152話 概ね計画通り
「同好会の紹介動画よりも、香苗のTwitterに載せた集合写真のほうがバズった……なぜだ」
「なぜでしょうね」
困惑する一樹に対して、香苗が呆れた瞳を向けた。
香苗のTwitterは、フォロワー数が少なかった。
それにも関わらず、集合写真はわずか1日で4桁のコメント、6桁のリツイートといいねが付いた。辛うじて千や十万を超えたのではなく、二回り、三回りもしている。
呟きには沢山のコメントが付いており、お祭り騒ぎで盛り上がっていた。
『前列=伝説の犬神、C級、C級、B級。後列=A級、A級、一般人?』
『ここが伝説の勇者部か……ゴクリ(;・`д・́)』
『単独で魔王と戦える同好会。少なくとも、四天王は倒せる』
盛り上がるコメントには、意図的に誇張された大げさな表現が用いられることも多い。
だが今回の場合、さほど誇張されておらず、むしろ過小評価の部分すらある。
後列の一般人と見なされている蒼依は、神域を作っている本物の女神だ。
陰陽師には使えない神術を使えるので、蒼依が陰陽師に劣るわけでは無い。
蒼依が陰陽師の国家試験を受ければ、容易くA級まで上がる。
もっとも蒼依は、『A級8位に成って、人間の一樹や小太郎以下だと世間に認識される』よりも、資格を取らずに居るほうが、最終的には高い神格に至るかもしれない。
A級陰陽師の収入は大きいので、長生きする蒼依の生活を考えれば、取得は悩みどころだが。
香苗が投稿した写真は、実際には過小評価でありながら、盛大にバズっていた。
そして翌日、同好会室での振り返りに至っている。
「複数の男女で撮った写真を載せて、ガチ恋勢を発生させないことが、目的だったが」
「その目的『は』、果たせたと思いますよ」
一樹が主張したとおり、ガチ恋勢については、対策できた。
香苗は、同好会員としての個人のTwitterを始めたばかりだった。
これまでに最初の挨拶から始まって、両手の指の数で足りる程度しか投稿していない。
アイドル売りをしたわけではないし、フォロワーに異性として好きになってもらうガチ恋営業をしたわけでもない。
現状では、香苗が同好会の集合写真を載せたことに対して、誰かが「男と写って失望しました」とコメントすれば、「お前は何を言っているんだ」とツッコミが入る。
ツッコミのほうに、大量の「いいね」が付くだろう。
かくして『男性と一緒に写った写真を投稿する』という実績を作った香苗は、その後も男性と写った写真の投稿やコラボなどに、制約を受けなくなる。
そのために発生させた事態はさておき、一つの目的『は』、確かに果たせている。
「概ね計画通りだな」
「概ねの許容範囲、広すぎませんか」
「目的を果たせた部分は、計画通りだろう」
「その点だけは、否定しませんけれど」
一樹にとって予想外だったのは、想定以上に盛り上がったことだ。
「通常なら男女で撮った写真は、良い要素があっても、嫉妬で差し引きされて、盛り上がりは程々に抑えられるはずなんだが」
「そうなんですか?」
「普通は、お約束で『けっ、イチャイチャしやがって』とか、反応するだろう」
そのため一樹は、『自分や小太郎が同好会員として載る』と『嫉妬のお約束』を差し引きして、程々にプラス寄りに落ち着くと思い込んでいたのだ。
結果は、もちろん一樹の計算外である。
――嫉妬コメントとか、殆ど無かったな。
強行偵察で魔王を撃退した一樹と、犬神で占領地域を解放した小太郎が、学校で並んだ写真。
魔王に占拠された地域の住民や、生活を脅かされた国民は、それに喝采した。同好会が、男女で写っていようとも、そんなことは一切気にせず、全力で『いいね』を押したのだ。
占領されていない地域の人々も、占領された地域の人々を思いやって支援した。
日本人の協調性の部分が、強く現れたらしい。
それが一樹にとって、計算外になった部分である。
香苗のTwitterでの盛り上がりは、もはや誰にも止められない。
冷めた狐目が、一樹に向けられた。
「概ね計画通りでも良いのですけれど、このままだとあたしのTwitterが同好会のサブアカウントになってしまって、音楽活動ができなくなりそうです」
「気にせず音楽配信を始めるわけには、いかないよな」
「あたしの陰陽師としての活動を載せるのなら、文句は言われないでしょうけれど、音楽配信を載せると、『そっちじゃない』と思われそうです」
「香苗が個人のチャンネルで何を配信しても、香苗の自由だとは思うが……」
陰陽師は公務員ではなく、国家資格を持つだけの民間人だ。
確かに魔王は出現したし、協会は国から報酬を受け取らずに自発的に魔王を抑え込んでいるが、個人の活動を禁じたりはしていない。
一樹自身は、八咫烏達の日常を動画で流したり、雑談配信をしたりしている。
一樹と香苗は、同じ学校に通うクラスメイトだ。
片方が良くて、もう片方が駄目というならば、それは二重規範であろう。
だが半々妖の香苗は、他人から認められることで自己肯定をしたくて、逆に否定されたくはない。
両親が人間で、しかも賀茂家の子孫という一樹に比べて、香苗には配慮すべき背景もある。そのように考えた一樹は、状況を補正する必要性を感じた。
「よし、それなら以前に豊川稲荷で撮影した、歌唱奉納の動画を載せるか」
「あれですか」
歌唱奉納の動画は、かつて豊川稲荷で撮影したものだ。
不服従だった式神の雪菜を従えるために、使役者である香苗は、呪力を高める必要があった。
そこで香苗は豊川稲荷で、霊狐達に対して歌唱奉納による慰撫を行った。それによって香苗は、成仏する霊狐5体から霊魂の欠片を受け取って、大きく力を増したのである。
歌唱奉納は質が良かったらしく、多くの霊狐達が継承を望んで、五行5枠の競争率が高まった。
五行はバランスを保つために同程度で、その一つが水行の源九郎狐だ。したがって残る四行も、源九郎狐と同レベルの実力者というわけだ。
A級3位の豊川によれば、香苗の潜在力と可能性は、いずれ三尾にも届くという。
「芸能は鎮魂の儀で、陰陽師の活動の一種だ。それによって香苗が陰陽師としての力を高めていると示せば、『そっちじゃない』にはならない」
「なるほど、そうかもしれませんね」
「動画を撮っている時、隣で豊川様が解説して下さった。それを否定できる人間は居ないだろう」
なにしろ妖狐の話で、齢800歳の三尾である豊川は、人間社会における妖狐の第一人者だ。
霊魂の継承という現象自体、豊川が広告塔を務める豊川稲荷で発生している。
妖狐について、豊川りんと匿名とでは、どちらの話が信用されるのかは論じるまでもない。
「でもあれって、公開して良いんですか」
「豊川様の隣で、動画を撮影していることを確認された上で撮ったが。まあ、土曜にでも豊川様のところに行って、許可を貰ってこようか」
「そのほうが良いです」
神社などにお参りして力を借りることは、秘術ではなく世間の常識で、何の問題もない。
もっとも、依頼できるコネや相応の奉納品、受け入れられる妖狐の血筋、霊狐を納得させられる本人の奉納などが揃わなければ、香苗レベルのことは再現できないが。
「香苗と豊川様が一緒の写真を撮らせてもらって、それをTwitterに載せて動画掲載の許可を貰いましたと呟けば、誰も動画に文句は言えないと思う」
「確かに文句『は』、言えないと思います」
またバズるのではないかと、香苗は言外に訴えた。
↓芳井先生のコミカライズ、連載開始しました。
https://to-corona-ex.com/comics/106884972232777
1話は戦闘シーンが、すごく格好良いので、ぜひお読み下さい。
なんと無料で読めます。
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(現在2911回)
&ホームページが重かったので、軽く直しました(o_ _)o↓


























