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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第5巻 昇神への道程

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123話 陽キャは強い

「まるで東京駅だな」


 卿華女学院に踏み入った一樹が見たのは、綺麗に並ぶ赤煉瓦の建物だった。

 西洋近代化を目指した、大正時代を再現しているのか。足元は石畳で、どこまでも古風な空間が広がっていた。


 当初の一樹は、京都の街並みに溶け込んでいた塀から、同様に和風の学校なのだろうと思い込んでいた。

 もっとも和風な学校など、古い写真で見るような木造建ての校舎しか想像できないが。


「立派な学校ですね」


 初見の蒼依も、同様に一樹の感想に賛同を示した。

 無骨な鉄筋コンクリート製よりも、赤煉瓦の校舎のほうが、通学する生徒も陽気になれるだろう。意欲が無いよりも有るほうが、学習効率も上がるのだから、校舎の風情は無駄ではない。

 一樹達が通っている花咲学園も立派だが、そちらは投じられている金額が大きいためだ。

 大学と同じ敷地内にあって、大学の施設や設備を使えるのであって、ほかと一線を画すほどに際立ったデザインの建物があるわけではない。


「高校の校舎単体で考えると、卿華女学院のほうが洗練されているな」


 隣の芝生は青いと言われるが、実際に石畳の周囲の芝生は青々としていた。その奥には花壇があって、9月の花々が美しく咲き乱れている。

 石畳の脇には、文化祭の時期にだけ置かれるであろう案内板も、たくさん置かれている。

 それらの案内板ですら、喫茶店に置かれたウェルカムボードのようにお洒落でハイソだった。

 伝統と格式は、一朝一夕では生まれない。

 敷地内に踏み入っただけで、明治時代から続く伝統的な女子校であることが一目瞭然の学校だと感じ取れた。


「案内板すら参考になるな。発注するには、時間が無いけれど」

「写真に撮っておきましょうか」


 一樹が撮影すると、不審者扱いが増すと考えたのか。

 気を利かせた蒼依がスマホを取り出して、並んでいる案内板を撮っていく。

 案内板には、文化祭で行われている様々な催し物が載っている。さらにはスタンプラリーの用紙と、1個目のスタンプも置かれていた。

 一樹は見学の参考として、スタンプ用紙を手に取った。用紙にハンコを押して、ポケットに仕舞い込んでから、沙羅に問う。


「この案内板は、先輩から受け継いだものなのか」

「毎年見ますから、使い回しですね」

「そうか。学校側か、卒業生なのかは知らないけれど、力を入れているな」


 高校生の小遣いでは買えない立派な案内板には、ホールで行われる演奏会、演劇などの時間が載っている。

 そのうち演劇については、演目が『小女郎狐』と記されていた。

 それは一樹にとって、縁のある狐だった。


「演目は、小女郎狐をやるのか」


 小女郎狐とは、今夏の陰陽師国家試験で香苗が召喚した水行護法神・源九郎狐の妻である。

 『諸国里人談』(1743年)によると、源九郎狐が殺されてから60年ほど経った頃、三重県伊賀市の広禅寺に住んでいたとされる。

 12歳から13歳ほどの少女の姿に化けて、寺の世話になっていた。そのため、小女郎狐と呼ばれたそうである。

 寺で世話になっていたのは、夫の供養でもしていたのか。


 小女郎狐は、穏やかな性格だった。

 豆腐を買って帰るのを見た子供が、小女郎狐に向かって「こじょろ、こじょろ」と囃し立てると、振り返って微笑んだそうである。

 そこで4年から5年ほど過ごした後、静かに去って行った。

 年齢が変わらないことで、人間との生活に齟齬を生じさせたのか。

 それとも人間の誰かに再婚でも勧められて、断りたかったのか。

 そんな小女郎狐と、夫となった源九郎狐との恋愛を描いた物語は、書ける時代の自由度が高くて、人気の物語とされている。


 ――その小女郎狐、金行護法神として召喚されて、凪紗に矢を射掛けていたけどな。


 しかも二尾で、豊川稲荷の霊狐塚に宿っていた。

 はたして如何なる物語を演じるのか。

 意外な縁を持つ一樹は、小女郎狐に対する一般人の解釈に、少なからぬ関心を抱いた。


「主役は小女郎狐でも、男性役の源九郎狐も必要だろう。女学校だと、どうするんだ」

「それは背が高くて、中性的な生徒が、男装するんです。内輪ですが、結構人気がありますよ」

「そうなのか」


 女性が男性を演じることについて、男性の一樹は違和感を持ってしまう。

 そのため女性ほどに共感は出来なかったが、女性だけの演劇団体も存在することから、一定の支持があるのだろうと納得した。


「術の演出には、凪紗が協力するそうです。狐火を模した鬼火なども、飛ばすと聞きました」


 まさかの演出協力に、一樹の関心は強まった。

 B級陰陽師にして、先祖返りとも言われる天才の凪紗が協力するのであれば、映画で行われるCGの演出どころではない大迫力の画になる。

 敵役には、人に害を為す怨霊でも使役すれば良い。

 怨霊を倒したところで、世間から褒められることはあっても、批判されることはない。


「普通に来ていたら演劇を見に行ったけれど、今回はパスだな」

「そうですね。また来年にでも来ましょうか」


 演劇に強く惹かれた一樹だったが、今回の目的を思い出して、断腸の思いで断念した。

 その様子を見ていた蒼依が次回を提案して、一樹は軽く頷き返した。


「それでは紫苑のクラスに行きましょう。喫茶店をしていますから、参考になるかも知れません」

「分かった。そうしよう」


 チケットを手配してくれた妹のクラスのほうに行くべきか。

 そのように考えた一樹は、本来の目的に鑑みて自重した。

 行くとしても最後にしなければ、様々な事情から、文化祭の見学どころではなくなる恐れもある。


「高等部の校舎に入ったことは少ないですけれど、さすがにクラスくらいは分かります」

「よし、すぐに高等部へ行こう」


 中等部の校舎を避けるように、沙羅の誘導に従った一樹は、高等部の校舎に入った。

 他校の制服は目立つのか、花咲高校のブレザーを着た一樹達は、周囲の生徒達から盛大に注目を浴びた。

 他校の制服を着た生徒が居れば、注目するだろう。

 1人であれば、転校生を想像するかも知れないが、複数名が居る時点でその可能性は無い。

 そもそも卿華女学院は女子校であり、歩いているのは男子である。


 ――気分はパンダだな。


 クマの群れの中に、身体が白黒のパンダが混じれば、クマのほうも困惑するに違いない。

 受付の教師が危惧していた様子から、黄色い声で騒がれることすら想像した一樹は、『どうして良いのか分からずに困惑される』という結果に納得した。

 モーゼが海を割って進むように、自然と開けた道を歩いて行くと、やがて1年生のクラスが並ぶ廊下に入った。

 するとメイド服を着た、沙羅の知り合いらしき少女が、飛び跳ねながら沙羅に迫ってきた。


「沙羅じゃない。久しぶり。遊びに来たの?」

「そうですよ。愛奈も久しぶり」


 少女がキャアキャアと抱きついてきて、それを沙羅が落ち着いて抱き留める。

 それでも相手の勢いは一向に衰えず、そのまま一樹のほうに顔を向けた。


「こんにちは、はじめまして、いつもありがとう!」

「あ、はい」


 沙羅を解放した少女は、次いで一樹の両手を握ってブンブンと振った。

 初対面で「いつもありがとう」と言ったのは、一樹の陰陽師としての活動によるものだろう。

 つい先立っては、魔王の領域に強行偵察を行った。300万人以上を避難させて、日本を混乱させている魔王に、痛い思いをさせてきた。


 何事であろうとも、最初には強烈な印象を与える。

 一例を挙げるならば、『はじめて月に到達した』だろう。

 以降に100回到達しようとも、最初に与えた印象には及ばない。

 ほかのA級陰陽師が後方に待機しており、バックアップ体制が万全な中で『一樹がA級陰陽師の仕事をした』と世間に示すために実行したようなものだったが、効果は抜群であったらしい。

 一樹を解放した少女は、次に蒼依に向き直った。


「はじめまして、あたしは三戸愛奈。沙羅の中学のクラスメイトで、今は紫苑のクラスメイトです。愛奈って呼んでね」

「相川蒼依です。賀茂さんと、沙羅のクラスメイトです」

「もしかして、陰陽同好会に名前が載っている人かな。すごく有名だから、ホームページも見たことあるよ」


 矢継ぎ早に繰り出される言葉に、蒼依は圧倒されながら答えた。


「はい、そうです」

「すごい、日本で一番有名な同好会だ。花咲高校の来年の受験倍率って、陰陽同好会の影響で、とんでもないことになるって噂だよ」


 勢いを保ったまま、一樹達を自分のペースに飲み込んでいく愛奈を見て、一樹は確信する。


 ――これは陽キャだ。


 陽キャとは、性格が明るくて、人付き合いが得意で活発な人物のことである。

 愛奈の雰囲気に引っ張られた一樹達は、そのまま当然の如く、紫苑のクラスまで連れて行かれる。


「うちのクラスは喫茶店だよ。普通の喫茶店なんてつまらないから、メイド喫茶にしたの。紫苑もメイドにしたから、接客で付けるね!」


 陽キャは、強い。

 そのように確信した一樹であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 陽キャは強い!真理である。
[良い点] バランスを取るために陰キャを
[一言] つ、強い…っ!
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