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【8巻4/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師8巻4/15発売
第9巻 布引の竜宮城

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234話 後輩達の式神候補

 圧力機のテストを当事者に任せた一樹達は、7階の同好会室に向かった。

 7階は、A室が講師室、B室が凪紗達7人、C室が空室、D室が一樹達6人の割り振りだ。

 仙術を使えるお福を使役した花音は、D級相当と見なしてB室に入れても良いかもしれないが、呪力的にはE級なので居心地が悪いかもしれない。

 凪紗達7人を除く189人の後輩達では、花音が一番上なので、B室は当面7人のままだろう。

 一樹達がD室に入ると、講師を率いる二尾の春が、講師の一人を連れて訪ねてきた。


「賀茂様、182人の指導について、相談があるのですが」

「畏まりました。どうぞお掛け下さい」


 D室は教室ほどの広さがあり、一樹達が使っている机のほかにも、作業台と椅子がある。

 そちらに案内した一樹は、春達と向かい合って座った。


「あの者達に、式神を使役させる承諾を、頂きたいのです」

「式神の使役ですか」


 突然の話に驚いた一樹は、おゆう班の7人が式神を使役したことを思い浮かべて、納得した。

 おゆう班である隼人や紗紀の呪力は、182人の枠内に収まるF級下位。

 おゆう班だけが式神を持っていると、不公平感を抱くかもしれない。

 それは指導する春にとっても、不公平感を抱かれる隼人達にとっても、良くないことだ。

 そのように判断した春は、自分達を招聘した一樹に、確認を取ったのだと思われた。


「もちろん承諾しますし、指導方法もお任せしております。費用は全額出しますし、各種の手配も致しますので、何でも仰って下さい」

「それは重畳にございます」


 一樹が手を尽くすのは、同好会の設立者が、自分と小太郎だからだ。

 自分で設立しておきながら、正規の手順で入会した後輩達を放り投げるのは、いかがなものか。

 安倍晴明の師匠でもあった賀茂家の末として、あるまじき行為となり、自身の名誉を毀損する。

 また小太郎も、自分が運営する花咲学園の同好会であり、無下には出来ない。

 そして適切に支援すれば、自分達に好意的な陰陽師が、数百人単位で誕生することになる。


 協会の運営には、下級陰陽師も欠かせない存在だ。

 獅子鬼との戦いでは、霊符を作ったり、魔王包囲網の穴を埋めたりと、様々に活躍した。

 各地で国家試験の試験官を務めさせたり、不合格者の師匠を担ったりもしている。

 A級陰陽師の一樹は、何れ国家試験の総責任者を務めることにもなる。支持者が増えることは、将来の自分のためになる。

 そのため一樹は、後輩への支出や手間が損だとは、まったく思わなかった。


「三次試験に進めずとも、陰陽師に成った暁には、役立つでしょう。成れなくても、妖怪に襲われたときに式神が居たら、身を守れるかもしれません」

「左様でございます」

「お春先生は、どのような式神をお考えでしょうか。使役が楽なのは、墓場の霊ですが」


 手っ取り早いのは、墓場に行って、G級の霊を使役することだ。

 墓場であれば、候補となる霊の数が多いし、現地まで安全に赴ける。

 霊になっているのは、現世に何らかの未練があって、成仏していない者だ。

 だが一応は供養されており、狂暴極まりないわけではない。

 狂暴な霊も発生するが、そういった手合は、依頼が出て調伏されている。


 使役に応じ易いのは、老人の霊だ。

 やることが無くて墓場で漂っているのだから、若者が話を聞いてやれば、孫でも見守る感覚で、手を貸す気になることもある。

 ほかにも病死した霊は、使役者が健康的な生活を送るのを手伝うことが、代償行為になる。

 同意を得ての使役であれば、積極的に協力してくれて、呪力消費も少なくて済む。


「生憎と墓場の霊は、戦闘に長けてはおりません」

「お春先生が仰せのとおりです」


 春が指摘したとおり、墓場の霊の大半は、戦闘に向いていない。

 なぜなら大半が老衰や病死で、死後には供養されており、怨念にも乏しいからだ。

 端的に言えば、小鬼の霊が龍の力を持つことなど、有り得ないわけだ。

 式神として考えれば、墓場の霊は、典型的なローリスク・ローリターンとなる。


「わたくしが考えておりますのは、数が多くて、弱い、鼠の怨霊でございます」

「鼠の怨霊ですか」


 一樹が咄嗟に思い浮かべたのは、比叡山を占拠していた鉄鼠だ。

 頼豪阿闍梨の怨念が、8万4000匹の霊を生み出していた。

 1匹であれば、G級中位ほどの力だったので、F級下位からG級上位の後輩達は使役できる。

 げっ歯類の鼠は、前歯が鋭く、移動も素早くて、戦闘や偵察の役に立つ。

 鉄鼠は調伏済みだが、鼠の霊であれば、ほかにも各地に存在する。


「良いと思います。あとは安全の確保ですが、私も同行して、各自に絵馬の護符を持たせます」

「それならば、安全でございましょう」


 一樹が使役している塗り潰しの絵馬・大根は、A級中位の力を持つ神木の分霊だ。

 その力を200分割しても、C級下位の効果を発揮する。

 後輩達が拙い霊符を作成しても、鼠の霊ごとき、弾き返せるだろう。


「こちらも念のために、講師の一人である元正を同行させます」


 元正と呼ばれた妖狐は、軽く頷いた。

 元正狐は、『間散余録』(1770年成立)巻之一に記される。

 江戸時代、美濃国北縣(現・岐阜県本巣郡北方町)に齢数百歳を数える元正という妖狐がいた。

 元正は、仙術を使い、医薬の心得もあった。

 病気になった人々は元正を頼り、元正も処方を書いて渡していたが、不治の病になった者には、どれほど頼まれても処方を出すことは無かった。

 ある時、江戸時代の儒学者・若林強斎が、美濃国北縣で講義を行うことになった。

 元正は老翁に化けて足しげく通い、強斎も講義の後、老翁に座を与えて物語をさせた。

 だが、振る舞われた料理の中に鼠の油煎があって、元正は死んだという。


 鼠の料理を食べて死んだ妖狐は、各地に伝わる。

 例えば京都市に伝わる宗旦狐は、手助けした豆腐屋から御礼として、鼠の天ぷらを出された。

 宗旦狐は、「これを食べると神通力を失う」と言ったが、結局は我を忘れて食べてしまい、狐になったところを犬に追いかけられて死んでいる。

 また兵庫県に伝わる小坂屋小十郎という妖狐も、鼠の天ぷらを食べて死んでいる。

 鼠の天ぷらは、妖狐を殺す毒となる。


「元正は、仙術で多少の治癒を行えます」

「仙術と医薬の心得がある霊狐は、心強いですね」


 それは一樹の本心だった。

 かつて絡新婦の母体との戦いで、沙羅の右手と左足が失われたとき。A級常連の五鬼童家ですら治療の術は皆無で、一樹も鎌鼬しか、思い浮かぶ治療のアテが無かった。

 A級の五鬼童義一郎が頸椎損傷になったときも、羽団扇を得るまで回復させられなかった。

 また獅子鬼自身も、傷付いた右腕を最後まで治せなかった。

 沙羅は、薬師如来の力を宿す羽団扇を手に入れたが、冤罪で地獄に墜ちていた一樹の求めが無ければ起こり得なかった、極めて例外的な事象だ。

 人を治癒させられる妖怪や霊物の伝承は、まったくと言って良いほど無い。多少でも治癒できるのであれば、それは凄い話だ。

 一樹が尊敬の眼差しを向けると、春は元正を同行させる理由を足した。


「元正は、鼠には些か私怨もございますので、容赦なく使役させてくれるでしょう」


 霊になるのは、未練があって成仏できない者だ。

 あまり、尊敬する対象では無いのかもしれないと思い直した一樹は、念のため確認を取った。


「後輩達は、鼠の怨霊に好き嫌いが有ると思います。それで不満を持たれても困りますので、使役は強制ではなく、任意の選択とさせたいのですが」


 今回使役することになる鼠は、人間からあまり好かれていない動物だ。

 一樹も哺乳類の一員として、蛇には苦手意識がある。

 柚葉の正体が、アミメニシキヘビのような姿だったらどうしようかと、悩んだ時期もあった。

 自分自身に苦手意識があるのだから、鼠の怨霊が苦手な者も居ると考えるし、嫌なものを式神として押し付ける気も無い。

 それに「気に食わない式神を使役させられた」と思われるのも、不本意である。

 陰陽師として活動する後輩達が「偵察や戦闘を行う式神が必要だ」と自覚して、自分の意思で参加する判断をしてもらうために、時間を置こうと考えた。


「使役を断るのは構いませんが、好きな妖怪を使役できるまで付き合うことは、致しません」

「こちらが与える機会を断るのであれば、それは自己選択でしょう」


 一樹は、後輩達の師匠ではなく、保護者でもない。

 後輩達や協会から、指導料をもらっているわけでもない。

 同好会の先輩として、後輩達に学ぶ機会を与えており、春達も一樹の私財で招聘されている。

 鼠の怨霊が嫌だと断るのは構わないが、代わりに犬や猫を使役させてあげる義務は無い。

 自分で情報を集めて、好きな霊を使役しても良いのだ。

 そのほうが、使役が上手く行くこともある。


「それでは通達から選択まで、一週間ほど猶予を与えましょう」

「私達も準備が出来ますので、ちょうど良いと思います」


 こうして後輩達の大半が、鼠の怨霊を使役しに行くこととなった。

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― 新着の感想 ―
>人を治癒させられる妖怪や霊物の伝承は、まったくと言って良いほど無い。 確かにそうだ。主にそういう存在は人に害なすモノだからなんかなぁ。 鼠の霊。確かに人によっては生理的に無理ってパターンもあるか。
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