表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第7巻 継承の愛狐

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

187/272

180話 指導に向いた妖怪

 新年が過ぎ去り、三学期が始まった。

 公立高校の冬休みは、北海道や青森県、岩手県が長く、沖縄県や宮崎県が短いほかは、横並びだ。夏休みの期間は真逆になるので、1年間の休みで考えれば、全国どこに住んでいても公平になる。

 公平とあっては、不平を鳴らしようもない。

 一樹は粛々と登校して授業を受けてから、放課後に陰陽同好会へ顔を出した。

 同好会室に入った第一声は、小太郎が上げた。


「懐かしい気がするな」

「同好会室が?」

「そうだ。魔王を調伏した頃以来じゃないか」

「そういえば、小太郎はそうなるか」


 昨年12月15日、荒ラ獅子魔王と目される獅子鬼が、陰陽師協会によって調伏された。

 作戦に従事したのは、A級7名、B級10名、名無しの女神1柱。

 一樹と小太郎は共に名を連ねており、準備と後始末で前後の数日は登校できず、それ以降も各所から様々な話が舞い込んで、色々と忙しかった。


 オリンピックの金メダルでも、表彰したい、表敬訪問してほしい、記者会見してほしい、出演してほしい、会いたいと求められる。

 それらは制度の権威、支持率や得票、視聴率などを目的としている。

 すると数十万人もの犠牲者を出して、300万人以上を難民化させた獅子鬼を倒したA級陰陽師は、利用できれば効果が絶大だ。

 ほかにも、企業や個人からの連絡も殺到する。


 陰陽師である一樹の場合は、「陰陽師協会を通してください」と言えば済む。

 協会には広報の担当部署があり、所属する陰陽師が個人では対応しないで良い。

 だが小太郎は、花咲グループの会長を兼ねており、花咲に来る連絡は直接対応せざるを得ない。そのため魔王調伏後は、同好会どころではなかったのだ。


「僅か3週間ほどで、よく収拾が付いたな」

「しつこい連中が、なぜか霊障に遭ったりしたらしい」

「……それは不思議だな」


 一樹が想像したのは、政府が陰陽師を監督する省庁を作り、陰陽師協会に東京への移転を求めた1959年以降に発生した謎の霊障だ。

 当時政府は、東京オリンピックに向けて大急ぎで各地の悪霊を祓わせたくて、陰陽師達を指揮下に置きたかった。

 協会に拒まれた後、実力行使に出たが、謎の霊障により失敗に終わっている。


「言っておくが、俺は何もしていないぞ」

「分かっている。ただの偶然だろう」


 藪をつつくと、蛇が出るかもしれない。

 絶対に背後関係を辿れない蛇なので、藪はつつかないが吉である。

 

 同好会室でいつもの席に着いた一樹は、背もたれに身体を預けて、パソコンを立ち上げた。

 ほかの面々も、ネットで何かを見たり、勉強の自習をしたりと自由に過ごす。

 今年度の陰陽同好会は、陰陽師国家試験で香苗と柚葉が、2位と3位で合格する実績を出した。そのため好きなことをしても、文句を言われることはない。

 もっとも来年度以降は、また別の話だ。

 一樹は同好会の会長である小太郎に声を掛けた。


「三学期になったし、来年度の同好会についてだけど」

「ああ、どうした?」

「来年度以降も、同好会員から国家試験の合格者を出す方針で良いのか」


 部活や同好会は、大会などで結果を出せば評価される。

 その評価は、部室や同好会室の割り当てにも影響を及ぼす。

 環境が良いR棟に同好会室を用意されている現状は、一樹達の優雅な高校生活に必要だ。

 そして陰陽同好会が出せる分かり易い結果こそが、国家試験の合格者数である。

 結果が出て、花咲高校のイメージも上がると主張できれば、優遇は維持できる。


「それで良いんじゃないか」


 花咲高校の理事長でもある小太郎は、同好会の方針を承認した。


「確か来年度は、五鬼童の妹と、九条家の娘が来るのだったな」

「そう聞いた。それとネットの噂では、二次試験に落ちた連中が来ると」


 既に合格している人間は、花咲高校に進学することにはデメリットもある。

 そもそも合格まで学んだ師匠がいる地元で、着実に実績を積むという既定路線がある。

 それを捨ててまで、A級の一樹達に知己を得るのは、正解とは言いがたい。

 なぜなら知己を得たところで、日々の調伏で手伝ってもらうことは、基本的に有り得ないからだ。手に負えない大妖怪が出現したのであれば、協会に報告したほうが良い。

 固有の理由がある凪紗や、陰陽長官から送り込まれる九条茉莉花を除けば、それほど積極的に来るようには思えなかった。


 他方、二次試験に落ちた人間であれば、花咲高校への進学は選択肢の一つだ。

 都道府県が変わると、協会が斡旋する師匠は変わる。

 だが斡旋される師匠が変わるだけで、師匠自体が居なくなるわけではない。

 花咲高校に進学すれば、斡旋される師匠に追加で、同好会で先輩が教えてくれることになる。

 その先輩が、陰陽道の二大宗家である賀茂家の一樹だ。

 本人がA級陰陽師であり、数百万人を難民化させた魔王を倒している。さらに素人だった柚葉と香苗を、4ヵ月で国家試験の2位と3位に押し上げた。

 花咲に進学することは、素人目でもプラスに見える。


「来るだろう。学校には、県外からの通学や寮についての問い合わせが来ている」

「多いのか?」

「多いに決まっている」


 小太郎に断言された一樹は、意見を求めるべく蒼依たちを見渡した。

 すると4人が、一様に頷く。代表して答えたのは、陰陽師の動向については一樹達よりも詳しい五鬼童家の沙羅だった。


「陰陽師って、稼げますよね」

「基本的には、そうかもしれない」


 即座に父親を思い出した一樹は、例外も居ると指摘した。

 だが、あまりにも例外過ぎたらしく、沙羅に聞き流される。


「下級陰陽師がお祓いをすると、1件20万円です。月5件で100万円。年収で1200万円になります」

「まあ、危険もあるからな」


 陰陽師の殉職率は、全職業で最多だ。

 最下級の霊障と聞いて赴くと、最下級ではなかった話は、枚挙に遑がない。

 依頼人の認識や情報が誤っていたり、依頼料を安く抑えたいがために嘘を吐いていたり、怨霊が力を増したり、別の怨霊がやってきたりと、想定外の理由には事欠かない。

 陰陽師として長く活動する場合、想定外の危機が一度も訪れないなど、あり得ない。


「年収が1200万円だろうと、不当に高くはないだろう」

「でも、親が勧める職業には成ると思います」

「それは否定しないが」


 同じ下級扱いの怨霊でも、F級ではなくE級になれば、1件で200万円だ。

 すると収入は、10倍になる。

 将来に稼げると分かっていれば、親も子供が陰陽師に成ることは検討する。

 都道府県外にある花咲高校への進学費用は、子供の将来への投資や、力量を上げて安全性を高めるためだと考えれば、出す家もあるだろう。

 受験生が増えるのは、無理からぬ話だった。


「それに合格率の問題もあります。元下級の陰陽師を斡旋されても、中々受かりませんし」


 沙羅が指摘したのは、協会の斡旋に関する問題だった。

 昨年の二次試験に落ちた者達には、協会が引退した元陰陽師を師匠として斡旋している。

 だが陰陽師は、現役でも中級以上が2000人しか居ない。

 陰陽師の引退者には、五体満足でない者、精神を病んだ者、実地で現場に出たくない者もいる。

 500人が毎年1人の弟子を引き受けてくれても、元中級が教えられる数は毎年500人。

 落ちた7714人に師匠を斡旋する場合、どうしても元下級が多くなる。

 しかも元下級でも数が足りないので、元下級1人で毎年数人を引き受けることも珍しくはない。

 元下級が講師を引き受ける目的には、協会から支払われる講師料、虚栄心や承認欲求などもあり、講師として適切だとは限らない。


 さらに協会は、高呪力者に元中級を斡旋して、低呪力者に元下級を斡旋する。

 質と量のうち、質を取っているのだ。

 呪力が少ない元下級は、霊符作成の手本を見せ難い。

 また元下級では妖怪や怨霊から弟子を守れないので、最低限のお祓いしか現場体験させられない。

 物心が付かない頃から教わった家業であればともかく、中学三年生で呪力があると言われても、そう簡単には身に付かない。


「だから花咲を受験するというのは、あると思います」

「高校の同好会で、勧誘していないのに手取り足取りを期待されても困るが」


 一樹には、柚葉と香苗を教えた実績がある。

 だが20人となると、同レベルでは教えられない。


 ――いっそのこと、指導に使えそうな式神でも使役するか?


 幸い一樹の呪力は、十分に足りている。

 獅子鬼の調伏により、穢れが大幅に浄化されて、穢れと一体化していた陽気が解放されたためだ。

 呪力に余裕のある一樹は、霊符作成の指導に向いた妖怪に思いを馳せた。


 ――後輩達が、守護護符を作る練習に向いた式神は居ないかな。


 霊符作成に関連しそうな筆、紙、絵の妖怪を次々と想像していく。

 やがて一樹が思い付いたのは、奈良県の長谷寺に伝わる『塗りつぶしの絵馬』だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作が、TOブックス様より刊行されました。
【転生陰陽師・賀茂一樹】
▼書籍 第7巻2025年12月15日(月)発売▼
書籍1巻 書籍2巻 書籍3巻 書籍4巻 書籍5巻 書籍6巻
▼漫画 第2巻 発売中▼
漫画1巻 漫画2巻
購入特典:妹編(共通)、式神編(電子書籍)、料理編(TOストア)
第7巻=『七歩蛇』 『猪笹王』 『蝦が池の大蝦』 巻末に付いています

コミカライズ、好評連載中!
漫画
アクリルスタンド発売!
アクスタ
ご購入、よろしくお願いします(*_ _))⁾⁾
1巻情報 2巻情報 3巻情報 4巻情報 5巻情報 6巻情報

前作も、よろしくお願いします!
1巻 書影2巻 書影3巻 書影4巻 書影
― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に神霊のいる世界では霊媒師は儲かるという先達エンタメ作品は幾つかありましたが、またえぐい師弟構造まで書いてくれるのがこの作品の魅力 むしろ常人よりは下手に腕のある不合格者達を野に放たな…
[一言] TOストアにて予約済みです。 発売日を楽しみに待っています。
[良い点] ストアで予約済みです ニヒョウはよくわかりませんが.......
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ