140話 捜索の仕切り直し
五鬼王の捜索は、平日になるため一度仕切り直しとなった。
現在は、10月半ば。
そして一樹達は、真面目に通学する高校1年生である。
きちんと学校に行って、授業を受けて、放課後の同好会にまで顔を出した。
顔を見せていないのは、小太郎だけだ。
「小太郎は、花咲グループの引き継ぎで、忙しそうだな」
「そうだと思います」
一樹の呟きに、沙羅が賛同した。
犬神憑きの家である花咲家は、犬神が憑いた者が当主になると決まっている。
なぜなら犬神が居ない家は、単なる富豪でしかないからだ。どれだけ財産を分け与えられても、それだけであれば他家と変わりない。
人間側が屁理屈を並べ立てようとも、犬神が選ばず、意に沿わない者と子孫に憑かなければ、その一族は犬神憑きではない。
犬神が憑いてこそ、犬神憑きの花咲家なのである。
そのため16歳の小太郎は、花咲家の当主となった。
同時に、売上高1兆円を超える花咲グループの会長にも就任した。
引き継ぎは、まだ存命である先々代の当主が中心となって行っている。だが引退して十数年も経つ爺様は、急速に進化する現代のITに着いていけない。
「花咲の隙を突く企業は、流石に無いだろうが」
花咲の当主はA級陰陽師で、常任理事会の1席を占める。
その花咲と争えば、強い霊障に対して常任理事会から協力を得られず、無防備になる。
大企業であれば、企業が抱える土地の霊障や、競合企業やトラブルとなった客からの呪いなど、霊障案件には枚挙に暇がない。
普段から露骨なことは出来ないが、花咲側もそれを脅しに使うようなことはできない。
それが現在では、さらに状況が変化した。
「そんなことをすれば、日本中が敵になりそうですね」
「まあな」
一樹の呟きに、蒼依も反応した。
先代の殉職という状況でハイエナ企業が現れた場合、小太郎には強烈な反撃手段がある。
『魔王戦で先代が殉職した隙を突かれて、実家の仕事を奪われているので、魔王戦に赴けません』
そのように宣言して、実際に赴かなければ、どうなるだろうか。
身内が攻撃を受ければ、常任理事会も自衛のために協力する。そして魔王戦に対応できるのは、真のA級である常任理事会の数人だけだ。
常任理事会が魔王戦から手を引けば、脅威がなくなった魔王は煙鬼の侵攻を拡大させ、関東、東海、北陸に次々と進出していく。
すると日本は、東西に分断されるだろう。
国家と国民は、本州を捨てるか、一丸となってハイエナ企業を叩き潰すか、二択となる。
「花咲に喧嘩を売る大企業は、今は無いだろうな」
花咲への攻撃が、何を引き起こすのか。
それすら分からない大企業は、おそらく無いだろう。
さしあたって外部に敵は居ないが、売上高1兆円のグループ企業に、16歳が会長として就任するだけでも多大な苦労を強いられる。
そのため小太郎は、同好会を当面は欠席となった。
ほかの同好会員は顔を出しているが、どこぞの子龍は、机にグッタリと伏していた。
そちらに関しては、本人の自業自得なので、一樹は見えていない振りをした。
他方、黙々と作業をしている香苗は、普段通りに見えた。
「香苗は、どんな調子だ」
「音楽系YouTuber、準備中、という感じです」
「準備中?」
「一応、今年の2位ですから、配信すると怒られそうですので」
「そうだな」
香苗の説明に対して、同好会に誘った一樹は目を逸らした。
妖狐のクォーターである香苗は、自らの存在を肯定されたくて、音楽活動で承認欲求を満たそうと考えていた。
それに対して一樹は、YouTubeでの宣伝に協力するなどと言って、同好会に勧誘している。
香苗は陰陽師国家試験で2位となり、エキシビションマッチで凪紗にも勝って、承認欲求という点では完璧に満たされている。
だが音楽活動も、やるつもりであるらしい。
「準備って、配信画面を用意するとかか」
「いえ、それは終わっていますから、歌のレパートリーを増やしています。リクエストにも対応できるように、昔の人気曲と最近の流行曲は抑えておかないと」
ここは陰陽同好会だが、すでに国家試験に3名合格という結果が出ている。
柚葉には龍神が教えたところで、香苗には二尾の狐達が宿っているので、普段から何もやっていないわけでもない。ほかの部活と異なり、来年の大会に向けて……ということも無いので、各自の学ぶペースは自由にしている。
「リクエストにも対応するのか。本格的だな」
「もちろんです」
「まあ頑張ってくれ」
香苗にエールを送った一樹は、自分の活動に戻った。
インターネットで五鬼王を検索して、逸話を調べ直す。
なにかしらヒントでもあればと思っての検索だったが、期待した結果は得られなかった。
すべての鬼が正面から待ち構えていて、正々堂々と戦ってくれるわけではない。
元寇では、名乗りを上げる鎌倉武士に対して、蒙古側は石火矢を撃ち込んだとも伝えられる。
国立国会図書館には、橘守部旧蔵の『八幡ノ蒙古記』(1289年)が収蔵されており、それには『相互に名のりあひ、高名せすんは、一命かきり勝負とおもふ処に』などと記されているそうだ。
その考えかたを未だに引き摺っているようでは、日本人は鎌倉時代から進歩していないことになる。
妖怪との戦いは、結果が全てだ。
どのような手段を用いようとも、結果として倒せば良い。
逆に倒せなければ、どれほど立派な過程でも、失敗である。
「ライオンの狩りの成功率は、2割から3割だそうですよ」
隣の席にいる蒼依が、ライオンを引き合いに慰めた。
狩りの成功率が高いチーターでも、2回中1回は狩りに失敗する。
だが一樹は、プラス思考では受け入れられなかった。
「そんな成功率の陰陽師事務所は、絶対に潰れるな」
嘆息した一樹は、陰陽師協会の成功率に改めて感心した。
「協会は、受けた仕事の前提条件が違わない限り、大体は成功させるよな」
「妖怪よりも1ランク上の陰陽師を派遣させるからでしょうか」
「それもあるだろう」
陰陽師協会は、口を酸っぱくして「1ランク下の敵と戦え」と言い続けている。
1ランク下の相手であれば、よほど相性が悪くない限り負けない。
相手に勝てるのならば、相手を追い払えて、仕事は成功だ。
「ほかには、依頼達成の条件もあるか」
「条件ですか?」
「今回は逃がさず、確実に滅ぼさないといけないからな」
「見つかりませんでしたよね」
一樹には、時間制限もある。
小太郎のA級陰陽師としての格付けが終われば、犬神を使った煙鬼の調伏になる。
空から霊毒を撒く五鬼童と、陸から駆逐していく犬神とで、荒ラ獅子魔王の支配領域は大幅に縮小される。
そうすれば次は、いよいよ御殿場市への突入だ。
一樹が召集される日も、そう遠くはない。
「何か妖怪を探しているのですか」
一樹達が同好会で話をしていたからか、事情を知らない香苗が尋ねてきた。
「ああ。妖怪を探しているんだけど、見つけられなくてな」
「そうなんですか」
血筋的には人間の一樹が見つけられないことに対して、香苗は疑問を持たなかった。
獲物を探す能力であれば、狩りをする動物のほうが高い。
狐よりも聴覚や嗅覚に優れる人間など、居るわけがない。
「豊川稲荷にお願いするとか」
香苗から真っ当な意見が出たが、一樹は首を横に振った。
「相手に見つかったら駄目という条件付きだ。遠くから、悟られないように感知する。あるいは遠くから視て、化けている相手の正体を見破るしかない」
「厄介な相手なんですね」
「そうだ。世の中には、色んな鬼が居るんだ」
そのように纏めようとした一樹に対して、香苗が思い付きを口にした。
「沙羅の妹の凪紗が、見鬼を持っていますよね」
「うん?」
「エキシビションマッチ前、霊視とは異なる見鬼の力があると、言っていました。意識を少しずらすと、視えるとか。それでは駄目なんですか?」
一樹の視線が沙羅に向き、沙羅の視線はスマホに向いた。




























