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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第6巻 彼誰時

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159話 天空の社

「見事に灰色だ」


 一樹が割り振られた妖怪調伏の地は、東京都だった。

 東京には首都機能が置かれており、首都圏には人と大企業の本社が集中していて、日本の心臓部を担っている。


 東京都が使えなくなれば、日本の大混乱は必至だ。

 そのため、荒ラ獅子魔王の侵攻は、神奈川県で押し留められた。

 また東京に現れたA級ではない妖怪の対応に、A級の一樹が駆り出されている。その仕事の一環として、八咫烏達と蒼依を連れてきた。


「本当に緑が、全然ありませんね」


 田舎の山育ちの蒼依は、東京天空櫓の天望デッキから眺めた景色に、目を見張って驚いていた。

 東京天空櫓は、墨田区に建てられた東京都の第二電波塔だ。

 命名の由来は、一八三一年頃に浮世絵師の歌川国芳が描いた『東都三ツ股の図』にあった櫓が、現在の電波塔に位置と姿形が似ていたからだ。

 電波を送るための電波塔なので、東京の中央部に建てられている。

 東京天空櫓には展望台もあって、上のほうにある展望回廊では、地上450メートルの高さから東京が広く見渡せる。

 そして一樹達が来ているのは、さらに高いアンテナの付け根部分、地上497メートル地点だ。

 蒼依が景観を嘆いたのには、理由があった。


「ここにイザナミから独立した新女神の神社を建立した。神使の八咫烏を活躍させて信仰を集め、首都圏から信仰で集まる気を八咫烏達に供給して、活動してもらう」


 改めて計画を告げたのは、一樹達に同行した協会長の向井だった。

 常任理事会が行われる前から着手していたらしく、すでに小さな社が完成している。

 東京天空櫓に、蒼依姫命の神社を建立することになった理由は、2つあった。


 1つは、首都圏に出現した霊障対策。

 1つは、いずれ公表する新女神・蒼依姫命の実績作り。


「都内を中心とした首都圏に霊障が多発しており、対応するために飛行可能な八咫烏達が必要で、気の供給には神社が必要だ」

「厄介な場所に、厄介な霊障が現れましたね」


 東京で霊障を引き起こしたのは『走無常』で、中国の死神『無常鬼』の代理人だ。

 元々は、死神の無常鬼が人々を冥府に連行していたが、明の時代に入ると人間が増えてきて、仕事が追い付かなくなった。

 そのため死神の代理として、多数の走無常を使うようになった。

 走無常は、生者が突然、強制的に選ばれる。

 走無常にされるのは死に瀕した者で、息を吹き返すが現世と冥界を行き来できるようになって、現世の魂を冥界に連れて行く協力をするようになる。


 ――要するに、死神の使いっ走りだな。


 単なる人間が使いっ走りにされているので、周囲の人間には、走無常の見分けが付かない。それでいて、いきなり魂を持って行かれるので、堪ったものではない。

 陰陽師が走無常を探すのも、現実的に不可能だ。

 何しろ東京を含む首都圏には、二千数百万人が暮らしている。

 ビルの合間を縫って探し歩き、ようやく1体を見つけて捕まえる頃には、新たな走無常達が何体も走り回っているだろう。

 対応できない間に、都民の気を奪われ続けて、魔王に力を与えてしまう。

 そのため八咫烏が、対抗手段として選ばれた。


「八咫烏達は、飛行能力と、感知能力を併せ持っているな」

「はい。それは間違いなく」


 八咫烏達が小鬼を狩れた時、一樹は褒めてきた。

 それは八咫烏達の使役が、陰陽師国家試験に受かるためで、八咫烏達が狩りを得意になれば試験の結果に期待できたからだ。

 蒼依にとっても山の実りを荒らす小鬼は迷惑で、八咫烏達が小鬼を狩れば喜んだ。


 褒めて育てれば、伸びる。

 一樹と蒼依に褒められた八咫烏達は喜び、意欲的に小鬼を狩り続けてきた。

 県という広域で、自分達から逃げ隠れする小鬼を探し回ってきた八咫烏達は、小さな気を探し当てることが得意中の得意になった。

 地中に潜ったミミズを空から見つけられるくらいには、山々の小鬼を探し当てられる。

 県内の小鬼は、もはや絶滅危惧種である。


 ――こいつらの趣味が、こんなに役に立つとは。


 宇賀が考えているよりも遥かに高水準で、八咫烏達は捜索に適任だ。

 相手は冥府の役人である死神の使いだが、八咫烏達は冥府の元締めである閻魔大王の神気で育ち、ムカデ神の調伏で龍気を得て、高天原から降りた天津鰐を喰らって天の力も有している。

 空から襲い掛かってくる圧倒的な上位者に、走無常は為す術が無い。


「能力的には花咲家の犬神でも良かったが、紀州犬っぽい犬神がリード無しで都内を走り回れば、人々は混乱するだろう」

「そうですね。犬神は鼻が利きますが、カラスが飛び回るよりは、都民がざわつくと思います」


 目を凝らして、よく見れば三本足だが、見分けが付いたところで騒がれたりはしない。

 都内の捜索に八咫烏が向いていることについて、一樹には否定の余地が無かった。


「八咫烏の投入は最適解だが、問題は神気の供給だ」

「はい。走無常にされた人間から悪い気を祓うためには、神気を使います。単純に殺すのであれば、そこまで難しくありませんが、相手は人間ですし」


 走無常は、操られた人間だ。

 元々は日本に居ない存在であるために、走無常への取り扱いも、定められていない。

 対処の術があるのに、勝手に人間を殺処分しては、陰陽師協会が悪者になってしまう。

 とはいえ、容易く解決できるわけでもないが。


「治すには神気が必要で、使役者が気を供給しなければならないが、君は付き合いきれないだろう」

「はい、無理ですね」


 数ヵ月も東京に拘束されれば、高校留年は必至だ。

 それでは都民のために、花咲市から東京に、転校すれば良いのか。

 それで走無常が大阪などに移動したら、一樹も再び転校するのか。

 あるいは東京と大阪の両方同時に、走無常が出たらどうするのか。


 転校は自己犠牲の度合いが過ぎるし、抜け穴も多すぎるので、一樹はとても応じられない。

 向井と宇賀も転校は求めておらず、代わりに気を供給する方法として、東京天空櫓内に神社を建立する案が添えられていた。


「八咫烏達は、女神の神使でもあって、神社に集められた気で呪力を供給できると聞いている」


 蒼依を見ながら、向井は確認するように尋ねた。


「はい。二人で育てましたので」


 一樹が述べると、蒼依は優しい手つきで手近の青龍を撫でた。

 すると残る四羽は、蒼依が撫でやすいように手元に寄っていく。

 甘える八咫烏達を蒼依が順に撫でていく様子を見た向井は、納得を示して頷いた。


 もう1つの理由である『いずれ公表する新女神・蒼依姫命の実績作り』については、蒼依の高校卒業後、東京を守った実績を公表すれば、人々の信仰で蒼依姫命の神格が上がると考えられる。

 五鬼王を倒して独立した蒼依が、神使で東京を守った神話を増やすことで、神格を上げるわけだ。

 A級下位よりも、A級中位のほうが、人間側の対応は良くなる。

 力が強いほど、「公共事業を行うので山を明け渡して下さい」などとは、言われなくなるのだ。

 S級下位まで至れば、蛇神とムカデ神に対する人間のように、神同士で争っても目を逸らされて見て見ぬ振りをされる。


 ――八咫烏達を派遣するだけで蒼依の神格が上がるなら、コストパフォーマンスが良すぎる。


 それこそが、一樹が応じる理由であった。

 蒼依の神格が上がれば、一樹と子孫にとって、凄まじい恩恵がある。

 使役する式神が強いのは一樹にとってメリットだし、しかも蒼依は気を供給しなくても戦えて、八咫烏達に気を供給出来る。

 その八咫烏達は、一樹の子孫に継承される。

 別系統の回復方法を持つ八咫烏は、子孫の呪力に影響されずに力を振るえるのだ。

 八咫烏達は、現在でも5羽を足せばA級下位。さらに神使として、東京天空櫓で信仰を集めれば、八咫烏達の格も上がるかもしれない。

 賀茂家は、花咲家のようにA級の定席を得るも同然となる。


 ――宇賀様は、色んな相手に貸しを作りまくっているな。


 宇賀は自身の安全を確保するために、五鬼童など様々な相手に貸しを作っているのかもしれない。各地の陰陽大家も、婚姻の調整など様々な手配をする宇賀には、頭が上がらないのだ。


「ここは屋根がなくて、八咫烏が自由に出入りできる。神社に戻って休めば、呪力も回復する」

「元々、一般人が出入りできない場所なのは、良いですね」


 神社を建立するために展望回廊などを封鎖すると、従業員や観光客も困る。

 優先順位は妖怪対策だが、影響がないのが一番だ。


「東京天空櫓を見上げて祈れば、祈りが届く。都内の広域から、人々の祈りが届くだろう」


 首都圏に電波を届ける電波塔が、信仰ひいては呪力を集める象徴になるわけだ。

 神社と人々の距離は離れているし、社を直接見られるわけでもない。

 だが首都圏の人口は、膨大だ。小さな祈りでも、沢山集まれば八咫烏5羽が活動するには充分な呪力が、安定的に集まる。

 それこそが、東京天空櫓に蒼依の神社を建立した理由だった。


「生者である蒼依姫命は、社に魂を分霊できない。あとは、気を集める霊物が必要だ」

「はい。それではこちらが、霊物になります」


 一樹が差し出したのは、小さな桐の箱だった。

 その箱の中に入っているのは、槐の邪神を倒しに行った際、一樹が入手した翡翠製の勾玉5個だ。蒼依が神域を作成する練習用として使い続け、五鬼王の調伏でも役立った。

 貴重な霊物だが、蒼依の社に力を集めるためには最適な品でもある。

 使用する霊物は、勾玉として消費されて使い物にならなくなるのか、それとも神物と化すのか、試してみないと分からない。


「消耗して使えなくなったとしても、蒼依の神格が上がるのであれば、構いません」

「分かった。それでは預かろう」


 かくして東京の空に、八咫烏が飛び交う神社が建立された。

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― 新着の感想 ―
[一言] 首都圏なら人口も多いから信仰も大きくなりそう。 派遣するから八咫烏達を常に戦力として数える事は出来なくなるかもだが、八咫烏達は別の供給先も得るし格も上がるかもで、子孫が呪力低くても問題無く力…
[一言] そういえば 陰陽師協会が政府から東京移転を求められたが断ったという話が随分前にありましたが スカイツリーに蒼依の神域を作って拠点としての存在が増すと、(推定次期協会長の)一樹と関東圏との柵が…
[一言] >東京天空櫓に蒼依の神社 東京天空櫓を起点とした鉄路による霊的結界も出来るのか。 あの辺、霊脈あった筈……?
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