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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第5巻 昇神への道程

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127話 花咲の氏神

「それでは準備を始めます」


 金山城跡の総合案内板前に集った4人に向かって、春が宣言した。

 すると春の傍らに控えていた犬神が、人懐っこい笑みを浮かべて、一吠えした。


「バウッ」


 すると吠えた犬神の身体から、4つの煙が飛び出した。


 ――犬神の分霊か。


 一樹が見抜いた4体の霊は、いずれも犬神の呪力を宿しており、本体と気が繋がっている。

 近似としては、蛇神と柚葉の間にあったような繋がりだろうか。

 分霊と繋がる本体は、分霊から情報を収集したり、分霊を操ったりできる。


 ――そうやって代々、継承候補の子供達を調べているのか。


 花咲の子孫には、犬神の分霊が憑いている。

 であれば子孫達が危険な目に遭いそうになった時は、犬神が察知できる。


『交通事故に遭いそうになれば、服を咥えて引っ張ってくれる』

『敵や暴漢に襲われそうになれば、それらを蹴散らしてくれる』


 分霊が倒されようとも、分霊の気が相手に付着するので、それを辿って周囲の氏子に憑いた分霊や、本体が駆け付けられる。

 A級の犬神が救援に駆け付けるのだ。

 氏子が生きていれば救出できるし、殺されていても加害者は皆殺しであろう。

 花咲一族が現代までの数百年に亘って、無事に血脈と財産を受け継いでこられた理由は、犬神に手厚く守られてきたからだと一樹は理解した。

 姿を現した4体の分霊は、4人の候補者の下へ駆け寄っていった。


「シロちゃん!」

「バウワウッ」


 分霊の一体が尻尾を振りながら、愛奈に正面から突進していった。

 そして衝突の直前、分霊は自分で減速して、愛奈の身体にボフッと収まった。


「シロちゃーん!」


 愛奈が分霊の身体をワシャワシャと撫でると、分霊は千切れそうなくらい勢い良く尻尾を振って応じた。

 ほかの3体の分霊も、それぞれ3人の下に駆け寄って、各々の関係性で親愛を示している。

 それら4体の分霊について、身体の大きさや呪力に差があることに一樹は気が付いた。

 一樹の疑問を察したのか、春が4人に向かって分霊の大きさについて説明する。


「皆様が触れ合った時間と密度で、分霊には個体差がございます。分霊の力と、皆様の呪力を使い、競って下さい」


 春から指摘された4人は、4体の分霊を見比べた。

 分霊達の大きさは、意外なことに小太郎が一番ではない。

 大きさの順では、愛奈、小太郎、助井、格田となっている。すなわち分霊に対して、もっとも時間を費やして呪力を籠めたのは、愛奈ということになる。


 ――意外でもないか。


 呪力の大きさは、主に遺伝と環境要因に影響される。

 遺伝に関しては、4者は花咲の後継候補に選ばれるほどには差がない。

 そして修行の浅い幼少期であれば、呪力にも大差は無い。

 であれば費やした時間で、差が付く。


 大人達は、子供に犬神と接するようにと指示は出来ない。

 子供が自発的に接するのと、親に言われて義務的に接するのとでは、前者のほうが犬神に評価されるに決まっている。

 またライバルとなる親族の子供に教えるような不正も、花咲では出来ないだろう。

 なぜなら犬神が、憑いて見ているからだ。隣家のイジワル爺に嫌がらせを受けた犬神は、イジワルな子孫には憑かなくなると予想できる。


 小太郎は、謎の犬が分霊だとは知らなかったはずだ。

 すると花咲家の後継候補者である小太郎は、花咲グループを引き継ぐ勉強や、陰陽師の勉強に力を入れることになる。

 それに対して、旧財閥で旧華族の出自である女子の愛奈は、家を継ぐ立場にはない。

 その差が、費やせる時間の差となって、犬神の力や大きさとして出たのだ。


「わたしのシロちゃんが、一番大きい?」

「そのようでございますね」


 愛奈の確認に対して、春は頷いて応じた。


 一樹が知覚した呪力は、小太郎がD級で、残る3人はE級だ。

 4人の遺伝には大差がなくて、修行で呪力に差が出たのだと考えられる。


 ――いくら大きくても、使役に関しては、術を学んだ陰陽師が有利だと思うが。


 一樹の記憶では、昨年と今年の合格者には三戸愛奈の名前は無かった。

 もっとも合格者は、毎年500人以上。

 流石に一樹も、全員の名前を覚えているわけではない。

 助井と格田が受験したかもしれない数年前に関しては、合格者の名前すら確認していない。

 候補者達の優劣を測りかねた一樹とは異なり、愛奈は余裕の表情で小太郎に話し掛けた。


「わたしが、有利みたいだね!」


 愛奈は意気揚々としており、小太郎は苦々しい表情を浮かべていた。

 理解しかねた一樹は、残る候補者が三戸の側に立っている様子を見て、ようやく事態を察した。


「助さんと格さんは、わたしの味方だよ」


 愛奈が堂々と宣言すると、助井と格田は、それぞれ肯定した。


「すまんね。三戸家には、代々従っていてね」

「花咲には悪いのですが、三戸様からの鞍替えは、我らには有り得ません」


 助井は悪びれずに笑顔で、格田は淡々と事実を告げるように、愛奈の陣営だと告げた。

 血縁であれば、五鬼童家の本家と分家、五鬼童家と繋がる春日家のような関係性もあるだろう。それらの関係性は、犬神継承の儀に参加するからと言って、途切れるわけではない。


 ――陣営が偏るのは、致し方がないか。


 日本で三指に入る旧財閥の三戸家であれば、従って享受できる利益は大きい。このような時に恭順すれば、恩恵も大きいだろう。

 状況を承知した一樹は、あくまで立会人の立場で、春にルールを確認した。


「立会人の立場で確認しますが、3人で組むのは、アリですか」

「わたくしは、禁止致しません」


 主催者の春は、禁止しないと明言した。

 すると声が聞こえる範囲に居た愛奈は、小太郎に笑みを向ける。


「花咲グループの財産は、小太郎くん達で相続して良いよ。シロちゃんの継承に必要な部分だけ、頂戴ね」


 愛奈は花咲グループの相続を放棄しつつ、氏神の継承を求めた。

 対する小太郎は、訝しみながら質した。


「どうして氏神を継承したいんだ」

「A級って、影響力が強いよね」

「まあな」


 愛奈の控えめな表現に対して、小太郎も控えめに答えた。

 実際には、影響力が強いどころでは済まされない。

 A級1人の有無は、魔王との決戦で、勝敗すらも左右しかねない。


 魔王との戦いに敗北すれば、神奈川県の東にある東京が陥落する。

 東京は煙鬼の支配する土地となり、日本が受ける被害は、国家の敗戦規模になるだろう。

 現代におけるA級陰陽師とは、それほどの影響を及ぼす存在だ。


「わたしの家って、しがらみが多すぎて。だけどA級陰陽師なら、破天荒でも、意志を押し通せると思わない?」

「A級陰陽師を妨害すれば、日本中を敵に回す。今なら、大抵の破天荒も通るだろうな」


 小太郎からの賛同に、愛奈は満足げな表情を浮かべた。

 そして内心を吐露する。


「これをしてはいけません。これは相応しくありません。このような付き合いはいけません。このパーティに出席して下さい。服装は、贈り物は、挨拶は……。この人がお見合いの候補です。家柄は、学業は、スポーツは、三戸家との関係は……」

「ふむ」

「わたしは、もう少し自由に生きたいの。人並みとは言わない。せめて花咲くらい自由に。だから悪く思わないでね」

「考えは理解した」


 小太郎が理解を示した愛奈の主張に、一樹は条件付きで理解を示した。

 幼少期に空腹生活を強いられた一樹は、野道に咲いた花の蜜を探す生活よりは、不自由でも食べられる生活がマシだと考える。

 空腹だと野生動物のように食糧を求めて、他のことなど何も考えられないのだ。

 だが確実に餓えずに済む程度の金銭があれば、豪華な檻に閉じ込められるよりは、市井の自由が良いだろう。


 愛奈は、自分の意志で犬神の継承を望んでおり、引く気は皆無と考えられる。

 しかも我を通すために、陰陽師として花咲並の活動することも吝かではない様子だった。


 ――花咲の犬神を操れるなら、それだけでA級陰陽師に上がるか。


 妖怪との戦いは、結果が全てだ。

 B級上位の妖怪を確実に倒せる者は、A級と評価するのが正しい。


 代々の花咲が、いかなる継承を行っているのか。

 陰陽師協会が、いかなる評価を行っているのか。

 それらを理解した一樹は、納得して受け入れた。


「わたくしと賀茂様は、終着点の日ノ池に参ります。そこから狐火の狼煙を打ち上げますので、皆様は日ノ池に向かって下さい」


 春が4人の候補者に向かって、継承試験の流れを説明した。


「途中、様々な障害や妨害がございますが、ご自身の力や犬神の分霊を使い、突破して下さい。そして、誰かが干珠に触れれば、試験は終了でございます。質問はございますか」

「障害や妨害って、どういうものですか」

「色々と、ございますよ。多少は御出来にならないと、神など継承できませんでしょう。心技体、すべてお示し下さいませ」


 愛奈の質問に対して、春は楽しげな表情を浮かべて答えた。


「それでは風雲・金山城、開城にございます」


 春の宣言と共に、犬神を継承する子孫達の争いが、厳かに幕を開けた。

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― 新着の感想 ―
横からバレーボールで撃たれそうw
>「それでは風雲・金山城、開城にございます」 何百年も生きてる春さん目線だと最近のネタなのかな?かわいい。 あと同じA級のキヨを使役している奴がB級なのに、修行してこなかった女子高生が即A級に上がれ…
[一言] A級になって協会長やらされそうになったら今度はどこに逃げるのやら。単なるわがまま娘で自力解決もしないタイプか。
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