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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第6巻 彼誰時

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173話 蒼依姫命の祓

 獅子鬼と建御名方神との戦いの帰趨は、獅子鬼に軍配が上がるのが必然だった。

 蜃の鬼市を維持してなお、呪力で倍の差があった。牛太郎、信君、水仙、鎌鼬3柱を足しても、獅子鬼の呪力には届かない。

 建御名方神の命が尽き掛ける中、一樹には全戦力を振り向けるほかの選択肢は無かった。


『蒼依、沙羅、八咫烏達で加勢してくれ』


 いずれも投入したくはないが、増援できる人員は、それだけだ。

 犬神は羅刹に、キヨも青鬼にトドメを刺している最中で、赤牛は消えている。

 そして外からの増援には、もはや期待していない。


 ――鬼市の維持に、富士山の霊脈が使われているかもしれない。


 地脈から力を得る存在は、神に限らない。

 蒼依と争ったA級下位の五鬼王ですらも、土地に自らの領域を作っていた。

 であれば、御殿場市と周辺を領域化していた獅子鬼も、地脈の力は使える。

 それを鬼市の維持に使っていた場合、外側の宇賀らは蜃の煙を祓うために、より多くの呪力と時間を消費する。

 だから駆け付けられないのかもしれないと、一樹は想像した。


 増援が来るまで逃げ回った場合、到着が間に合わずに各個撃破される可能性がある。

 そうなるくらいならば、建御名方神が生きている間に加勢したほうが、生存の可能性は高い。


「ブオオオオッ!」


 建御名方神に食らい付く獅子鬼の右手に向かって、牛太郎が棍棒を振り抜いた。


「んぬうううっ」


 顔を苦悶に歪めた獅子鬼が、身体の向きを変えて、牛太郎に右足で蹴りを見舞う。

 だが建御名方神を押さえ付けながらでは、威力に乏しい。

 元々の負傷、鬼市の維持、建御名方神や式神達との戦いによる消耗が積み重なり、牛太郎は獅子鬼の蹴りを受け流せた。

 そのまま牛太郎は、獅子鬼の伸びた右足に棍棒を叩き込んだ。

 そして獅子鬼の大地を踏みしめる左足には、信君が取り付いている。

 信君は足の裏に回り込み、刀を振り抜いた。


『鳴神』


 A級中位に力を上げた信君の鳴神兼定が、獅子鬼の足の腱を断ち切る。


「ガアアアアッ」


 獅子鬼は戦うライオンのように、殺意に満ちた雄叫びを上げた。

 呻った直後、牛太郎に向けていた右足を引き戻して、そのまま信君に蹴りを見舞う。

 獅子鬼の右足が迫った信君は、風神雷神の力が宿る刀を構えた。


『疾風迅雷』


 信君の身体が、疾風のように駆け始めた。

 信君は刀を横に構えて、獅子鬼の右足を真横から斬りながら、通り抜けていく。

 交差した獅子鬼の右足から、血が噴き出していく。

 そのまま駆けた信君は、再び左足を狙った。


「畜生と、人間風情があっ!」


 建御名方神の首筋に突き立てた牙を外した獅子鬼が、牛太郎と信君に向かって吠えた。

 獅子鬼は建御名方神を投げ捨てると、左手に斧を顕現させる。


「下等な貴様等を嬲り殺し、捕らえた魂を痛めて、地獄を見せてやる」


 獅子鬼の罵詈雑言を耳にした一樹の表情が、途端に抜け落ちた。

 能面となった一樹は、淡々と命じる。


『……撃て』


 天空から八咫烏達を介した一樹の神気が、五色の矢雨となって、降り注いだ。

 五行の矢は、獅子鬼の顔面を集中的に狙い、目、鼻、口に神気の爆発を見舞っていく。

 強制的に黙らされた獅子鬼は、飛び退いて矢を避けた。

 それを八咫烏達が空から追い回し、神気を浴びせ続ける。牛太郎や信君らも追撃に入り、気を散らされた獅子鬼を地上から攻め立てた。


 式神達の身体には一樹の気が満ち溢れており、全挙動が全力で行われていく。

 全力で棍棒が打ち据え、神気を宿した鳴神兼定が真価を引き出し、水仙の猛毒が獅子鬼を呪い、駆け回る鎌鼬が棍棒と鎌で襲い、八咫烏達が五行の矢雨を降らせる。


「おのれ、術者め」

「黙れ、下廻り」


 隠れ潜んでいた一樹は、その身を獅子鬼に晒した。

 わざわざ身を晒した理由は3つ。

 1つは、式神達に莫大な呪力を送るために、姿を隠せなくなったこと。

 1つは、獅子鬼の軽々しい地獄云々に対する怒り。

 1つは、自らを囮とするため。


 一樹を倒せば、全ての式神が呪力供給を断たれ、霊体の式神であれば解放される。

 そのため一樹が姿を現せば、獅子鬼は式神の攻撃など無視してでも、まっしぐらに一樹を狙うに決まっている。

 隠形していた一樹を目にした獅子鬼は、ほかの全てを無視して、猛然と駆け出した。


 その頭上から、天沼矛を構えた蒼依が、沙羅に抱えられて急降下してくる。

 獅子鬼の背後から迫った蒼依の天沼矛は、獅子鬼の首に突き立てられた。


『蒼依姫命の祓』


 A級下位である蒼依の神力、そして6個でA級下位の力が籠められた勾玉の神力が、獅子鬼の首から神気を放った。


「ガアアアアァァァッ」


 一樹を目掛けて猛進していた獅子鬼が、堪らず吠える。

 だが蒼依の攻撃は、そこで終わらなかった。

 一樹と蒼依は、式神契約を解除していない。一樹の呪力は、蒼依に流せる。


「地獄とは、こいつのことだ……『閻魔大王の祓』」


 一樹が宿す閻魔大王の神気が、蒼依の天沼矛を介して、獅子鬼の首に注ぎ込まれた。

 注ぎ込まれた閻魔大王の神気を受けて、獅子鬼は声も発せられず、崩れ落ちていく。

 蒼依は体勢を崩したが、影から猫太郎が飛び出して獅子鬼と蒼依の服に爪を立て、蒼依の身体を繋ぎ止めた。


「全部喰え」


 一樹の身体が輝き、それが蒼依に伝播して、獅子鬼へと流れ込んでいった。

 幽霊巡視船を使っていない一樹の神気には、まだ余裕があった。

 一樹の神気は、獅子鬼の妖気を上回り、獅子鬼の身体を塗り潰していく。


 閻魔大王の神気は、獅子鬼に対して、絶大な威力を発揮していた。

 それを表すかのように、一樹の魂に染み込んだ穢れが、急速に浄化されている。

 穢れを抑え込むために使われていた一樹の陽気も、全てではないにしろ解放されて、使える量が急速に増していった。


『陽気は、蒼依以外の式神に回す。神気は蒼依に』


 獅子鬼は、既に動かなくなっていた。

 それでも止め処なく注ぎ込まれる神気が、妖気に満ちた獅子鬼の肉体と魂を滅ぼしていく。

 やがて獅子鬼が使役していた蜃の煙が晴れていき、ようやく一樹は魔王の調伏を確信した。


 ◇◇◇◇◇◇


 宇賀達の到着を視界に収めた一樹は、とりあえず休ませて欲しいと思った。

 無論、そのような願いが叶うはずもなく、一樹達は事細かに状況を確認された。


 獅子鬼に関しては、閻魔大王云々は省き、蒼依の神気でトドメを刺したと伝えた。

 羅刹は犬神が倒しており、豊川達の到着後に犬神が魂を噛み裂いて、決着した。

 夜叉はキヨが倒したが、姿が消えてしまい、魂の消滅は確認出来なかった。

 蜃は獅子鬼の撃破後、解放されて霊体に戻ったところを霊狐達が滅した。

 殉職は諏訪と堀河の二人で、これらが本作戦における大まかな結果であった。


 そして結果には、付随して発生する事象もある。


「魔王を倒した蒼依姫命の神格は、どれくらい上がったかしら」


 A級下位の五鬼王を調伏してすら、蒼依はB級上位からA級下位に神格を上げた。

 弱っていたとは言え、S級中位の魔王にトドメを刺して、神格が上がらないはずもない。

 蒼依の立場を上げることは、蒼依を守ることに繋がる。

 そのように考える一樹は、宇賀の確認に対して正直に答えた。


「諏訪様が倒せなかった魔王を倒したことで、神格は諏訪様に並んだかもしれません。もっとも、すぐに身に着けられるものではないのか、神力はA級中位ほどと感じ取れますが」


 一樹の申告を受けた宇賀は、一樹と蒼依を交互に眺めた。

 そして納得したように頷くと、次いで獅子鬼の上を飛び跳ねて遊ぶ八咫烏に、視線を送る。


「女神の神格が上がったのなら、属する神使も上がったのかしら」

「……いえ、八咫烏達の力は上がりませんでした。安全な空から撃っていただけですし」


 一樹は、取って付けた言い訳を返した。

 本来であれば、全ての式神が1つずつ力を上げるくらいの神話を果たしたはずだった。

 だが魔王の妖気は、その大半が一樹の穢れを浄化するために使われてしまった。そのためムカデ神を倒した時のような分配が無かったのだ。

 意外そうな表情を浮かべた宇賀は、気を取り直して言葉を重ねる。


「もしも八咫烏達の力が上がったら、大鬼を捕まえて投げ落とすようになったかもしれないから、貴方の平穏な生活を保てる点では、良かったかもしれないわね」

「……ははは」

「「クワッ?」」


 一樹が乾いた笑いを返す中、八咫烏達は「意味が分かりません」とばかりに、首を傾げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 諏訪様と堀河さん、、、 残念です。 ですが、一樹の穢れを大幅に除去できたのは素晴らしい。 どんな式神を使役するのか楽しみです。
[良い点] 一樹に地獄云々はNGワードよな。ブチギレて、消耗は激しいんだろうが、式神達に全力戦闘させた時の勢い! 穢れの浄化を優先したから蒼依しか格が上がらなかったのは残念ですが、穢れの浄化で陽気と…
[良い点] 八咫烏にとっては「無邪気に遊べる」という点においては今のままの力で良いかもしれませんね。 一樹の更なるパワーアップに期待!
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