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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第5巻 昇神への道程

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139話 田中明神

「俺達が探すのは、宮城県の北部に伝わる五鬼王という妖怪だ」


 宮城県北部にある石巻市と登米市。

 両市は隣接しており、人口は2倍差も無い。

 だがインターネットで検索すると、記事の数には、10倍以上の開きがある。

 それは東日本大震災で救護活動の最前線となり、震災当時の天気予報では石巻市が毎日ピックアップされ、病院からは被災時の動画が投稿されて、体験談の本も出たからだろう。

 全国的に知られた切っ掛けは、もちろん好ましからざる出来事だが、市の知名度は高い。

 一樹も知っており、両市に由来のある妖怪を探すにあたって訪れたのは、石巻市だった。


「石巻市と登米市、どちらにも出るのですよね」

「ああ、どちらにも伝承がある」


 一樹が連れて来たのは、蒼依と沙羅だ。

 そのほかに龍神が、A級中位の娘である赤堀香林を派遣した。

 立派な社を建立したお礼として派遣された香林は、相手の妖怪が強かった際の保険だ。なお香林と交代で残った柚葉の末路に関しては、一樹も知らない。

 4人の中で龍神から説明を聞いていないのは沙羅だけであり、一樹は沙羅に説明した。


「今回探す五鬼王は、蒼依の系譜であるイザナミと関わりがある」


 五鬼王は、宮城県北部に伝わる妖怪だ。

 石巻市雄勝町の雄勝法印神楽。

 石巻市河北町釜谷、長面、尾崎の法印神楽。

 登米市豊里町の上町法印神楽の演目『笹結』などに登場している。

 今回の一樹は、陰陽師協会の宮城県支部に情報をもらった。


 かつて神話の時代イザナギとイザナミは、天と地を結ぶ『天浮橋』から、何も無い海原に向かって、天沼矛を差し入れた。

 そして天沼矛を引き上げると、滴り落ちた潮が固まって、島となった。

 それが古事記(712年)に記される『淤能碁呂島おのごろじま』、あるいは日本書紀(720年)に記される『磤馭慮島おのころじま』である。

 オノゴロ島に降り立った二柱は、次に大八島を生み出した。


 ・淡道之穂之狭別島(淡路島)

 ・伊予之二名島(四国)

 ・隠伎之三子島(隠岐島)

 ・筑紫島(九州)

 ・伊伎島(壱岐島)

 ・津島(対馬)

 ・佐度島(佐渡島)

 ・大倭豊秋津島(本州)


 すると、何処からか鬼が流れ着いた。

 その鬼は、身体が1つであるにも関わらず、頭は5つもあった。

 両目は、日月(太陽と月)のように輝いていた。

 吐く息は、鍛冶で金属を製錬する際に空気を送り込む、ふいごのように荒々しい。

 そして当然の如く、人々を喰らった。


 そこで武勇に優れる田中明神に、討伐の白羽の矢が立った。


「田中明神というのは、どのような神なのですか」


 神話に詳しい沙羅であるが、田中明神の名前は知らなかった。


「田中明神は、京都府の伏見稲荷大社に祀られる5祭神の1柱だ」


 田中明神の名は、『古今著聞集』(1254年成立)に載る。

 和泉式部が稲荷詣を行った際、田中明神の社辺りで雨に降られたそうだ。

 伏見稲荷の立て札にも、古今著聞集や『十訓抄』(1252年成立)に、田中明神の名があると記される。

 また従一位、右大臣であった藤原宗忠は、1109年に田中明神社を参詣したと、1087年から1138年にかけての藤原宗忠の日記である『中右記』に記される。中右記は、宮内庁が鎌倉時代の写本を所蔵している。

 それでは田中明神とは、一体どのような神であったのか。

 伏見稲荷に5祭神の1柱として祀られており、藤原北家からも参詣されるのだから、それなりの神ではあるだろう。

 ただし、何を為したとは伝えられていない。


「数多いる神の1柱であり、忙しいイザナギとイザナミに代わって、鬼退治に赴いた。そこまでは事実だから、そう認識すれば良いと思う。剣は、使えたそうだ」

「分かりました」


 大雑把な説明だが、沙羅は一先ず納得した。

 人間社会に沢山の人間が居て、一人一人の記録が事細かに残されていないようなものだろうか。人間社会における剣道2段が、「畑に鹿が出たから追い払ってきて」と言われた程度かもしれない。


 姫に化身した五鬼王と、田中明神は、剣を交えて戦いを繰り広げた。

 そして田中明神が勝利して、五鬼王を退治したそうである。

 ただし退治とは、懲らしめたり、追い払ったりするだけでも、要件を満たす。


「五鬼王は、殺したであるとか、滅ぼしたであるとは、伝えられていない。毎年、神楽が奉納されているのは、五鬼王を追い払う儀式だろう」


 もっと頑張れ田中……と言うと、全国の田中さんに怒られかねない。

 いずれにせよイザナギとイザナミが対応できず、代わりに出向いた田中明神が頑張って追い払ったものの、未だに滅ぼせていない鬼が五鬼王である。


「その五鬼王を蒼依が倒せば、イザナミが果たせなかった鬼退治を果たしたことになって、イザナミに連なる蒼依の神格が上がるはずだ」


 蒼依は、未だ零落していないイザナミの分体だ。

 本体が果たせなかったことを成せば、事象の一つでは本体を上回り、神格が上がる。

 そして実際のところ、忙しかっただけのイザナミとイザナギの代わりに、おそらく暇だった田中明神が相手をしに行った鬼程度であれば、大したことではない。

 龍神の提案は、目的を果たすには最適解だった。


「それで神格が上がるのでしょうか」


 沙羅が疑問視すると、同行している香林が太鼓判を押した。


「それで上がりますよ。何を為したというのは、神格を上げる基本です。田中明神が五鬼王を退治したという逸話は、田中明神の格を上げているでしょう。同じ事です」

「そうなのですね」


 沙羅と一樹は、香林の説明に納得した。

 今一つ、よく分からない田中明神であるが、「イザナギとイザナミに代わって五鬼王を退治した」という逸話があるだけで、武勇に優れる神として、納得は出来る。

 実態はともかくとして、説明自体は事実だ。

 逆に、田中明神から五鬼王を退治した逸話を奪えば、何の神なのかサッパリ分からなくなる。

 伏見稲荷に祀られており、狐に縁のある藤原家も詣でたことから、稲荷神の関係者なのかと思う程度だ。

 関係者であるだけでは、付喪神と同程度の存在にしか、思えなかったかもしれない。


 ――何を為したという逸話と、神格は、確かに切り離せないな。


 田中明神が退治したが、滅ぼしたとは伝えられていない五鬼王。

 その猛威を抑えるべく、毎年続けられてきた神楽だが、震災の年には一旦途切れた。

 もちろん不可抗力だが、五鬼王の悪行を抑える儀式には、穴が空いている。

 だから見つけられるはずだと考えた一樹は、石巻市の周辺に意識を巡らせた。


「石巻市は広いが、伝承は石巻市と登米市に伝わっているから、その辺りのはずだ」


 まったく無関係な土地で、わざわざ神楽が舞われることは、あまり無い。

 昔の人々には、それほど余裕は無かったはずだ。

 そのように考えて、発生地域に見当を付けて調べた一樹だったが、すぐには五鬼王らしき妖気を見つけられなかった。


「流石に……すぐには見つからないか」


 五鬼王は、姫に化身したと伝えられる。

 神を騙すために、人に化けたのだから、妖力も隠形できるだろう。

 一樹の知覚は鋭いが、神を相手に隠蔽できる技能を身に付けた相手ともなれば、容易には見つけられない。


「それでは、お手伝いしますね」


 龍神の筆頭巫女である香林は、一樹と同様に石巻周辺へと意識を巡らせた。

 A級の巫女、それも人ではなくて龍。

 龍神から優秀だと太鼓判を押された香林は、目を瞑りながら呟く。


「居ることは間違いありませんが、漠然としています」

「近付けば、分かりますか」

「はい。ですが虱潰しに探し回ると、逃げられてしまうかもしれません」


 相手に逃げられては、意味がない。

 香林の指摘に、確実性を期したい一樹は、言葉を詰まらせた。


石巻市河北町釜谷、長面、尾崎の法印神楽

http://www.orion311.com/doga-kagura.htm


本作(書籍版含む)の妖怪は、

すべて文献に載っており、伝承も準拠します(*`・ω・)ゞ

鳴弦や、○○ノ祓も、実在します。


――――――――――――――――――


ですが、どれだけ作り込んでも、続刊は売れ行き次第

1巻、ぜひお買い上げ下さい!(・∀・;)

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― 新着の感想 ―
[一言] 田中明神、強いが暇な神かw
[一言] 田中明神、子孫に畜産農家がいるのかw(81話)
[一言] 名前の響きのせいでじょうじじょうじ言ってる奴が頭に浮かんでしまうw
感想一覧
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