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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第7巻 継承の愛狐

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204/272

197話 ほぼ億ション

 合否が発表されて3日後の金曜日。

 一樹は学校で、沙羅から報告を受けた。


「凪紗の引っ越しが終わりました」

「早いな!」


 花咲高校の受験は、土曜日に行われた。

 翌週の火曜日には合格発表が行われて、凪紗は金曜日に引っ越しを終えた。

 引っ越しは、それほど簡単に出来るものなのか。自身の常識と相反する事態に一樹は混乱したが、沙羅が事情を説明した。


「去年の11月に分譲マンションを買って、荷物を分けていたんですよ」

「11月って、沙羅の父親に、凪紗が花咲高校に入学する事を認めさせた後か」


 遡ること4ヵ月前。

 一樹は、蒼依の神域作りのために神話の補完を試みて、五鬼王を倒しに行った。

 だが五鬼王を見つけられなかったので、見鬼に優れた凪紗に協力を求めた。

 そこで凪紗が出した条件が、花咲高校への入学と、一樹の事務所へのアルバイトについて、父親の義輔を説得することだった。

 義輔は頑固親父で、頭が固い。

 そのため一樹は、『陰陽師に対する正規の依頼』という形で、凪紗を引っ張ることにした。


 五鬼童家は陰陽師の一族で、陰陽師が依頼を受けるのは当然だ。

 恩人である賀茂家の仕事なら、断らないだろうと目論んだ。

 報酬は、宇賀が五鬼童に渡した羽団扇の代金から、一樹が風切羽の豪華にした分を引くこと。

 それを金銭換算すると、B級陰陽師の凪紗を3年間雇用できるよりも、大きな額になる。つまり依頼人が提示した報酬も、十分に足りている。

 かくして頑固親父の説得は、成功した。一樹は見鬼の力を持つ凪紗を利用できるようになって、凪紗も花咲高校に進学できることになった。


「11月から引っ越しの準備をしていたなら、納得だな」


 3日は早過ぎるにも程があるが、3ヵ月であれば何もおかしくはない。

 高校3年間のためにマンションを買うのは、もちろん凄いことだ。

 但し一樹が、宇賀に差し引かせた風切羽の豪華分は、金銭換算するとマンション一棟より高い。凪紗の働きで差し引かせたのだから、義輔がそれくらい用意するのは当然のようにも思えた。


「やっぱり高いマンションだよな」

「花咲市は地方ですから、東京みたいな高額のマンションは有りませんよ」

「一戸で1億円を超える『億ション』じゃないのか」

「億ションではありませんね」


 想像とは異なる話に、一樹は意外性を感じた。

 もっとも花咲市は、人口17万人ほどの大都会ならざる市だ。

 その規模の市には、億ションを買いたいという需要が、どれだけあるのかという問題がある。

 花咲市の大きな会社は花咲グループの傘下で、経営者は花咲家だが、花咲一族には自宅がある。それ以外では、一体誰が億ションを買うのか。

 年収が高くて相続税対策を考える医者や弁護士くらいしか、買えそうな人間は居ない。

 花咲市には、億ションの需要自体が無いのかもしれないと、一樹は思い直した。


「花咲駅近くの20階建ての新築マンションで、3LDK+3WIC+SIC+Nだそうです」

「……何だって?」


 矢継ぎ早の攻撃を受けた一樹は、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。


「3LDKで、ウォークインクローゼット3つ、シューズインクローゼット、納屋が有るそうです。専有面積は112平方メートルで、ほかに18平方メートルのバルコニーもあります。タワーパーキングと駐輪場付きです」

「それって、明らかに億ションだろ」

「購入金額は、8500万円だったそうですよ」

「でも東京で買ったら、いくらになるんだ」

「港区だと、駅近くの条件を省いて……10倍の8億円台でしょうか」


 目を瞬かせた一樹は、比較対象が悪すぎたのだと自分に言い聞かせた。


「東京の金額はおかしいからな。大阪とか北海道だと、いくらくらいだ」

「2億円台に下がるかもしれません」

「福岡とか沖縄だと、どれくらいになる」

「1億円台になりそうです」

「だったら億ションみたいなものだろ」


 一樹は大雑把に、『億ションみたいなもの』だと解した。

 建造物は億ションと同等だが、億では売れないため、現地の懐事情に合わせて値下げしている。あるいは需要に合わせて、都会のほうが値段を釣り上げているのかもしれない。

 家や土地が安いのは、田舎に住むメリットの部分だろうか。


「そこに呼ばれています。一樹さんも、場所や移動時間を知っておいたほうが良いと思いますが、ご一緒にいかがでしょう」

「アルバイトをさせるのなら、把握しておいたほうが良いか」

「それでは帰りに寄りましょう。高校から自転車で、20分ほどです」


 納得した一樹は、沙羅と二人で凪紗のマンションを見に行くことにした。

 一樹は蒼依を同行させないことにしたが、それは蒼依が凪紗に対して、沙羅のような同居を拒否しているからだ。

 二人の距離感を当事者に任せることにした一樹は、蒼依に一声掛けてから、沙羅と二人で凪紗のマンションに訪問した。


「マンションの20階に一戸を買っています」

「最上階は凄いな」

「飛べますから、最上階は便利です」


 コンビニに行くときに、20階から飛び降りるのだろうか。

 その光景を想像した一樹は、青ざめる目撃者の姿を妄想した。


「父は、20階をすべて買おうとしましたが、ほかの入居希望者も居て買えませんでした」

「五鬼童家が頼めば、不動産会社は調整しそうだけどなぁ」


 最上階に別の入居予定者が居ても、値下げしてほかの部屋に移って貰う交渉は出来る。

 マンションを販売する不動産会社のメリットは、五鬼童家に交換条件を付けられることだ。

 開発したいが、強い怨霊が居座って手を出せない土地は、日本中に沢山ある。そんな曰く付きの広い土地を買って、五鬼童家に除霊して貰えば、不動産会社は大儲けだ。

 もっとも不動産会社が頼んでも、契約済みで、相手が嫌がれば、駄目なこともあるだろう。


「最上階は眺めも良いから、終の住処と考える老人なら、移らないか」

「そうかもしれませんね」


 20階建てのマンションは、花咲市内では一二を争う高さとなる。

 20階以上で、高さも60メートル以上のマンションは、タワーマンションと呼ばれる。

 凪紗のマンションは、20階建てで、生憎と高さは59.9メートルだった。

 60メートルからは、航空法第51条で、航空障害灯の設置義務が生じる。そのため維持費を抑えたり、景観を保ったりするべく、60メートル未満に抑えることもある。

 そのため残念ながら、億ションでも、タワーマンションでもない。

 だが実態は、億ションみたいなもので、タワーマンションのようなものだった。

 さらに中身は、一樹が想像していた億ションを遥かに超えていた。


「ここが私の花咲市での家です」

「王侯貴族の邸宅かな」


 凪紗のマンションは、モデルルームのように立派な内装だった。

 統一感があるデザインと、落ち着いた色合いのインテリアは、全体で調和が取れている。

 ダイニングテーブルセットは、迎賓館という単語が一樹の脳裏を過ぎった。おそらくは海外の有名ブランドが、一流デザイナーに考案させた品であろう。

 そこに置かれた数々の食器は、貴族の晩餐会で使われるような品々だ。

 天井から吊り下がるアンティークの照明は、それ自体が美術品のように洗練されて美しい。

 シルク製のペルシャ絨毯は、間違いなく高いが、それ以上にシルクロードの歴史を想起させる。

 インテリアの棚や植物の鉢植えなども、すべて同等のブランドだ。

 壁に掛けられているいくつもの絵画や、端に置かれている美術品なども、数十万程度の安物ではないだろう。寝室のベッドも、車くらいの値段はするはずだ。

 凪紗のお洒落すぎるマンションは、分譲マンションの本体価格よりも、内装に金が掛かっているようだった。


「ヨーロッパのラグジュアリーブランドは、王侯貴族と取引実績がある権威を指します」

「おう」

「ブランド品が結構ありますから、賀茂さんの印象は正しいです」

「そうか、俺が悪かった」


 権威に負けた一樹は、凪紗に全面降伏を申し出た。


「凪紗は、プロのインテリアコーディネーターに任せただけですよ」

「そうなのか」


 圧倒されてしまった一樹の隣で、沙羅がネタばらしをした。

 一樹が凪紗のほうを向くと、部屋の主は頷いて肯定した。


「家具を揃えてもらいたかったので」

「お金を渡して任せたと?」

「はい。花咲市に居ませんでしたし、忙しかったですから」


 凪紗は京都市にある卿華女学院の中等部に通っており、実家は奈良県だ。

 さらに羽団扇を手に入れて以降は、魔王領を削る五鬼童家の手伝いもしていた。

 花咲市で家具を選んでいる暇などなかったはずで、任せるのは自然に思われた。


「それは安心した」


 ホッと溜息を吐いた一樹は、バルコニーに出た。

 バルコニーにも、立派なテーブルやデッキチェアが配されていたが、理由を知った一樹は萎縮せずに済んだ。

 バルコニーからは、花咲高校がある地区が見える。


「ここから花咲高校は見えないかな」


 そう言って身を乗り出したところ、一樹は隣の部屋の住人と目が合った。


「あら賀茂様、ごきげんよう」

「ああ、合格おめでとう」


 一樹と目が合ったのは、陰陽長官の孫娘、五摂家の九条茉莉花だった。

 隣を空けられなかった理由が、一樹の腑に落ちた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] まぁでも、東大合格を前提に受験前にマンションを抑えたりもしますからねえ。 陰陽大家なら押さえて置いて損は無いマンションじゃないかなぁ。 ここなら頼もしい戦力も居るし。 値段以上の価値が…
[良い点] 良い周辺キャラの増殖具合ですね
[一言] 人口17万の地方(中核?)都市でそんな立派なマンション建てたオーナーの動機が気になる。 大都市圏内ではないが大阪東京に新幹線通勤できる三島や姫路みたいな感じなんだろうか。 花咲グループが高収…
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