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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第5巻 昇神への道程

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132話 衣装調達

「それじゃあ、衣装だね」


 花咲高校の文化祭における1年3組の出し物は、船上メイド喫茶に決まった。

 絵理は女子全員の代表と言うわけではないが、話し合いにおける唯一の反対者だった。

 その絵理が「公平性は担保された」と納得した以上、廃案にするには別の点で、新たに反対意見を述べなければならない。


 ――たぶん反対意見は、出ないだろうな。


 場の流れが、すでにメイド喫茶に傾いている。

 その理由の最たるは、他校まで見学に行って、出店する手順や工夫などの詳細を持ち帰ったのが、一樹達だけだったという点が挙げられる。

 花咲市と周辺の市町村では、他校の普通科が文化祭を行っていなかった。

 そのため県外までの交通費を払って、他校の文化祭へ見学に行かなければならなかったが、それを行ったのが一樹達だけだった。

 すると当然ながら、一樹達が持ち帰った他校の文化祭が、最大の検討材料になる。

 その是非を話し合う流れで、絵理が男女間の不公平を指摘して、解決案が提示された。


 メイド服を着るのが嫌であれば、調理や盛り付けなど、ほかの仕事もある。

 あるいは「部活の出し物に参加する」と、名目を立てて不参加も出来る。

 全員の意見が一致しなければ、多数決となるだろうが、そもそも一樹達の対案を持ち込まれていないので、大勢は決した雰囲気だった。


「衣装だけど、時間がないから手作りなんて無理だし、購入するしかないよね」

「それで良いんじゃないか」


 絵理が司会進行の北村に念を押すと、北村は力強く頷いた。


「女子だけが着る衣装は、女子だけで決めて良いよね」

「おう、良いぞ」

「それで予算って、いくらなのかな?」

「むっ……どうなんだ」


 首振り人形のように応じていた北村は、情報を持ち帰った一樹に尋ねた。

 それに対して一樹は、沙羅に視線を投げて、回答をパスする。

 内容が頭に入っていた沙羅は、メモも見ずにスラスラと答えた。


「1着5000円もあれば、選べるみたいです。クラス全体で選んで、各自で購入して、喫茶店の売り上げから補助したそうです」

「意外にお手頃だね」

「お店で普段使いする制服ではなくて、学園祭だけの消耗品ですから」


 絵理が高額を予想していたのは、卿華女学院がお嬢様学校だからだろう。

 一樹の妹も通っているが、賀茂家の財政破綻は、一樹の父親が悪いだけだ。賀茂家と伏原家の家柄は、枝分かれした末端であろうとも入学できるレベルで良い。

 卿華女学院であれば、文化祭で1着5万円のメイド服を購入しても、おかしくはない。

 だが価格が高いと売れず、商売として成り立たないので、そもそも流通になかったらしい。


「それで、どれくらい各自の持ち出しになったの」

「喫茶店が儲からなくて、4000円くらい持ち出しになったそうですよ」

「それは高いね」


 絵理をはじめとした女子の顔色が、4000円という金額に曇った。

 高校1年生にとって、4000円は高額だ。

 学校の行事であれば、親が出すかもしれないが、しわ寄せがあるかもしれない。


「困ったね。どうしようか」


 絵理は、クラスの女子に向かって語り掛けた。

 単純な解決策は、提案を持ち込んだ張本人であり、おかしな金額も稼いでいる一樹に集ることだ。

 だが一樹は、女子がメイド喫茶の給仕役をする代わりに、幽霊巡視船で会場を提供する公平負担を請け負った。

 幽霊巡視船の使用は、一樹が自分で言い出したことだ。

 そして式神の使用には、金銭も発生していない。

 そのため絵理は応じたが、衣装代まで一樹に求めるのは、絵理自身が主張した公平負担の観点からは間違っている。

 世の中には、公平という言葉を方便に使って、自分が得する場面では沈黙する人間も居る。

 だが絵理は、主義主張と行動が、一貫していた。


 ――律儀なことで。


 絵理の態度を見た一樹は、絵理に対する評価を上げた。

 だが実際に、高いものは高い。

 考えを求められた女子からは、負担が重いという意見も出た。

 それは負担しなくて済むようにしろということであり、具体的な方法を自ら提案はしないが、安易な結論を求める空気も流れていた。


「あのー、文化祭が終わった卿華女学院から借りるのはどうですか」


 クラスに流れていた空気を吹き飛ばすように、空気を読まない柚葉が割って入った。


「どういうことかな?」


 絵理に問われた柚葉は、持論を述べる。


「沙羅さんは、双子の妹さんに借りられますよね。あっちが女子校で30人いるなら、半分の人が貸してくれるだけでも、こっちの15人分を貸せると思いますよ」

「ふむふむ」


 柚葉の案は、意外に良案に思われた。

 一樹が属する花咲高校の1年3組は30名で、男女が半々だ。

 卿華女学院の1年2組が何人であるのかは知る由もないが、その全員が女子である。15人以下の少人数クラスでない限り、一樹達のクラスの女子よりも人数が多い。

 そして卿華女学院の文化祭は、つい先頃行ったばかりだ。全員が衣装を捨てているとも思えないので、貸してくれるならば数が揃う。

 衣装が足りなくても、貸してくれた衣装の人数分だけを給仕にすれば済む話だ。

 まとめて送れば、送料も安い。

 衣装代の問題は、柚葉の案で解決する。


「その代わりに、衣装を貸してくれた人を文化祭に招待して、うちの喫茶店は無料にするとか」

「招待する交通費は、誰が出すの?」

「……あっ」


 柚葉の思い付きは、途中までは良案に思われたが、欠点もあった。

 そんな柚葉の様子に、自分を出し抜くなど不可能だと、一樹は安堵した。


 ――話を持ち掛けたら、実現するだろうけどな。


 一樹のクラスには小太郎がいて、紫苑のクラスには三戸愛奈がいる。

 そして両者は、カップルになった。


 三戸愛奈は、日本で三指に入る旧財閥を経営する家の娘だ。

 並大抵の家柄では、三戸家が付き合いを認めない。

 だが小太郎は、売上高1兆円を超える花咲グループの会長になると確定しており、A級陰陽師に就任して公式発表されるのを待つ身となっている。

 小太郎よりも良い相手など、まず居ない。

 三戸家が「娘婿がA級陰陽師で、今は魔王対策を頑張っています」と言えば、中立的な者は応援に転じるし、批判的な者も三戸家にケチを付けられなくなる。


 魔王が顕現して前当主が殺されて、危険だと思う者もいるかもしれない。

 だがあれは、A級の蜃を弱らせてトドメを刺すだけと思っていた場面で、S級の魔王とA級の羅刹に不意打ちされたからだ。

 今であれば、D級の小太郎は安全な後方に置いて、遠方から犬神を出させる。

 犬神は集団行動や、敵味方の判断が出来る。

 小太郎が現場で細かく指示しなくても、主人の仲間だと認識させた一樹達と連携して、羅刹と戦ってくれるだろう。


 ――三戸家なら、小太郎は『買い』だよな。


 A級陰陽師がもたらす宣伝効果は、現代では極めて大きい。

 家の利益に鑑みた三戸家は、小太郎と愛奈の付き合いを支援するだろう。


『衣装を貸してくれれば、小太郎のクラスで出す喫茶店に招待する』


 そんなイベントがあれば、支援しないはずがない。

 運転手付きのバスを手配して、クラス全員を送迎するくらい、三戸家が得られる利益と比べれば遥かに安いのだ。

 あとは、紫苑のクラスメイト達が応じるかだが、声を掛けるのは紫苑の双子の沙羅だ。

 しかも沙羅は、事前に一樹達と下見に来ており、出し物を模倣するにあたっての協力依頼を行っている。信用度に関しては、これ以上の相手は居ないだろう。

 水仙であれば「女子校の生徒が、共学校から文化祭に誘われて、断るなんて無いんじゃない」と答えるだろう。


「声を掛けたら、応じると思うぞ。船内の公室を貸し切りにして、お礼用に使えば良いだろう」


 結論に至った思考過程を省いて、一樹は結論だけを告げた。


「それじゃあ、頼んでみようかな。沙羅にお願いしても、大丈夫?」

「ええ、構いませんよ」


 かくして一樹達のクラスは、他校からメイド服を借りることになった。

 なお、話し合いを見守る担任の顔が引き攣っていた件に関しては、一樹はそっと目を逸らした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味立会人の一樹も三戸家から見ればある意味キューピットと言えなくもないしそっちともツテができるんだから乗らない理由がないしね
[一言] 担任…。お嬢様学校から招待して問題起こったらって戦々恐々としてそうだな。
[一言] 娘の恋愛も政略も両方満たせる結婚ならそりゃ三戸家も文句はないよね。 娘を道具としてしか見てない人非人な両親ではないっぽいし諸手を挙げて歓迎でしょうね。 そしてあの行動力なら持ち掛ければ冗談抜…
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