだ。


『中学校における教育の基礎の上に、心身の発達及び進路に応じて、高度な普通教育及び専門教育を施すことを目的とする』


 つまり高校は、生徒の進路に応じた教育を施すことを目的としている。

 進路が陰陽師という生徒が、『神社に参拝して御利益を得る』と行動計画を出した場合、教師は支持するのが正しい行動になる。

 すべての教師が学校教育法を理解しているわけではないが、花咲高校は偏差値が高くて、教師の水準も高い。行動計画に目的を添えれば、今回のように通るのだ。

 かくして一樹達の班は、修学旅行で長い自由時間を得たのだった。


「タクシーが来ましたよ」


 幌西自転車公園で乗車した一行は、札幌市の中心部へと舞い戻った。

 降り立ったのは、観光客向けの大型土産店と物産店が連なる繁華街の一角だ。

 踏み込んだ店内はとても広く、天井まで積み上げられた棚には、北海道各地の名産品が所狭しと並んでいた。


 一樹がよく知る有名なお土産。

 ジャガイモやメロン、ラベンダーや牛乳を使ったお菓子。

 冷蔵コーナーには、ジンギスカンや海鮮の燻製、チーズの詰め合わせまで揃っている。


「冷蔵で配送できるんですね」


 柚葉の両手の指が、わきわきと握られた。

 そして店員を見つけて、声を掛ける。


「すみませーん。配送をお願いしたいんですけど」

「はい、大丈夫ですよ。配送料は、別に掛かります。よろしければ、こちらの伝票に送り先を記入して下さい」


 店員は慣れた手付きで、ラミネート加工された料金表を出し、配送伝票とボールペンを柚葉に渡した。

 料金表に書かれたサイズを眺めた柚葉は、渡された1枚の伝票と店員を交互に見ながら訴える。


「沢山送りたいんですけど、何枚くらい書いたら良いですか」

「沢山ですか?」

「はい、沢山です!」


 キョトンとしている店員の様子を窺うに、全く伝わっていない。

 見守っていた一樹は呆れながら、助け船を出した。


「柚葉、龍神様の社に送るんだよな。何百人分の予定だ」

「ええとですね。300人分くらいは送りたいです」

「冷蔵庫とか冷凍庫は、ちゃんと足りるのか?」

「大丈夫ですよ。アレを冷凍保存していた冷凍庫、空いてきているそうですから」

「ああ、アレか」


 アレとは、かつて毛野国の信仰を二つに分けて龍神と争っていた、ムカデ神の眷属達である。

 柚葉の姉妹達は、同格の力を持つムカデ神の眷属を食べて取り込むと、力が倍加する。

 中禅寺湖の周辺地域で残党狩りが行われて、1年余り。

 かつて活用された数多の冷凍庫は、柚葉の分を除いて、大半が不要になったと推察された。


 困惑する店員に対して、一樹は陰陽師の資格証を提示した。


「学生服を着ていますが、陰陽師です。神社に、巫女さんや関係者が沢山いらっしゃいますので、大量に配送したいのです」


 食い入るようにA級陰陽師の資格証を見詰める店員に対して、柚葉が追従した。


「そういうことでーす」

「次の注文からは、柚葉が自分の資格証を出して言えよ」

「えっ、どうしてですか」

「A級とC級だと、C級のほうが、穏便に話が進むだろう」


 柚葉が横目で店員の顔を見ると、店員は半笑いの表情で、ゆっくりと頷いた。

 もっとも北海道は、獅子鬼の被害を直接受けていない。

 本人や家族が怨霊に憑かれていなければ、店員の立場を忘れて助けを求めてくるほどでもない。

 店員は、芸能人のお忍びくらいの扱いで接してきた。


「沢山入れるのなら、工場から来た段ボール箱を使うほうが良いかも。何個購入されますか」

「それじゃあ、1箱6個入りのチーズケーキが50箱と……」

「わー、待って、待って。そんなに在庫は無いですから、工場に連絡して、準備が出来たら配送でも大丈夫ですか!?」

「良いですよ。それなら、沢山注文しても大丈夫ですか?」


 柚葉の言葉を聞いた一樹は、先ほどの50箱が沢山ではなかったのかと戦慄した。

 店員のほうも、表情を強張らせている。

 だが子龍には、人間の常識など通用しなかった。


「チーズケーキは、100箱にします」

「ひゃくっ」

「それと、この冷凍のラム肉ですけど、賞味期限ってどれくらいですか」

「だいたい半年ですけど」

「それならラム肉は、300袋で!」

「さんびゃくっ!?」


 ラム肉とは、生後1年未満の子羊の肉のことだ。

 豚肉や牛肉よりも低カロリーかつ低糖質で、甘味があり、脂身が少なめで美味しいとされる。

 子羊は、成長すれば毛やミルク、繁殖などで様々な利益をもたらす。それを子羊の間に食すのは贅沢な行為で、遊牧民は主に祝祭や宴会などで食している。

 店員は判断を仰ぐように、一樹に視線を送った。


「柚葉もC級陰陽師として、人を襲った怨霊を調伏して、報酬をもらったからな。ちゃんと働いたお金で買うのは、何も問題は無いな。それだけ商品があるのかは、分からないけど」

「そ、そうですね。それだけの量は、問屋さんに連絡しないと、一度には入ってこないです。送り先と、ご連絡先を伺って、準備が出来たら送らせて頂きます」

「そうですか。分かりました。次に……」


 柚葉の注文量は、仕入れ業者に匹敵していた。

 店頭に並んだ商品を見ながら、気に入った品を大量注文していった。

 支払い能力があることは、同行者にA級陰陽師の一樹が居る時点で、確定している。


 応対しているのが店長であったら、売り上げに小躍りして喜んだだろう。

 だが生憎と、胸元の名札には店長とは書かれていなかった。

 すると仕事が一気に増えて、大変なだけである。


「みんな、自由にまわってくれ。柚葉は、少し時間が掛かりそうだ」


 柚葉の買い物を見守っていた班員は、それぞれの表情を浮かべながら散っていった。


「ほたてとか、いくらの醤油漬けも良さそうですね!」

「もう好きに買え。手持ちの現金が足りなかったら、俺がカードで立て替える」

「良いんですか? ほたてといくら、全部下さい!」

「ひゃあっ!?」


 一樹は未成年だが、自分の事務所で作ったクレジットカードは持っている。

 昨年度に数百億円の利益を出した事務所のカードは、店ごと買える黒色だ。

 お土産を勧めた張本人として、子龍の群れに贈る食べ物の爆買いに付き合うことにした一樹は、諦観の表情を浮かべながら、子龍の快進撃を眺めた。

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― 新着の感想 ―
「アレ」が保管されていた冷凍庫に一般食品や食材を入れるのは……なんか心理的な障壁が…… いやまぁムカデをモリモリ食べてた方々はあんまり気にしないんだろうけど。
>かつて活用された数多の冷凍庫は、柚葉の分を除いて、大半が不要になったと推察された。 柚葉の分はずっと有るw お店から商品無くなり工場や問屋にまで連絡する始末とは、爆買いも爆買い過ぎるわ!まぁ贈る先…
もう店長にぶん投げるべき事態だよなぁ…お労しや店員さん
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