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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第5巻 昇神への道程

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131話 文化祭の出し物決め

 世の中には、多数決という決め方がある。

 その本質は、多数による力での押し付けだ。


「多数決、反対―っ!」


 文化祭で1年3組が行う出し物について話し合う場で、多数決に対する反対意見が出た。

 反対した綾村絵理は、多数決を真っ向から否定する。


「多数決って、賛成者が多ければ、正しくなくても通るよね。例えば……」


 例えば、老人の人口が多い国家があったとする。

 その国で『医療費の自己負担額は、老人が2割、若者が3割にしよう』という案が出たとする。

 多数決であれば、数が多い老人の負担が少なくて、数が少ない若者の負担が大きい案が通る。

 だが若者の負担ばかり重くすれば、若者に生活の余裕がなくなり、お金が掛かる活動が出来なくなる。それが少子化の要因となって、国家は衰退していく。


 90代の寝たきり老人に医療費1000万円を注ぎ込んでも、将来性がない。

 20代の若者に「結婚して子供が生まれたら1000万円あげます」と言えば、確実に子供が増える。生まれた子供は、将来の納税者となり、国力を支える力となるだろう。

 だが多数決では、20代の若者から金を巻き上げて、90代の老人に注ぎ込む案が通る。


 これに対する反対は無意味だ。

 人数では老人が多く、多数決は法律で決まっており、その法律を変えるのも多数決である。

 だがクラスの文化祭であれば、法律による強要は決まっていない。


「……というわけで、多数決には反対。メイド喫茶って、女子がメイドになるだけでしょう。だったら男子は、何をするのかなっ。負担は、公平にしろーっ!」

「なるほど」


 絵理の主張に対して、卿華女学院から案を持ち帰った一樹は、理解を示した。

 女学院で公平だったメイド喫茶は、男女共学の花咲高校では不公平になる。

 正当な主張を受けて、司会進行を行うクラス委員長の北村択海も、調整を図ろうとした。


「男子も、同等の負担があれば良いか」

「それなら、別に良いけど」


 同等の負担という部分で、絵理は応じる構えを見せた。

 絵理が問題視するのは『男女間の不公平』で、それが解消すれば不平等は解決する。

 北村は司会の立場から、公平負担について提案した。


「だったら男子も、メイドの格好をすれば解決だな!」

「「「はあっ!?」」」


 北村の脳天気な提案に対して、ほかの男子からは即座に、否定の声が飛び交った。


「アホか、ヤメロ」

「うちの高校で、新種の妖怪を生み出すな!」


 クラス委員長の北村は、陽気な阿呆だと、一樹は認識している。

 学業成績が悪いわけではない。

 だが判断基準が、一般常識から外れている。

 クラスの男子全員にメイド服を着させて、メイド喫茶の店員をさせる決定くらいは、ノリと勢いで行える男だ。


 ――どうしてコイツが、委員長になった。


 それはクラスで行った信任投票の結果である。

 もっとも役員を決めた高校1年生の4月は、クラスメイト全体が猫を被っていた時期だ。

 それで人柄など分かるはずもなく、立候補者がいれば『やる気がある』と評価されて支持された。

 本日、一樹が花咲高校で学んだ最大の内容は、立候補者の主張や実績を見ることが大切だと言う点であった。


「おい北村、お前も着たくないだろう!」

「別に俺は構わないぞ」

「ふざけるな、俺等は着たくないし、見たくもない」


 男子達が必死の抵抗を試みて、北村の暴走を阻止しようと図る。

 袖口から溢れ出す筋肉や、スカートの下から伸びる足のすね毛は、一樹も見たくない。


 ――文化祭では、協会から急用を用意して貰おうかな。


 一樹が現実逃避していたところ、最初に公平負担を求めた絵理が、スマホを掲げて訴えた。


「ねえねえ、男子が文化祭でメイド喫茶をやっている動画を見つけたよ」

「……あるのかよ」


 一樹が担任のほうを振り向くと、スマホの使用を阻止する素振りは、見せていなかった。

 生徒が文化祭の出し物を調べることは、学校にとっては教育の一環だ。調べる手段として、インターネットを用いることも、現代社会では一般的である。

 認められていると判断した一樹は、自身もスマホを取り出して、検索を行った。

 それから数十秒後、クラスの方々からうめき声が溢れる。


「うわぁ」

「ヒドい」


 それは男子高校生が、野太い声でメイド喫茶を紹介する動画だった。

 登場したホワイトボードには、男子高校生が可愛いポーズをした写真が、明るい色紙の枠を付けられて、華やかに飾られていた。

 写真には赤とピンクのハートマークも付けられており、その時点で一樹は目眩を覚える。


 画面が切り替わると、風船が吊り下げられて、可愛く演出された教室が映った。

 そして動画には、恐ろしい妖怪が登場する。

 それは頭にウサ耳を付けて、チェックのスカートを履いた、筋肉の固そうな妖怪であった。

 それらの妖怪は、猫なで声で「お帰りなさいませ、ご主人様」と発声した。


「ぎゃああああっ」

「ぐえぇぇぇぇ」


 1年3組の方々から、悲鳴が上がった。


 ――そのスカートは、誰から借りた。


 スカートを履いた男子もおかしいが、貸した女子もおかしい。

 女子が貸したことは、動画内の端に映る女子が同じスカートを履いていることで判別できる。

 女子は笑っているが、笑いの種類は失笑であった。

 1分にも満たない時間で、一樹の気力は尽きかけていた。


「おい、北村、やめろ」


 死に体の一樹は、気力を振り絞って、愚か者の奇行を制止した。


「意外にウケると思うぞ」

「笑いを取るのと、笑いものになるのは、別だ」

「だけど綾村の公平負担も、分かるんだよなぁ」


 北村の言い分を認めた一樹は、メイド喫茶の報告を持ち込んだ当事者として、代案を示す義務感に駆られた。

 一樹は脱力しながらも、納得させなければならない相手に念を押した。


「あー、綾村さんや」

「なんだい、賀茂さんや」

「文化祭で出し物をするにあたり、男子が公平以上の貢献をすれば、良いんだよな」

「うん、それなら文句ないよ」


 明言を得た事による安堵で、一樹は溜息を吐いた。

 文化祭のメイド喫茶で、メイド以上に負担をすることは、通常であれば不可能だ。

 何しろ市販されている食材の調達は簡単で、調理もほとんど無い。


 ――だけど、出来るんだよな。


 花咲学園は、敷地から徒歩1分で海という立地だ。

 周囲には港、船着き場、マリーナがあって、多数の船舶も停泊している。

 そして一樹は、村上海賊船団の調伏と引き替えに、幽霊巡視船を自由に使える許可を得ている。

 幽霊巡視船を手配することは、メイド服を着るどころではない負担であろう。


 式神使いが式神を使えば、術の精度が上がる。

 一樹が幽霊巡視船を使うことは、使役の精度を上げることに繋がる。

 幽霊巡視船は、蜃や魔王に砲撃するために使用しており、有用だと示されている。一樹が幽霊巡視船を上手く使えるようになれば、より良い結果が期待できる。

 そのような大義名分を掲げて申請すれば、魔王対策を陰陽師に依存している国は却下できない。


「メイド喫茶の場所を教室ではなく、高校の傍に停泊させた幽霊巡視船のヘリ甲板や公室にする」


 幽霊巡視船ならば、厨房から食材を運び込める。

 クラスメイト用の更衣室、休憩室、トイレなどもある。

 そしてクルーザーに乗ってみたい女子高生にとっては、絶好の機会となる。

 教室から離れて利便性は落ちるが、幽霊巡視船に乗ってみたい人間は多いはずなので、客には困らないだろう。

 入れる場所を公室などに限定して、駄目な場所は幽霊船と幽霊船員に封鎖させれば、おそらく許可は出る。


「144億円の船上メイド喫茶、それでどうだ」


 一樹が大盤振る舞いした結果、絵理は納得を示した。


「おっけー!」


 かくして1年3組の出し物は、船上メイド喫茶となった。

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― 新着の感想 ―
[一言] メイドやりたくないけど見たいから144億円出すの力技すぎる
[気になる点] いやいやそれは男子の負担ではなく一樹ひとりの負担だよねって。 しかも負担が公平どころか天秤が一樹一人に振り切っててほかの男子にも女子にも相応の負担になってない。 それなら執事・メイド喫…
[一言] 幽霊巡視船での船上メイド喫茶か。凄い力業にでましたなw
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