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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第8巻 温羅伝説

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227話 岡山県支部の依頼

「この金額は、一体何でしょうか」


 陰陽大家に呆れられる、立派なA級陰陽師。

 そのような自覚が芽生えなくもない男が、自分自身が驚く羽目に陥っていた。

 相手は同じA級陰陽師で、集まりもA級陰陽師の常任理事会。恥とは思わないが、自分も未だ未だと自覚させられた。

 一樹を驚かせたのは、常任理事会の決算報告だ。

 収支は黒字だったが、一樹は3000億円以上の赤字を予想していた。


「昨年11月の常任理事会では、1000億円ほどの赤字が報告されていました。下半期は魔王を調伏して、作戦に従事した陰陽師に、合計2000億円の報酬も支払いました」

「それらは記載してある」

「確かに、3463億円の魔王対策費が載っています。ですが収入に、同額の補助金もあります。私は、政府からはお金を受け取らない話を聞いた記憶がありますが」


 調伏内容に口を出されたくなかった協会は、政府からの補填を断った。

 だが政府が無策は拙いと、協会が内部留保金から出した報酬は、全額が非課税所得とされた。

 それで終わった話だと一樹は思っていたが、収入の部には、なぜか魔王対策費と金額が一致した補助金が記されていた。

 それによって協会の決算は、近年と同程度の黒字である。

 資料を作成した協会長の向井は、粛々と口を開いた。


「政府が魔王対策として、12兆円という超大型の補正予算を組んでいた」

「はあ、12兆円ですか」


 補正予算は、テレビのニュースや新聞には出ていた話だ。

 一樹も耳にしたはずだが、軽く聞き流して忘れていた。

 未成年者は選挙権を持たず、公職選挙法(第百三十七条の二)で、選挙運動も禁じられている。

 違反者は、一年以下の禁錮又は三十万円以下の罰金(第二百三十九条第一項)と、選挙権の停止(第二百五十一条)だ。

 そのため、どうしようもない範疇は、あまり深く見ないようにしていた。


「補正予算は、様々な用途に使われた。自衛隊や警察の派遣、防霊対策、避難所運営、企業助成、生活再建……そして静岡・山梨・神奈川三県の応援割」

「うっふっふふ」


 応援割が挙がったところで、堪えきれなかった宇賀が笑い出した。

 応援割とは、魔王の出現により観光需要の落ち込みがあった三県において、『旅行商品』または『宿泊料金』の割引を支援する事業である。

 なお旅行業を支援すべく、国税投入の音頭を取っている与党の幹事長は、旅行業協会の協会長を兼ねており、パーティ券の購入や政治献金も受けている。

 国民から集めた税金を、自分に献金してくれる特定の業界に渡して、さらに献金を貰うわけだ。

 宇賀の健全とは言い難い笑いが収まったところで、向井が話を続けた。


「補正予算を応援割に使うのなら、魔王の侵攻を防ぎ、調伏した陰陽師達に諸経費を払わないのはおかしいと、国会で野党に追及される。そもそも予算の使い道を精査されると困る」

「それは大いに困るでしょうねぇ。ツッコミ処、沢山あるわよ」


 向井の説明に、宇賀が私見を付け加えた。

 魔王対策の補正予算であるならば、魔王領を包囲して煙鬼の侵攻を食い止め、魔王を調伏した協会が経費を補填されるのは正しい。

 むしろそれに使わなければ、何に使っているのだという話になる。


「それで追及を躱すべく、実際に調伏した協会にも、金を出そうと思ったようだ」

「調伏後で口を出されないのだから、実費は貰っても良いのではないかしら。受け取らなければ、支援者にバラ撒くのだし、正しい使い道に協力してあげましょう」


 向井の端的な説明と、宇賀の補足によって、一樹は概ねの事情を理解した。


「さしあたって協会の内部留保金は、有事があれば対応できる状態に戻っていますね」


 一先ずそれで良いかと、一樹は自分を納得させた。


「念のために言っておくけれど、建御名方神が顕現できるほど回復するには、時間が必要よ」

「期間は、どれくらいでしょうか」

「地脈だけだと、魔王は2000年よね」

「途方もない年月ですね」

「必要なのは神気で、信仰からも得られるわ。人間次第の部分もあるわね」


 現代人は、昔ほど信仰深くはなくて、生け贄を捧げようといった考えは無い。

 だが人口が爆発的に増加して、情報伝達も飛躍的に進歩した。

 人口は、紀元元年の100倍以上、平安時代の10倍以上。

 情報伝達も、昔は文献や口頭だったが、現代では通信機器を用いて大多数に一瞬だ。

 2000年が人口差で10分の1、100分の1に縮まり、情報伝達の差でさらに縮まる。

 生憎と現代は情報が氾濫しているため、信仰先も分散してしまったが。


「玃猿と無常鬼は残っているが、賀茂と花咲の両陰陽師が山魈を倒したことで、状況は好転した。現在は、諏訪様の回復を待っている」


 予算の話が発展して、協会の方針に及んでいった。

 そのため話を引き戻そうと、向井が次の議題に移った。


「次にB級昇格です。今回はC級の祈理陰陽師が、候補に挙がっています。それは賀茂陰陽師が、祈理陰陽師がB級の実力で、山魈調伏でトドメも刺したと報告を上げたからですが」

「報告書は事実です。豊川稲荷では白面の三尾も、祈理をB級と判断しています」


 豊川稲荷の名が挙がったことで、向井は豊川に視線を送った。

 すると豊川は、一樹を質した。


「木行の継承は、終わったのですか」

「はい。実は、火行も終わりました」

「それでは、B級に上げておいたほうが良いでしょう。土行の継承も、忘れないように」

「恐れ入ります」


 向井には直接答えずに、豊川は会話で察せという態度を取った。


「……祈理陰陽師は、B級とします」


 厳かな宣言があって、香苗がB級に認められた。

 等級に関しては、指揮権や報酬に影響するので、周りのためにも適正にしたほうが良い。

 もっとも陰陽師には、嫌な仕事であれば受けない自由もある。組む相手や報酬に不満があれば、霊感が良くないと囁くとでも言っておけば良いのだ。


「その他の事項に移ります。1つ目は、国家試験です。総責任者は数年ごとの交代制ですが、賀茂と花咲は未成年。五鬼童家に、継続をお願いしたいと考えております」

「構わないよ。花咲の陰陽同好会からの受験者も、多いのだろう。暫くは引き受けよう」


 向井は、事前に根回ししていたのだろう。

 義一郎は即座に応じて、小太郎が引き受けられない理由も補足した。

 改めて指摘を受ければ、至極もっともに思われる。

 一樹と小太郎が設立した陰陽同好会は、新入生196名のうち、国家資格を持つ凪紗、茉莉花、昨年5位の鶴殿優斗を除いた193名が受験予定となっている。

 一樹達には不正を行う意志など皆無だが、合格者が多ければ、邪推もされる。


 ――試験の総責任者、A級陰陽師でないと駄目なんだよな。


 陰陽大家の子弟を含めた受験生達に、順位や等級を付けるのが国家試験だ。

 陰陽大家同士のトラブルにも成りかねないが、A級陰陽師の決定であれば陰陽大家も口を噤む。

 だが人外の宇賀と豊川は、そもそも総責任者を受ける気が無い。

 協会長の向井に全権を集中させるのも、良くはない。五鬼童に任せ続けるのも好ましくないが、会長の向井、未成年の賀茂と花咲に比べれば、一番マシな選択肢だ。


「それでは反対が無ければ、五鬼童家の継続でお願いします」


 ここで反対するということは、自分が総責任者を引き受けるということだ。

 もちろん反対者は現れず、五鬼童家が試験を受け持つことが承認された。


「それでは最後の事項です。岡山県支部が、支部の手に負えないと報告を上げた妖怪が居ます」


 配付された資料の一番下に、その妖怪に関する資料があった。

 資料には、神社の瓦礫と鳥居の残骸らしき写真が、載っていた。

 神社の各所は上から押し潰されており、相手が巨大で、剛力だと想像できる。


「神社を破壊したのは、神社に設けられた小さな社から復活した鬼神です。神社を破壊し、神官と巫女を殺して、根城の方角へ飛んでいったそうです」


 その妖怪は、日本で一番多いであろう鬼の一種『鬼神』だった。

 鬼は種類が多く、強さも幅広い。一樹達が過去に相対した獅子鬼、羅刹、夜叉、五鬼王などは、すべて鬼に分類される。

 復活して飛行した情報から、一樹は鬼神がA級で、羅刹や夜叉と同等だと認識した。

 相手が鬼神であれば、支部が手に余ると判断するのは当然だ。

 壊滅した神社に人々が恐怖を抱いても、独力での対応は不可能である。


「宇賀様と私は無常鬼2体、豊川様は玃猿を牽制中です。五鬼童家は予備戦力で、国家試験もお願いしたところです。花咲家は、まだ忙しいでしょう」

「そういう訳で、賀茂のところが行って頂戴。蒼依姫命も居ることだし、戦力は足りるでしょう」


 そちらの話も、宇賀に根回しされていたのだろう。

 国家試験の総責任者を務めるよりも、鬼退治のほうが単純であることは否めない。

 役割を振られた一樹は、資料を覗き込んだ。

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― 新着の感想 ―
この陰陽師協会はほんと理想的だな〜 この鬼神はかなり強そうですね。
香苗は実質的にはもうA級下位になってるからB級はまだ過小評価だけど、さすがにこれは協会には明かせなかったのかな。
>調伏後で口を出されないのだから、実費は貰っても良いのではないかしら。 調伏の邪魔になるから金は受け取らなかったが、終わった後ならokだわな。 香苗がB級に。置いていかれる蛇娘w(今は龍娘なんかな?…
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