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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第6巻 彼誰時

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172話 荒ラ獅子魔王

 陰陽師達が、羅刹や夜叉と争う頃、獅子鬼と建御名方神も争っていた。

 それはサバンナで見られる、ライオンとブチハイエナの如き戦いだった。

 個体差はあるが、平均的なブチハイエナは5匹ほどで、雄ライオン1頭と互角という考えがある。そして獅子鬼と建御名方神も、呪力差は5倍ほどだった。


 もちろんブチハイエナは、1匹でライオンに挑んだりはしない。

 獅子鬼の足元には牛太郎、信君、水仙、鎌鼬が取り付いて、攻撃していた。

 だがそれはライオンにとって、子供のブチハイエナが参戦した程度の差であった。


「貴様等は、邪魔だ」


 獅子鬼は、左足を蹴り上げて、牛太郎を蹴り飛ばした。

 右足に取り付いていた牛太郎は、狙い澄ました蹴りを顔に受けて、堪らず吹き飛んだ。


「ブオオオッ」


 蹴り飛ばされた牛太郎が、鬼市の路上を豪快に転がっていく。

 牛太郎が生身であれば、首の骨が折れたかもしれない。霊体であろうとも、獅子鬼が呪力を纏わせて放った蹴りは、牛太郎に大打撃を与えた。

 もしも敵が牛太郎だけであったなら、獅子鬼は牛太郎を捕まえて、呪力が尽きるまで蹴り続けた。だが建御名方神と取っ組み合う獅子鬼は、追撃が出来ない。

 一樹からの呪力供給を受けて回復した牛太郎は、起き上がって再度獅子鬼に向かってきた。


「ええいっ、鬱陶しい」


 吠えた獅子鬼は、右足を振り上げて左足付近に叩き降ろし、今度は信君達を踏み潰そうとした。

 左足に取り付いているのは、信君、水仙、鎌鼬のうち2柱だ。

 鎌鼬の妹神のほうは、建御名方神に取り付いて薬を使い、獅子鬼が斧や爪で切り裂いた身体を治癒している。

 その苛立ちも含めて、獅子鬼は信君や水仙に右足の裏を叩き付ける。

 水仙は飛び退いて躱し、同時に妖糸を使って信君も引き寄せながら、訴えた。


「ねえ。見定めるとか言っていたけれど、いい加減に、本気を出したらどうかな」


 それは信君が一樹の式神と化した際、完全には使役されずに見定めると告げた件についてだ。

 一樹と深く繋がった式神達は、神であれば閻魔大王の神気を得て、妖であれば穢れを得て、それぞれ力を増す。

 前者は神霊の牛太郎、女神の蒼依、神鳥の八咫烏、神の鎌鼬で、後者は妖怪の水仙や幽霊船だ。だが槐の邪神である信君は、前者と後者のいずれであろうと、力を受け入れていない。

 信君の力が増せば、少しマシになると水仙は考えたのだ。


「人の身で、これほどの穢れを纏うなど、前世の業が深すぎると思うた」


 獅子鬼の足元に取り付いた信君は、水仙と連携して斬り付け、毒を流し込みながら語る。


「だが、それにしては尋常ならざる神気も纏い、あまりに不可解であった。故に見定めてきた」

「そうだね。それで結論は?」


 戦闘中で余裕が無い水仙は、せっつくように尋ねた。

 辛うじて話せるのは、戦場に舞い戻った牛太郎が右足に取り付いて、攻撃の圧が下がったためだ。

 信君は獅子鬼の左足を斬り付けながら、渋々と答えた。


「……前世の業など、神仏でもなければ窺い知れぬ。だが今世では、魔王と戦っておる。ならば、我が民の子孫のために、力を貸してやらぬでもない」


 自分自身を納得させるように言葉を選びながら、信君は結論を告げた。

 そして刀に、神力を籠める。


鳴神兼定なるかみかねさだ


 それは信君が、生前に所持していた刀の名前だ。

 最上大業物という、日本刀の中でも特に切れ味が秀でた作例を鍛造した刀工の2代兼定が打ち、目貫に風神雷神の文様があったことから、その力を宿して『鳴神兼定』と命名された。

 その刀は、元々は武田信玄が所持していたが、信君に伝わっている。

 風神雷神の力を宿す刀を構えた信君は、気を深く繋げた一樹から、引っ張った神気を纏わせる。

 そして神気を帯びた刀を、神気と共に振り抜いた。


『鳴神』


 神気を帯びた神刀は、帯びた気を力に変換して、雷の如く駆けた。

 そして刀身が、獅子鬼の左足を風神の力で斬り裂き、雷神の力を放つ。

 深く斬り裂かれた獅子鬼の肉が、雷に激しく焼かれた。


「グアアアアオオオッ」


 A級中位に倍加した信君の攻撃を受けた獅子鬼が、倍加した疼痛に吠えた。

 疾風迅雷の攻撃を見た水仙は、やれやれと表情を緩める。

 侍の矜恃で容易に頷かぬ性格の信君とは真逆で、水仙は効率主義者である。自身がA級に至るためには、一樹が生きて活躍するのが最善だ。

 思うように動かせた信君の後を追った水仙は、信君が斬った傷口に毒を注ぎ込んでいった。

 そんな両者の連携攻撃は、S級の獅子鬼であろうとも、無視できるほど弱いものではなかった。


 歯を食いしばった獅子鬼は、己の足元と、組み合う建御名方神を交互に睨み付けた。

 直ちに信君と水仙を踏み殺したいが、建御名方神と取っ組み合っていては、動きもままならない。

 しかも鳴神兼定を顕現させて風神雷神の力を纏った信君は、目に見えて速くなった。また水仙は、周囲に撒き散らした糸で、自在に跳び回る。

 そのため獅子鬼は、先に建御名方神を排除すべきと判断した。

 左手で建御名方神の右手を掴み、鋭い牙を生やす大口を開け、建御名方神の首筋を狙う。


「ガアアアアッ」


 獅子鬼は雄叫びを上げ、恫喝しながら建御名方神に迫った。

 迫る顔面を左手で抑えた建御名方神は、獅子鬼を押し返しながら、気圧されないように罵倒する。


「最底辺の魔王であるうぬなど、恐るるに足らぬわ!」

「何だと貴様っ」


 本来の獅子鬼は、最底辺の魔王ではない。

 獅子鬼の呪力の大半は、蜃が生み出す鬼市を維持するために注がれている。

 現在の獅子鬼をライオンに例えるならば、過去の戦いで右足を負傷しており、狩りに入るまでに体力の半分も消耗している状態だ。

 呪力が半分以下で、しかも片腕という状態でなければ、もっと戦える。

 怒りを見せた獅子鬼は、不当な評価を下した建御名方神を視て、眉を上げた。


「有象無象の下級神かと思えば、貴様も人を喰う側か」

「はあっ、何を言うか」

「貴様の身体は、人間を使っているだろう。喰っているのと、変わらぬではないか」


 獅子鬼の指摘は、的外れとは言い難い。

 A級1位の諏訪は、建御名方神の御魂を宿す現人神だ。

 普段は魂のみが神で、肉体は人間である。

 そして現在の建御名方神は、子孫の身体を使い、肉体も顕現させている。

 建御名方神を捻伏せようと力を籠めながら、獅子鬼は断罪する。


「その人間は、貴様が力を振うための人身御供であろうが」

「ぬうううっ」


 獅子鬼を押し返そうと力を籠めながら、建御名方神は呻った。

 建御名方神が行っている顕現は、自動車にジェットエンジンを搭載するようなことだ。

 燃料となる呪力の消費は膨大で、排熱すれば車体の一部も融ける。

 諏訪の呪力は凄まじい勢いで減っており、身体への負荷も莫大だ。

 獅子鬼と組み合って力を入れる度に、諏訪の命の火が削られていく。獅子鬼は、建御名方神の器となった人間が、戦闘後に死ぬと見なした。


「貴様も人を喰う身でありながら、なぜ邪魔立てするっ。神仏にでも噛み付け」


 獅子鬼の罵倒に、建御名方神は顔をしかめた。

 かつて建御雷神と戦って敗北し、諏訪の地から出ない約束をした建御名方神は、諏訪に御魂を宿らせる形でしか、諏訪の外に出られなくなった。

 建御名方神の身体は、諏訪の地から出ていない。

 建御名方神の御魂も、諏訪の身体から出ていない。

 子孫に御魂を宿らせるのは、誓約に縛られる建御名方神が、誓約の穴を使っているからだ。

 それでも建御名方神は、言い張った。


「子孫達に、力を与えているだけのことだ!」


 建御名方神が子孫達と言ったのは、現在力を振っている身体の持ち主が死ぬことを認めた上で、それでも諏訪一族が恩恵を享受できると見なしているからだった。

 建御名方神の御魂が宿る諏訪一族は、A級1位が定席で、地位も名誉も財産も得られる。

 それは紛れもなく、多くの人が望む恩恵だ。

 但し、肉体が有する力を超える戦いに挑めば、御魂を宿す者は身罷る危険がある。

 しかも今回のような場合、地位と名誉と財産の引き替えの義務として、危険を避けられない。


「その子孫とやらは、貴様のせいで、もう死ぬであろう」

「何を言うか。汝のせいではないか」

「違うな。鬼が人を喰うのは、自然の摂理だ。かつて神仏が介入したのは、当時の我らが、人を絶滅させる恐れがあったからに過ぎぬ。次からは貴様も、ほかの神仏のように、手出しせぬことだ」


 獅子鬼は牛太郎達を蹴りながら、力の弱まる建御名方神に対して、次は来るなと言い聞かせた。


「ふざけるな。貴様等は、自然の摂理の最低限ではない」

「人もそうであろう。釣り合っておる。余は、もはや神仏が介入せぬと確信した」


 獅子鬼の言い分のうち、神仏が介入しない点について、建御名方神は否定が出来なかった。

 理由は不明だが、事実として神仏は介入していない。

 建御名方神が反論できたのは、別のことについてだった。


「子孫を庇うことも、自然の摂理であろう」

「ならば貴様は、何度でも死ねっ」


 力が落ちた建御名方神の左手を押しながら、獅子鬼の牙が建御名方神の首筋を捉えた。

 鋭い牙が突き立てられて、強靱な顎が鎖骨を噛み砕き、押し潰す。

 食らい付いた獅子鬼は、まるで獲物に食らい付いたライオンのように、顔を振り回した。


「ぬあ゛あ゛あ゛あっ」


 獅子鬼に食らい付かれた肩口の傷から、建御名方神の生気が急速に抜け落ちていった。

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前作も、よろしくお願いします!
1巻 書影2巻 書影3巻 書影4巻 書影
― 新着の感想 ―
[一言] 「人の身で、これほどの穢れを纏うなど、前世の業が深すぎると思うた」 それが理由で見定めてたのか。ここでも閻魔大王のせいだったか。まぁ、それはそれとして鳴神兼定!これで、本契約?になったんかな…
[気になる点] 羅刹と夜叉、どちらも仕留めることはできていたようだが、問題はそれにかかる時間。 治癒の力を持つ羽団扇と沙羅は間に合うか? ここまでやられたら鎌鼬の治癒も焼け石に水かな
[気になる点] >理由は不明だが、事実として神仏は介入していない。 もしかしなくても一樹がいるから介入をやめてる?参戦しろよという気持ちと一樹浄化が進まないから来ると困るという気持ちで複雑……
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