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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第5巻 昇神への道程

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133話 男子の仕事

「提供食品は、男子が保健所に許可を取って、用意して」


 リーダーシップを発揮する絵理の要求に、委員長の北村が応じて、役割分担が定まった。


「男子で集まるか。女子は、綾村がまとめてくれ。出す食品は、稼げるやつにしようぜ」

「作るのが楽で、早く用意できるのにしなさいよ。それと非常識な価格は、駄目だからね!」

「おう。男子は、教室の前のほうに集まってくれ」


 北村は両手を振り上げて、大雑把に手招きした。

 それに応じて男子がクラスの前のほうに集まり、女子がクラスの後ろのほうに移動する。一樹も移動して、北村の周囲に群れる集団に加わった。

 輪の中央にある机の上には、模擬店で認められる食品の一覧が置かれる。


「この一覧から、駄目そうなやつを削っていこうぜ」

「駄目そうなのって、何だ?」

「手間暇の掛かるやつ」


 宣言した北村は、手間暇が掛かりそうな食品を探し始めた。

 みやこ型巡視船の厨房は、花咲高校にある食堂の厨房を軽く上回る大きさだ。模擬店で出す食品程度は全て作れるし、料理スキルの高い主計科の職員も揃っている。

 だが立派な環境が整っていても、実際に作るのは、1年3組の男子生徒だ。

 男子高校生の料理スキルは、如何ほどか。


 ――インスタント食品とレトルト以外を作れたら、トップ層だな。


 1人くらいは料理の上級者が居るかもしれないが、1人に全てを任せるわけにもいかない。

 平均で考えざるを得ず、複雑なことは不可能だ。


「ゆで物、蒸し物は、駄目だな」


 じゃがバターは蒸す時間が数十分も掛かるので、模擬店で出すには向いていない。

 特に反対意見も出ず、じゃがバター、蒸しぎょうざ、蒸ししゅうまいなどに二重線が引かれて、次々と消されていった。


「汁物、煮物も駄目だろう。味付けとか出来ないわ」


 開催時期が10月なので、あまり売れ行きも良くないと考えられる。

 豚汁、おでん、煮込み、けんちん汁、おでんなどが、バッサリと切り捨てられていく。


「清涼飲料水は良いよな。積極的に行こうぜ」


 ジュースは、市販品を小分けにすれば良いとされている。

 スーパーなどで買った紙パックや、ペットボトルの飲料水を、容器に入れて提供するだけだ。

 これは誰でも出来るし、利益率も高い。食べ物には、飲み物も必要なので、導入すべきだろう。

 北村は清涼飲料水に二重丸を付けた。


「価格は後で決めるとして、食べ物だよな。ご飯類は、カレーとか牛丼のレトルト食品をレンジで温めれば良いのか」


 簡単な内容に、北村が迷いを見せた。

 そして一樹のほうを見る。


「巡視船って、電子レンジはあるのか」

「何台もあるぞ。厨房は教室よりも広いし、電力だって問題ない」

「それならやるか。仕入れの数は抑えて、売り切れたら終わりにしよう」


 北村が周囲を見渡すと、男子達は頷いて応じた。

 パックのご飯とレトルトのカレーを使い捨ての容器に乗せて、レンジで温めるくらいは、流石に男子高校生も出来る。

 まとめ買いすれば、どちらも安く買える。

 カレーであれば1食200円の原価に対して、500円で売れば、300円も儲かる。容器代なども考えなければならないが、それらは誤差だ。


「レトルト食品は、全て認められるのか。すげぇな!」


 儲けられる可能性を見出した北村が、瞳をギラギラと輝かせた。

 レトルト食品は、1950年代にアメリカ軍が缶詰に代わる携帯食として、開発したのがはじまりだ。

 缶詰には重量や、空き缶の処理という問題があった。かくして開発されたレトルト食品は、アポロ計画で宇宙食に採用されたことから世界の注目を浴びた。


 レトルト食品は、調理後に高圧加熱殺菌を施し、袋詰めにした保存食品だ。

 インスタント食品は、乾燥または冷凍されており、お湯を注いで調理する食品だ。

 レトルトパウチされた食品はレトルト食品で、袋入りラーメンなどはインスタント食品だ。レトルト食品は幅広く、カレーのみならず、一度は却下されたおでんも、レトルト食品で提供できる。

 レトルト食品が認められるのであれば、提供できる食品の種類は大きく広がる。


「ぜんざい、プリンも、レトルト食品で出せるみたいだぞ」

「マジか。限定食で出そうぜ!」


 ノリの良い男子達が、水を得た魚のようにレトルト食品で提供できる食品を探し始めた。


「中川達は、そのままレトルト食品を探してくれ。原価が安い、早い、旨いで頼む」

「任せろ。高く売って、儲けるぞ」


 利益に魅入られた男達が、各々のスマホでレトルト食品を探し始めた。

 検索に人数を割り振った北村は、食品リストの添削を再開する。


「レトルトが使えるなら、お好み焼き類は、削ろうぜ。時間が掛かるからな」


 北村が二重線を引いたのは、たこ焼き、お好み焼、タコス、ピザなどだ。

 それらには、保健所からの注意事項が書かれている。


『小麦粉は、出店場所で水に溶き、事前に仕込んだ具と混ぜ合わせて焼いてください』

『ピザ類は、市販のピザ生地に、事前に細切した具をのせて、出店場所で焼いてください』


 レンジで温めるレトルト食品に比べて、明らかに手間暇が掛かる。

 それらの注意事項を見た北村は、費やす時間を考えて切り捨てたのだ。


 ――まあ、良いけどな。


 売り上げは経費を精算した後、クラスメイトで頭割りされる。

 一樹も金が無ければ、簡易で利益率の高い食品を選んだだろう。

 北村は意気揚々と、添削を再開する。


「揚げ物、ソーセージ類、バーガーは、止めておくか?」


 提供までに調理の一手間が必要な食品類を列挙した北村は、周囲の男子を見渡した。

 揚げ物は、串かつ、フライドチキン、フライドポテト、からあげ等だ。


『事前に調理場で下処理した食材を、調整した溶き粉、パン粉につけて、その場で油により揚げること』


 そのように保健所が記載しており、そこまで高度ではないが、レトルトよりは手間が掛かる。

 ソーセージ類は、市販のソーセージを焼くか揚げる。

 ハンバーガーは、市販品のパンを使う。

 レトルト食品をレンジで温めることに比べると、いずれも遥かに手間だ。

 実際には大した手間ではないかも知れないが、ここで誰かが「大した手間ではないだろう」と言えば、「それならお前が作れよ」と言い返される。

 そのため反対者は出ずに、3種類の食品は次々と削られていった。

 だが、さすがに削りすぎたらしい。

 電子レンジで乗り切ろうとした男子の様子を見かねたのか、担任から掣肘が入った。


「お前ら、文化祭だぞ。思い出に、何か1つくらい、自分達で作ってみろ」


 担任の立場からすれば、至極もっともな意見であった。


「えー、効率を追求するのは、間違っていないんじゃないっすか?」

「挑戦しろ、挑戦。焼きめん類に、焼きそばとかが、あるだろう」


 言い訳をする北村の真横に来た担任は、食品類の一覧表を指差しながら、消されていない食品を勧めた。


「市販のめんとキャベツ、それを鉄板で焼けば良いんだ。賀茂、巡視船の厨房には、ガスコンロとかIHとか、あるんだろう」

「業務用で、良いのが揃っていますよ」


 一樹が太鼓判を押すと、担任は頷いた。


「よし、これにしろ!」

「うぇー」


 担任はペンを手に取ると、焼きそばの部分に二重丸を付けた。

 北村が嫌そうな声を上げたが、担任はどこ吹く風で押し切った。


「割り箸とか容器の調達も、忘れるなよ。保健所への届け出は、俺と北村で作るからな。それと宣伝は、どうするつもりだ」

「それは賀茂のYouTubeとかTwitterで良いんじゃね」


 北村は安直に言ったが、一樹のSNSアカウントは、登録者が異常な数に膨れ上がっている。

 それらのアカウントで宣伝をしようものなら、「魔王の侵攻を防いだ御礼に行きます!」や「行けないけれどリツイートで支援します!」というコメントが広がるだろう。

 つい先頃、強行偵察隊の隊長を務めたA級陰陽師の一樹が、自らのSNSでお願いするのだ。

 一般人のうち「故郷を奪った魔王憎し」や、「自分も何かしたい」と思う者達が、A級陰陽師に協力するという方向性を示されて協力するのは、容易に想像できる。

 ほかには「協力しに来ました」と言って、一樹に握手を求めて写真を撮り、SNSに掲載するなどの行為もあるだろう。

 一樹達が「来て下さい」とお願いすると、そのような問題も生じる。


「俺は宣伝できないし、陰陽同好会の所属者も、喫茶店の宣伝には名前を使えない」

「どうしてだよ」

「魔王侵攻を阻止してくれた御礼で数万人の客が来たら、30人のクラスメイトで捌けるか」

「……それは駄目だな」


 納得した北村は、周囲の男子を見渡した。


「仕方が無いから、俺等のTwitterで宣伝しようぜ。100人くらいは来るだろ」


 宣伝は、北村達が行う形で決着した。

 その効果は大したことがない……と、一樹は認識していた。だが一樹達のクラスメイトであり、アカウントの内容は監視されていた。

 北村達がTwitterで呟いた文化祭の内容は、政府も把握していた。

 帰宅後、一樹がメールで『文化祭における式神の使用申請』を送ったところ、連絡を待ち構えていた陰陽長官から、すぐに着信が入ったのであった。


5月10日(水)が、1巻の発売日です!


特典SSは、1本がWeb版の2~3話分です。

本編も大幅に直して、何万字か加筆もしており、

Web版に無いシーンの挿絵が1……2……3……4……


さらに全体で、追加のスペシャル特典があります!

――――――――――――――――――


938:編集者

書籍版に十数ページほど、漫画も載せておきました!


939:原作者

( ゜д゜) ……

(つд⊂)ゴシゴシ

(:゜д゜)……


――――――――――――――――――

お手元に届くのを楽しみにお待ち下さい!

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本作が、TOブックス様より刊行されました。
【転生陰陽師・賀茂一樹】
▼書籍 第7巻2025年12月15日(月)発売▼
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1巻情報 2巻情報 3巻情報 4巻情報 5巻情報 6巻情報

前作も、よろしくお願いします!
1巻 書影2巻 書影3巻 書影4巻 書影
― 新着の感想 ―
[一言] 一樹達のクラスメイトであり、アカウントの内容は監視されていた。 まぁ、それだけ注目度が高いってこったな。
[一言] >式神の使用申請 国家の財産たる巡視船式神の私的利用は却下する。by陰陽長官 とかならなければいいが。
[一言] 効率を追求すると巡視船内にポップする霊力の上がるチーズケーキとか食堂の品を右から左に出せば良いんじゃなかろうかになってしまいますからね(客の満足度はそっちのが高そうかもだけども)。
感想一覧
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