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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第7巻 継承の愛狐

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203話 継承の愛狐【3巻本日発売!】

 日本で神木に至る樹木は、スギ、クスノキ、イチョウ、ケヤキ、ヒノキ、シイ、松など幅広い。

 その中でスギは、最も高く伸びる木だ。

 60メートルを超えるものや、樹齢千年を超える木も、複数が確認されている。

 高知県大豊町にある八坂神社の神木『大杉』は、二株のスギが根元で合着して、南大杉が樹高57メートル、北大杉が樹高60メートル、推定樹齢3000年。

 歌手の美空ひばりが「日本一の歌手になれますように」と願掛けして、叶った逸話もある。


 人間の領域内にある大木は、多くが人間の暮らしの中で、伐採されてしまった。

 だが鹿野の廃村にあった大木は、伐採から逃れて樹齢千年を超え、樹高も50メートル以上に達していた。無論、過去の話になってしまったが。

 横倒しになった鹿野の大木は、見るも無惨な姿だった。


「霊魂は、輪廻する」


 大木を無言で見詰める香苗に向かって、一樹はフォローの言葉を掛けた。

 輪廻は、仏教用語だ。

 車輪が回転して廻るように、霊魂は三界六道の迷いの世界で、生死を繰り返す。

 三界とは、一切衆生が、生まれ、死んで往来する世界だ。

 六道とは、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上である。


「寿命が長かろうと、いつか死ぬのは、生ある者の定めだ。もう、次の世界に行かせてやれ」

『それが、あの人を追体験した、あなたの思いなのですね』


 香苗と同化した木行護法神が、香苗を介して問うた。

 香苗は、木行護法神から魂の欠片を受け取っている。

 その一方で一樹は、鹿野の最後の村人から魂の欠片を継承していない。

 どのように答えるのが適切かと悩んだ後、一樹は自身と香苗に置き換えた。


「離れがたければ、大木から男の魂の残滓を受け取って、取り込めば良い。元に戻ろうと引かれていくから、輪廻を繰り返せば、また会えるかもしれない」

『その手がありますね。香苗には、先を越されてしまいました』


 香苗は、一樹と式神契約をするに際して、互いが同意せずには切り離せない契約を結んだ。

 香苗が唱えた『陽は陰を含み、陰は陽を含む。陽下の燭光は陰なれど、闇夜の燭光は陽なり。陰陽の理に則り、これより式神契約は、互いの同意なくして切り離せぬものと成る』は、八坂神社にある神木二本の合着にも等しい、結び付きの呪だ。


 通常の式神契約は、消費用の気を渡すだけだ。

 式神に気を渡しても、一樹の気の総量は減らない。

 だが香苗との契約は、破れば一樹の陽気の一部を根幹ごと持って行かれる契約だった。

 式神契約を交わして一緒に居るか、別れても一部を持って行く。

 まるで結婚にも等しい内容に変えられてしまった。

 良房の「妖狐は番いになると、伴侶を変えないことは知っているかな」という確認が、ようやく一樹にも理解が及んだ。


『忠言を受け入れましょう。あたしが求めているのは、大木ではなく、あの人ですから』


 香苗に魂の欠片を託した木行護法神は、追体験で50年を共に歩んだ一樹の言葉を受け入れた。

 大木へと歩み寄った木行護法神は、その手を大木に添える。

 そして200年という長きに渡って送り続けた自身の気と共に、気と一体化していた男の魂の残滓を回収し始めた。

 すると黙って見守っていた小太郎と蒼依が、一樹の傍にやってきて尋ねた。


「賀茂、説明してくれ」


 小太郎からすれば、現状は想定の斜め上だ。

 今回は、獅子鬼の残党である山魈調伏として、A級陰陽師の一樹と小太郎が派遣された。蒼依は一樹の式神であり、一樹の派遣にセットで含まれる。

 香苗の役割は、音楽好きの山魈を音楽で誘き寄せることだった。

 それが蓋を開けてみれば、香苗が山魈を倒したようなものだった。

 予定外にも程があるだろう。


「祈理に召喚された小女郎狐が、山魈の領域を祓い、同じく召喚された源九郎狐が山魈を斬り捨て、祈理自身が山魈を大地から引き抜いたように見えたが」

「奇遇だな。俺もそう見えた」


 さしあたって小太郎の主張には、否定できる余地が無かった。

 そのため一樹は素直に肯定したが、小太郎は呆れた瞳を向ける。


「祈理はC級陰陽師だぞ」

「俺もC級陰陽師の時に、A級評価された絡新婦を倒したなぁ」

「お前は、祈理をA級陰陽師にするつもりか」

「いや、無理だろう。そもそも呪力が足りない」


 香苗の呪力は、五狐の魂の欠片を受け継ぎ、国家試験で、C級中位。

 五狐の魂が馴染んでいき、菜々花と琴里を使役した頃に、C級上位。

 小白に誘われた絵馬の世界で、750年の経験を継承し、B級下位。

 一樹と式神契約して、五狐の魂が地蔵菩薩の神気を得て、B級中位。

 鹿野の大木に200年間ほど籠めた気の大半を回収して、B級上位。


「まだ足りないと思う。多分」


 ざっと見積もった一樹は、自信なさげに呟いた。

 当の香苗は、倒れた大木から残った気を回収している最中だ。

 木行護法神の気は、大木の隅々まで染み込んでおり、山魈に乗っ取られても多くが残っていた。

 香苗はそれを回収して、木行護法神の魂を介し、自分の力に換えている。

 A級上位だった山魈の呪力は40万で、B級中位とB級上位の呪力差は2万。2万程度は確実に山魈から取り戻して、霊魂の強化に使える。

 だが木行ばかり強くなりすぎると、残る四狐の気が押し流され、消えてしまう。

 そのため一樹は、香苗が上がる力は一段階に留まるだろうと予想した。

 なお一つでも予想が外れていたり、何かを見落としていたりすれば、香苗はA級である。


「そもそも香苗は、A級陰陽師になって活躍したいとか、思ってないからなぁ」

「贅沢な話だな。陰陽大家は、統括の立場を維持するために躍起だぞ」

「確かに躍起だな」


 一樹が思い浮かべたのは、秋田県の統括であった春日結月だった。

 協会では、B級の定数は64名と定めている。だが実際には64名も居ないので、C級上位を繰り上げして、統括に就任させている。

 すなわちB級であれば、必ず統括陰陽師に成れる。統括に成れば、家の誰かが統括である限り、その地での地位、名誉、財産が保証される。

 逆にC級上位から繰り上げの統括は、B級が統括に成ると言えば、席を空けなければならない。地位、名誉、財産とはお別れである。

 没落の末が、一樹の父である和則のような姿だ。

 一度没落すると、逆転は容易ではない。

 没落すまいと必死になるのは、無理からぬ話である。


「香苗には、陰陽師界隈の常識を伝えておくか」

「そうしたほうが良い。もっとも祈理は、豊川様の後継者と考えられているから、余計なちょっかいは出されないだろうが」

「それは、200年は先の話だろう」


 気狐で800歳ほどの豊川は、1000歳で仙狐に至る。

 そして四尾になれば、天狐として天に仕える道も開ける。

 豊川は明確な意思を示していないが、香苗が三尾に至って後継者に成れるのであれば、相方の居ない人の世には留まらないかもしれない。

 鹿野の経験や、木行護法神の想いを理解した一樹は、そのように漠然と思った。

 一樹が感慨に耽っていると、膨れっ面の蒼依が質してきた。


「それで主様。香苗の式神契約は、いつ解除されますか」

「……おう」


 蒼依が式神契約に怒ったのは、水仙以来である。

 水仙以降、鎌鼬三柱、幽霊巡視船、槐の邪神、塗りつぶしの絵馬、小鬼を使役したが、いずれも怒られなかった。

 理由は、明白である。


 ――困った。


 通常であれば、山魈を調伏したので式神契約を解除しても良かった。

 だが同意を得ずに式神契約を解除すれば、一樹の陽気を香苗に持って行かれる。

 一樹の陽気は穢れと一体化しており、香苗に穢れごと引き取られかねず、引き剥がせない。


 一樹は、地獄の体験や穢れの経緯を喋る気など、微塵も無い。

 実際に体験しなければ、地獄の共感など不可能だ。

 表面上の薄っぺらい同情や、分かった振りなどしてほしくない。それは癒やしではなく、一樹が負った心の傷に塩を塗る行為だ。

 強引に式神契約を解除するとすれば、穢れを浄化し切った後だろう。

 それがいつになるのかは、まったく不明である。


「陰陽師と妖狐の式神契約を拒む理由は、何かありますか。式神の女神様」


 圧を掛けられる一樹の後ろから、大木の力を回収し終えた香苗が割って入った。

 香苗は式神同士の繋がりで、蒼依の正体を看破したらしい。

 女神の蒼依も式神契約を交わしていることを利用して、香苗は蒼依を牽制した。


「もう山魈は調伏しましたよね」

「はい。ですが女神様よりも、妖狐が式神契約するほうが自然ですし、このままで良いでしょう」


 平然と言い張った香苗に対して、蒼依は一樹を責めるような瞳を向けた。

 だが香苗に穢れは押し付けられない。

 契約を解消出来ずに固まった一樹を見た香苗は、蒼依との一騎打ちに入った。


「陰陽師の式神が陰陽師なんて、おかしいと思います」

「禁止する規定はありません。そういえば、式神使いとしても高名な安倍晴明の両親は、人と妖狐だったそうですね」

「それが何ですか」

「いいえ、別に」


 その言葉とは裏腹に、香苗は一樹に向かって微笑んで見せた。

 ほおずき屋で見たような、幸せそうな微笑みだった。


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― 新着の感想 ―
狐に化かされた、というか型にはめられたな。ものの見事にw
[一言] こうなってくると改めて最初期の水仙の邪魔がなければって蒼依と沙羅は思ってしまいそう? 八咫烏と多分牛鬼も蒼依側につくとして対するは狐の霊と和バンドメンバー パワーとパワーでどうなるかわからん…
[一言] どうしてこうなるまで放置したんだ…(250年)
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