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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第6巻 彼誰時

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145話 恐山

『日本には、地脈の力が強く流れ込む地域が存在する』


 そこは霊場と呼ばれ、神社や仏閣が建てられるか、修験者が修行する場となる。

 それらの地脈は、人のみならず、神仏や悪鬼邪神、妖怪にも力を与える。


 霊場は、人と妖怪の取り合いになる。

 妖怪に取られれば力を与えてしまうために、人は渡したくないと考える。

 だが霊場を押さえている妖怪は強くなるために、居座っている妖怪を倒すのは至難だ。

 とりわけ強いとされるのが日本三大霊山、あるいは日本三大霊場と呼ばれる地だ。


 ・青森県の恐山。

 ・滋賀県の比叡山。

 ・和歌山県の高野山。


 それらは、長らく妖怪に占拠されてきた。

 人が赴けば、決して生きては帰れない。

 その中で比叡山だけは、昨年に新進気鋭の陰陽師が、900年振りに奪い返している。

 あり得ない事態に世間は困惑し、何度も繰り返し調査がされて、先頃ようやく「どうやら奪い返したらしい」と認識されるに至った。

 あまりにも信じがたいことなので、未だに世の中は半信半疑であるが。


『ところで恐山や高野山には、一体どのような妖怪が棲んでいるのだ』


 科学技術が発達した現代。

 現地に出向かずとも、妖怪の領域を人工衛星やドローンで、覗き見られるようになった。

 だが由来が明確な比叡山の鉄鼠とは異なり、恐山や高野山の妖怪は、依然として知れない。


 恐山は、青森県北東部にある下北半島の中央部に位置する活火山だ。

 標高879メートルで、拓けた場所には玉石と砂利の大地が広がり、高温のガスが噴出する。

 火山の噴火で誕生した宇曽利湖は、酢ほどの強酸性で、湖上に炭酸の泡が浮かんでくる。

 ほとんどの生物が生息できないために、湖は青く澄んでいる。

 人が知り得る恐山の情報は、その程度だ。


 下北半島は、1415平方キロメートルの全域が、妖怪の領域になっている。

 東京都の面積が、2194平方キロメートル。

 そんな東京都全体の64%に相当する、立ち入れない土地の中心ともなれば、何が棲んでいるか計り知れない。


 万物を死へと誘う晩秋。

 恐山の裾野に広がる宇曽利湖に、今日は珍しく訪問者があった。


「荒ラ獅子魔王様よりの贈呈品でございます」


 醜悪な黒鬼が畏まりながら、宇曽利湖の畔に進み出る。

 その手から放たれたのは、1頭の亀だった。

 1000年以上を生きた亀は、巨大な霊力を蓄えて、霊亀と呼ばれる。

 古代中国神話では、平和となった太平の世に現れる四霊・麟鳳亀竜の1つが霊亀だ。

 麒麟、鳳凰、霊亀、応竜。

 その一種である霊亀を、同じ四霊の一種である応竜の天竜魔王に与える。

 それは『人の世に、平和など訪れない』という意が込められていた。

 宇曽利湖を中心に向かって泳いでいった霊亀は、やがて深みで音もなく、沈み込むように飲み込まれていった。

 それから暫く後、霊亀を届けた使いの者に対して、湖の主から意思が届いた。


『量はさておき、贈り物としては趣があって良い』


 声の主である天竜魔王が前置きしたのは、荒ラ獅子魔王の苦境についてだった。

 贈呈品に籠められた気は、荒ラ獅子魔王が煙鬼を用いて、数十万人分の魂を搾り取って溜めたものだ。

 呪力量としてはA級で、S級である天竜魔王を復活させるには不充分である。

 荒ラ獅子魔王は十全な状況にあれば、S級の呪力を溜めて送っただろう。与える気は、天竜魔王に制約をもたらしたかもしれない。それがまったく出来ていない。

 それを指摘した天竜魔王は、最後に贈り物の趣を褒めて、送り主と配達人の面目を立てた。


「ははぁ、恐れ入ります」


 貶されてから褒められても、本心からは喜べない。

 畏まる羅刹に向かって、天竜は言葉を重ねる。


『既に我が配下達は、復活しておる』

「おおっ!」


 想定以上の状況に、羅刹は驚いた。

 受肉などで復活できるのは、大魔とされるA級以上だ。

 阿弥陀如来との戦いに敗れた魔王達の陣営は、その多くが討たれ、あるいは降伏している。

 残った大魔は僅かだが、相手は神仏ではなく人間だ。

 人間にとっては、たった1体の大魔でも、最大級の戦力を投じなければならない脅威となる。


『夜叉とは知己があるな』

「はっ、古い付き合いでありますれば」


 夜叉は、羅刹や阿修羅と並ぶインドの三大鬼神だ。

 男の夜叉はヤクシャ、ヤッカと呼ばれ、女の夜叉はヤクシニーと呼ばれる。

 原始時代のインドでは自然の精霊と目されていたが、アーリア人がインドに入ってからは悪鬼とされるようになった。

 そして大乗仏教が興ってからは、護法神として引っ張られた。

 大乗仏教は、夜叉のみならず羅刹やシヴァなど、様々な存在を護法神に引っ張ったのだ。

 そして仏教は中国、韓国、日本へと伝来していった。


 夜叉には、善夜叉と悪夜叉がいるとされる。

 日本の狐に、善狐と悪狐がいるとされるようなものだ。

 人に有益であれば善狐で、有害であれば悪狐とされる。そもそも同一種で、人が行動で分類しただけだ。

 すなわち『善人と悪人』の分類と変わらない。

 実のところ護法神にするには、呪法と呪力があれば良い。

 比叡山を開放した一樹ほどの呪力があれば使役できるし、人を守らせれば護法神である。

 荒ラ獅子魔王に従っている羅刹ですら、一樹に使役されて活躍していれば、善とされただろう。

 羅刹や夜叉に対する善悪の分類など、その程度でしかない。


 夜叉や羅刹は、沢山居る。

 中国の『聊斎志異』(1766)によれば、羅刹には『羅刹海市』という国があり、夜叉には『夜叉国』があるとされる。

 すなわち、国を作れるほど居るわけだ。

 荒ラ獅子魔王と戦った毘沙門天すらも、夜叉一族である。


『夜叉を派遣しよう。貴様に付いていけるだろうからな』

「はっ、夜叉であれば問題ございませぬ」


 夜叉は羅刹と同様に、人に化けられて、空も飛べる。

 個体差はあるが、いずれの文献でも人の姿では美しく、夜叉の姿では藍色の肌、突き立った耳、鋭い牙を持つと記される。

 羅刹と同様に変化できて、空も飛べる夜叉ならば、羅刹に劣らぬ活躍が出来る。


『各地には、ほかの者達も出そう。我が復活のために、気を集めさせる』


 それは天竜魔王が、苦境の荒ラ獅子魔王を囮に使うにも等しい。


「畏まりました」


 はたして羅刹は、当然の如く頷いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか恐山に天竜魔王が居るとは。敵側もうごきが活発化してきそう。
[良い点] 比叡山の開放って結構初期にやったけど思ったより大事だったんだな。
[良い点] 夜叉が増えますか、、、 戦いが厳しくなりそうで恐ろしいですな。 一樹なら跳ね返してくれると思っていますが。
感想一覧
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