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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第5巻 昇神への道程

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130話 氏神の継承

『奉鎮・鉄矛』


 符呪から生み出された霊物の鉄矛が、小太郎の手元で鮮やかに回転する。

 相対する青鬼は、咽を刺されながらも、逃げる素振りはまったく見せない。

 憤怒の表情を浮かべ、小太郎を威圧して脅し掛けた。その右手は刺叉を握り締めており、一瞬の隙を窺っている。


 対する小太郎は、ひたすら舞い続けた。

 身体の動きを止めれば、そこから動き出すまでに、一瞬の間が生じる。青鬼の攻撃を迎え撃つか、避けるかの二択でしか動けなくなる。

 だから小太郎は、流れるように矛を操って、一瞬の隙も生まないように舞い続けた。

 舞い続けていれば、舞いに乗せて、複雑な対抗技を繰り出せる。

 呪力を用いる小太郎の舞いは、咽を刺されて体力を失っていく青鬼よりも、長く保つ。

 そして時間経過による不利を察した青鬼は、ついに動き出した。


「ウォォォオッ」

「はあっ!」


 青鬼が刺叉を構えて、小太郎に突撃した。

 対する小太郎は、青鬼を矛で薙ぎ払いながら、同時に後方へと跳んだ。

 そして後ろに跳んだ直後、その場でステップを踏み、場に身体を保たせた。


 直後、鉄矛は複雑な軌道を描いた。

 小太郎の左手が鉄矛の柄を持ち、矛を頭上に掲げながら、矛先を青鬼に向けた。

 右手が石突を掴み、それを押し込んで筒から撃ち出す砲弾のように、鉄矛を青鬼に突き出した。

 瞬時に突き出された矛先が、青鬼の顔面に襲い掛かる。


「グオオオオッ!?」


 声を上げた青鬼は、咄嗟に刺叉で鉄矛を打ち払った。

 打ち払うと分かり切っていた小太郎は、流れる動作で鉄矛を操る。

 弾かれた鉄矛の石突を左手で掴み、弾かれた勢いを活かしてグルリと、矛先を下から後ろへ回転させた。回転した矛先が、後方から前方へと戻ったのだ。

 矛が弾かれてから、回転して襲い掛かるまで、わずか一秒にも満たない。

 流星のように流れた矛先が、立て続けに青鬼を襲った。


「グァァッ!」


 両手で刺叉を振るっていた青鬼の体勢は、崩れていた。

 青鬼は慌てて、刺叉を頭上に掲げた。

 それは小太郎にとって、絶好の機会となった。

 小太郎は鉄矛の石突を持っており、それを起点として矛先を任意の場所に叩き付けられた。


「まずは右手だ」


 刺叉の柄を握る青鬼の右手に、流星と化した矛先が落とされた。

 握っていた柄と、降り注いだ矛先とに挟まれた青鬼の右手は、擂り潰された。


「ガアアアアアッ」


 叩き付けられた矛先から、調伏の呪力が流し込まれる。

 激痛で刺叉を放した青鬼の体勢は、さらに崩れていた。

 そして小太郎は、まだ動き続けていた。


『地鎮祭』


 小太郎の舞いと共に、複雑な軌跡を描く鉄矛が、青鬼に襲い掛かっていく。

 払いで崩し、軽重の突きで手傷を負わせる。

 鮮やかな舞いで青鬼の反撃を受け流し、体勢を崩したところを突いていく。


 両者にあったのは、圧倒的な技量差だった。

 愛奈が分霊と戯れていた年月、小太郎はひたむきに修行を行っていた。

 花咲の直系である小太郎には、人外に劣る呪力を補うための様々な技術がある。

 その差が、中鬼に対する圧倒的な対応力の差となって現れた。

 さらに小太郎は、油断することも、手を緩めることも、一切なかった。

 一瞬の隙すらも作らず、操る矛で確実に弱らせ、隙を突いて打撃を与え、青鬼を調伏した。


 ◇◇◇◇◇◇


 金山城に設けられていた障害は、堅壁の先にも用意されていた。

 道程としては道半ばであり、馬場曲輪、大堀切、月ノ池、大手虎口、石敷きの広場が残っていた。

 だが助井と格田が脱落して、小太郎が愛奈の犬神を助けたところで愛奈が負けを認めるに至り、それ以上の選定は無意味となった。


 カメラに映る愛奈は、小太郎に対して従順だった。

 青鬼に捕まえられて、泥沼に放り込まれそうだったところを助けられたのだから、無理もない。

 愛奈を助けるために自らの犬神を送り出した小太郎は、そのために1対1で青鬼と戦っている。そして赤鬼と戦っていた愛奈の犬神も助けた。

 もはや勝負は着いている。


 ――主催者の春は、干珠に触れたら終了と言ったが、触れた者が勝ちとは言っていない。


 犬神が誰に憑くのかは、犬神の自由だ。

 そんな犬神は、生前に花咲家の隣家に住んでいた爺から、迷惑を掛けられた。

 この先、助けられた愛奈が恩を忘れてゴールまでダッシュして干珠に触れたところで、意地悪な者に憑くことなど考えられない。

 選定の義は、すでに勝敗が決したのである。


 そのため堅壁よりも先の障害は、春の式神によって撤収された。

 そして小太郎は、何ら妨害を受けずに、愛奈を引き連れてゴールの日ノ池まで辿り着いた。


「仲がよろしいことで」


 一樹が思わず皮肉を口にしたのは、愛奈が小太郎の腕を組んでいたからだ。

 選定試験の場で、それは流石に無いだろうと思った次第である。


『女子校の生徒は、男子への免疫が無くて、惚れっぽい』


 それは卿華女学院の文化祭に行った際、一樹が水仙から教わった話だ。

 愛奈が助けてくれた小太郎に惚れたらしいことは、傍目に一目瞭然だった。


 他方、小太郎が粗略に扱わないのは、パートナーとして有望だからだ。

 現在の小太郎は、若くして花咲家の当主、そして花咲グループの会長となる身だ。

 高校生で経営手腕が未熟な小太郎であるが、パートナーが日本で三指に入る三戸グループであれば、小太郎の不備を補って余りある。

 そして三戸家も、魔王が日本を荒らしている現在、娘がA級陰陽師の配偶者になるのであれば、世間への多大な宣伝効果が期待できる。

 花咲家の当主となる小太郎は、大きな判断を下した様子だった。

 そのため一樹は、引っ掛かった愛奈を捕まえた小太郎に、生暖かい目を向けたのであった。


「これが干珠か」


 一樹の呟きを聞き流した小太郎は、日ノ池に設けられた台座に目を向けた。

 台座には紫の敷物があり、その上には犬神が執着した干珠が鎮座していた。小太郎が助けて連れてきた愛奈は、干珠を横から奪おうという素振りは一切見せない。

 ほかの妨害者もおらず、小太郎はゆっくりと干珠に手を伸ばし、そっと触れた。


「バウッ」


 愛奈の傍に付いていた分霊・シロが、一鳴きして小太郎の分霊・皎に吸収された。

 それを見ていた愛奈が寂しそうな顔をするが、小太郎が念じると、皎の霊体から分霊のシロが飛び出し、再び愛奈に憑いた。


「小太郎君、ありがとう」

「ああ」


 愛奈が正面から小太郎に抱きつき、小太郎は抵抗しなかった。

 用件が済んで、お邪魔虫を自覚した一樹は、すぐにでも帰宅する意志を持った。

 だが一つだけ、どうしても見逃せない点があって口を開く。


「犬神の力が、先代に憑いていた時よりも増している。先代に憑いていた時はA級下位だったが、小太郎に憑いた今はA級中位だ」

「どういうことだ」


 聞き捨てならなかった小太郎が、真顔で問い質した。

 一樹の知覚は、愛奈の分霊が小太郎の分霊に重なり、継承者が確定した瞬間だ。

 刹那に知覚した犬神の呪力は、A級下位の牛鬼を圧倒しており、A級中位の羅刹にも届くほどに大きかった。

 一樹の呪力感知は、地獄で鬼を知覚し続けた魂が身に付けた能力だ。

 その技能は、他の追随を許さないと自負する。


「予想だが、先代を殺された恨みが募り、怨念の力が増したのだろう。それだけではなくて、花咲の氏子を守っていた力も、一部を回収したと思う」


 一樹の予想は、恨みが深くなるほど怨念が強まる常識に基づく。

 花咲の犬神が、憑いていた当主を目の前で殺されて、恨まないはずがない。

 花咲家の氏神である犬神は、殺された氏子の報復をしたり、次の氏子を殺されないように守ったりする。

 ほかの氏子を守るために、勝てないと判断した羅刹から、一旦は引いたのだろう。

 だが、干珠を諦めなかった犬神が、報復を諦めるとは思えない。

 そのために必要なことをしたのだろうと、一樹は考えた。同時に一樹は、『このような犬神が相手では、妖狐も折れるしかなかったのだ』と納得した。


「魔王が居なければ、今の犬神は、羅刹を噛み殺せるかもしれない」

「そうか」


 言葉少なげに応じた小太郎に、一樹は無謀を戒めるべく、小太郎と犬神に言葉を掛ける。


「静岡の統括となる堀河陰陽師も、二重に願掛けをして、父親の敵討ちを目指している。2人でやれば、確実に果たせるだろう。相手も出来たようだし、一人での特攻は避けろよ」

「ああ、そうだな」


 言うべき事を言った一樹は、2人から離れて主催者である春の下に戻った。


「これで終わりでしょうか」

「はい、さようでございます」


 興味深そうに一樹達を見守っていた春は、促されて頷いた。


「立会人を務めて頂き、まことにありがとうございました」

「役目を果たせたようで、何よりです」


 役目を果たした一樹に向かって、春は丁寧にお辞儀をした。


「次回は、44年後くらいでしょうか。面倒でございますので、頻回には行いたくございません」


 44年後であれば、小太郎が陰陽師としての定年を迎える頃だ。そのタイミングで犬神を継承するのであれば、死亡による交代ではない。

 ようするに春は、小太郎に死ぬなと言ったわけである。

 ただし距離が離れているので、小太郎には聞こえていないが。


「賀茂様がよろしければ、次も立ち会いをお願い致します」

「その頃に都合が付けば、構いません」


 一樹に対しても死なないようにと告げた春に対して、一樹は軽く頷いて応じた。

 かくして継承の儀は終わり、一樹は金山城を後にしたのであった。


――――――――――――――――――


5月10日、書籍版1巻の発売日です。

最初から式神が居て、一樹も武器で戦いますので、

すべての戦闘が、まったく異なります。


Web版の10倍(当社比)、面白いです!

ご予約、よろしくお願いします(o_ _)o

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― 新着の感想 ―
[一言] 片方は己の役目とも言える花咲家を犬神ごと全部継承しもう片方はまあまあなラブロマンスみたいな救われ方して誰にも文句言われない相手を見つけた上に自分の学んだ事は役立ちまくり めっちゃwin-wi…
[一言] まぁ、小太郎が順調に継承したか。それに愛菜も嫁げば家から自由にもなれるし良かったんではなかろうか。
[良い点] 学校に戻った愛菜はキャラの微妙な変化を同級生に察知されるでしょうが、果たして沼に落ちたとか落とされそうになったのを救ってもらったとかいう馴れ初めを正直に言えるのか
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