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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第8巻 温羅伝説

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229/272

221話 体験の反映【4巻本日発売!】

 4月に入り、3度目となる金曜日の放課後。

 陰陽同好会の音楽室で、新入生に頬を抓られる哀れな男が居た。


「悪い先輩が、調伏されますように」

「いひゃい」


 頬を抓るのは、7人のうち1人だけ二十数年の体験をした花音。

 抓られているのは、数年分の体験を霊体で流し見ると説明した一樹。


 一樹達が招いたのは、火行護法神が描いた世界だった。

 火行護法神が熟知しない者達の人生は、描かれた内容が薄い。

 そのため花音を除いた6人は、飛ばし見の体験で、数年の範囲に収まる。

 だが火行護法神の親として接した花音の体験だけは、密度が濃かった。

 飛ばし見でも、花音の体験が数年分で納まったのかは微妙である。


「呪力を増す上で、得をしただろう」


 呪力量は、陰陽師にとっては生死に関わる。

 大抵の陰陽師は、話を聞けば「自分が体験したかった」と、羨望するだろう。

 だから周囲は困惑するが、先に逝ったおゆうと6人の同級生は、花音の体験内容を知らない。


「わたし、どういう体験をしたと思いますか」

「平安時代に、妖狐の弟子だった女性の人生を、追体験した」


 一樹は、あくまで他人の人生を見ただけだと言い張った。

 そんな一樹に対して、頬を抓る花音の力が、強くなる。


「あの世界で動いていたのは、中に入った人達ですよね」

「神は違う。あれは、小狐に宿る御利益だ」


 火行護法神の世界には、天目一箇神と稲荷神が顕現した。

 その二神については、誰も演じていない。

 人に演じられるはずがなく、火行護法神である菅田狐が宿す御利益だと、一樹は考えている。


「ほかの役は、誰ですか。数年の体験だった皆、じゃないですよね。小狐は、祈理先輩でした」

「源九郎は、香苗が出した」


 源九郎狐は、その魂の欠片を継承している香苗が召喚した。

 源九郎自身が演じたので、配役は完璧だ。

 その源九郎から、小狐役として剣術を学んだ香苗も、身体を修煉できた。


「ほかの人の役は、誰ですか?」

「刀工は、俺がやった」


 飛脚役だった一樹は、演じる人間の不足によって、刀工にも成った。

 香苗が演じた小狐と共に、神刀へ神気を注いだのだ。それは香苗が、式神として一樹の神気で神刀を顕現させる際、絶大な価値を持つ。

 なお刀工以上の長期に亘り、絵馬の世界に登場した人物が、もう2人居る。


「柚葉も、頑張ってくれたな。疑似体験とはいえ、殺されたショックがあるかもしれないから、先に絵馬から出て、席を外して貰ったが」

「まだ居ますよね」


 菅田村の名主にして、花音の夫役。

 それこそが、花音が一樹の頬を抓り、一樹が渋々と受ける理由である。


「演劇の配役のようなものだぞ」


 演劇の役だと主張した一樹は、絵馬の世界で、花音に手を出していない。

 実際の過去では、2人に子供が居たはずだ。

 その子孫の1人が香苗で、それが火行の継承に繋がったのだと、今の一樹は確信している。


 だが絵馬の世界では、夫婦役の2人に、夫婦の営みの部分は無かった。

 火行護法神の世界を描いた香苗が、その部分を飛ばしたか、改竄したのだ。

 小狐を含めた同居生活くらいしか、花音は体験していない。

 だから一樹は、無罪を主張する。

 だが花音は、鹿野の世界を体験した一樹と異なり、純然たる高校1年生だった。

 一樹と花音の体験に対する許容範囲が、同じはずもない。


「有罪!」

「いひゃい」


 断罪された一樹は、自身でも「有罪かもしれない、気がしなくもない」と曖昧な認識だ。

 そして今回の体験は、香苗が火行の継承を行うために必要だったと考えている。


 ――香苗の強化は、メリットが大きい。


 一樹は今世のうちに、魂に染み込んだ穢れを浄化しなければならない。

 そのためには、魔王や魔王の配下のように強大な妖怪を、調伏する必要がある。

 魔王の配下であった黒無常は、一樹が使役する水仙の祖父であり、これから戦う必要があるかもしれない。

 一樹の式神にして、誰と対立しても味方になる香苗が強くなるのは、心強い。

 だから体験に必要だった小狐の母役の花音が、夫婦生活の恥ずかしさを解消するために頬を抓るくらいは、許容範囲だろうと判断した。


 なお絵を描いた香苗のほうは、何事もなかったように平然としていた。

 火行の継承は必要だったし、継承による強化で、一樹と香苗は共同利益を得た。

 花音も、予定より多目に呪力を上げて得をしている。

 夫婦生活は、体験させていない。

 一樹が抓られるだけで済むのなら、それは許容範囲というスタンスだ。

 それに香苗は小狐の体験をしており、母役の花音には、強く言い難いという心理も働いていた。そのため花音を避けながら、一樹に話し掛けた。


「あな……師匠、ちょっと鬼太郎を貸して下さい」

「わひゃった、ひでよ『おにひゃろう』」


 一樹が喚び出すと、おかしな発声にもかかわらず、鬼太郎が顕現した。

 姿を現した鬼太郎は、絶大な力を持つ主が頬を抓られる状況に、困惑を示す。

 そして困惑しつつも、主を助けるために喚ばれたのかと解釈して、身構えた。


「鬼太郎。そちらは良いから、こっちに来て下さい」

「ギャッ?」

「6人に、テストをしますので」


 一樹の様子を再確認した鬼太郎は、抓られる男と抓る女を観察した。

 そして不意に生暖かい目をして、香苗のほうに向かっていった。


「先輩、どうしてくれるんですか」

「おひつひぇ」(落ち着け)


 鬼太郎が来たのを確認した香苗は、荒ぶる花音を除いた6人に告げる。


「あなた達は、地狐に学んで基礎を身に付け、大蛇に殺される疑似体験をしました」

「はい」

「死の体験は、呪力を引き上げます。あなた達は最低でも2つ上がり、G級上位になったはずです」

「あの、あっちは良いんですか」


 隼人が見詰める先では、花音の両手が、一樹の両頬を引き延ばしていた。


「あれくらいは、良いでしょう」

「はあ」

「それではテストをします」


 納得しがたい隼人だったが、霊格が上がった話は、聞き捨てならなかった。

 G級上位であれば、確実に一次試験を突破できる。

 習った呪力の扱いで護符を作れば、二次試験も突破できるかもしれない。

 それは隼人達が、絵馬の世界に入る前に、強く願っていたことである。


「鬼太郎、片手を挙げて下さい」

「ギャッ」

「皆、鬼太郎が挙げた手のほうを指差して下さい」


 香苗に指示された6人は、僅かな逡巡も見せず、正しい位置を指差した。


「鬼太郎、何度か繰り返して下さい。皆は、直ぐに指差して下さい」

「ギャッ、ギャッ、ギャッ」


 鬼太郎が右手を挙げて、左手を挙げて、両手を同時に挙げる。

 すると右手と左手が交互に指差され、次いで両手の指で、鬼太郎の両手が同時に指差された。

 6人の様子を見守っていたおゆうが、表情を明るくさせて拍手を始めた。


「皆、同期の182人と比べても、全然劣っていません!」

「ありがとうございます。おゆう様……先生のおかげです」

「おゆう様、ありがとうございます」


 パチパチパチと拍手された隼人達は、恥ずかしそうに照れていた。

 1週間と、流し見で期間の換算が難しい数年。

 だがしっかりと弟子の意識を持った6人が、指導してくれた師匠に感謝を述べた。

 そんな6人の輪の中に、もう1人も加わる。


「おゆう様、ありがとうございました」

「花音も、ちゃんと見えていたのですね。よく頑張りました」

「はい。先生が教えて下さったおかげです」


 お礼を述べる花音は、流石に一樹を解放していた。

 解放された一樹が、気配を薄くする中、香苗がテストを再開させる。


「次に、鬼太郎の手に触れて下さい。もしかすると皆は、F級下位に達していて、鬼太郎より強くなっているかもしれません」

「本当ですか」

「判断し易いのは、腕相撲ですね。そちらを試してみて下さい」

「分かりました」


 6人のうち男子4人が、音楽室の端にあった机を運んでくる。

 そして机を挟んで鬼太郎と向かい合い、肘を机に付けて、ガッシリと手を握り合った。

 その様子を見たおゆうが、隼人にアドバイスをする。


「霊体との力比べは、物理的な力ではなく、纏った呪力の干渉力で決まります。力を入れるのではなく、気を入れるのですよ」

「はい、おゆう様」


 意識を切り替えた隼人が、鬼太郎と握り合う手に呪力を籠めた。

 すると鬼太郎の顔付きが、険しくなる。


「それでは、始め」


 香苗の合図で、隼人と鬼太郎の手が、互いを捻伏せようと力比べを始めた。

 歯ぎしりする隼人の手が、次第に鬼太郎を押していく。


「大蛇に比べれば、小鬼程度が何だ!」


 絵馬の世界を体験した隼人は、呪力だけではなく、精神的にも成長していた。

 鬼太郎を恐れずに押した隼人は、ついに腕を捻伏せた。


「おおっ、やったっ!」

「すごい、すごい」

「流石、隼人だ」


 G級上位の小鬼に勝った隼人に、仲間達が賞賛の声を掛けた。

 その勝ち具合を見ていた香苗とおゆうが、顔を見合わせる。


「圧勝ではありませんが、余裕は有りそうでしたね」

「そうですね。弱い小鬼に並ぶでしょうか」

「霊符の作成は、どのくらい教えましたか?」

「まじないは、多少。初歩は、身に付いています」


 花音を含めた7人は、一次試験の呪力確認には通る。

 だが合格するには、二次試験の霊符作成にも通らなければならない。

 その点について、おゆうに認識させた香苗は、次の指示を出した。


「それでは、交代して下さい」


 仲間が勝って昂揚したのか、残る面々も意気揚々としながら、次々と鬼太郎に勝利していった。

 もちろん勝ち方には多少の差があって、辛勝から終始優勢まで様々だった。

 そして最後に、花音の番となった。


「それではどうぞ」


 火行護法神の体験をした香苗が、淡々と告げた。

 すると花音は、鬼太郎の手を掴みながら、一樹に確認を取った。


「霊体の式神って、呪力で復活するんですよね」

「……そうだが」


 花音の霊格は、ほかの6人とは、異なる上昇をした。

 大蛇には殺されず、代わりに追われて、神域に逃げ込んだ。

 そして天目一箇神を祀る菅田神社に、十数年に亘り参拝し続けた。

 さらに小狐を拾って育て、稲荷神に妖狐を助けた功徳を知られた。


 ――花音が体験した小狐の母は、おそらく二神の御利益を得ていた。


 稲荷神が御利益で印を付けなければ、火行護法神は、子孫の香苗を見出せない。

 もちろん花音は、狐を拾って育てた本人ではなく、追体験しただけだ。

 だが二神の神気と御利益に触れた体験は、霊格が上がるのに充分すぎる理由だ。

 天目一箇神は、天津神の主神である天照大神と、国津神の大神スサノオの孫。

 稲荷神は、スサノオの娘で、祖父母は神世七代のイザナギとイザナミ。

 一樹には、二神の御利益を体験した霊格上昇が、小鬼の範疇に収まるとは、到底思えなかった。


「それでは、始めて下さい」


 刹那、鬼太郎の腕が、机にめり込んでいた。

今話にて、第8巻の前半が終了しました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 路人虽然没有出现姓氏,但是也有名字,真是用心了 [気になる点] 看来第二部的女主角就是香苗了,如果和第一步走向差不多的话,第二部结束的时候,香苗保底3尾,4尾也不是不可能,妖狐应该也能够往…
[一言] >「柚葉も、頑張ってくれたな。疑似体験とはいえ、殺されたショックがあるかもしれないから、先に絵馬から出て、席を外して貰ったが」 殺されたショックがあるかもしれないのは他のメンバーも同じなは…
[気になる点] 今回の修行回を改めて読み返して蘇我蘇我どうぶつランドを造ろうしたのと同じ様な妖狐の恐ろしさを感じたぞい! 一見柚葉も含めた全員が修行成功で得したように見えるけど 香苗さん、柚葉のメン…
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