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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第5巻 昇神への道程

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118話 縄張りの中

「後退するぞ」


 一樹が指示した直後、車に乗り込んだ堀河がハンドルを切った。

 車が反転する間、酒匂川に居たキヨも姿を消して、晴也の傍に戻ってくる。

 だが赤牛だけは、羅刹の傍に留まったままだった。


「赤牛は!?」

「異界より喚び出した護法神だ。自分で異界へ還る」


 問い質した一樹に対して、堀河は切り捨てるように答えた。


 ――思い切りが良いな。


 式神を使い捨てるような堀河の使役方法は、本来あるべき姿だ。

 式神使いと式神は、お友達ではない。

 人間社会であれば、雇用者と労働者が『労働契約と給与』で結ぶ関係。

 それが、式神使いと式神が『式神契約と呪力』で結ぶ関係だ。


 式神は、式神契約と与えられる呪力で、それらに見合う働きをする。

 給与や待遇が悪ければ反発し易くなるが、堀河の要求は不当ではない。

 そもそも堀河は、父親の敵討ちのために、赤牛に願掛けで力を借りたのだ。

 したがって「敵である羅刹と戦え」と求めるのであれば、当初の願い通りである。赤牛に単身の突撃を求めたところで、相応の呪力と引き換えであれば、要求は通るだろう。

 そして赤牛が倒されたとしても、術者の呪力で復活できる。


 ――呪力の負担は、大きいだろうが。


 B級陰陽師がA級の鬼を倒そうとするのだから、元より負担が軽いはずもない。

 不足する呪力を補うために、気力や生命力なども、削り取って使っているはずだ。

 秋田県の統括陰陽師だった春日家の結月が、結婚相手の候補から外すくらいには、危ないことをしている。

 もっとも敵討ちは、堀河自身が自己選択したものだ。

 堀河家は、静岡県で代々続く陰陽大家だ。

 先代を鬼に殺されて放置するようでは、ほかの陰陽大家への示しが付かず、縁を結ぶことを避けられる。

 そうなると、やがて家が没落していく。


 陰陽大家が潰れると、いかなる影響があるのか。

 それを春日家への訪問で垣間見た一樹は、堀河に無茶をするなと言う資格はないと考える。


「分かりました。引きましょう」


 キヨの乗車を確認した一樹が告げると、反転した車が相模川に向かって走り出した。

 すると拘束を解かれた羅刹は、手元から離れていた斧に駆け寄っていく。

 そして斧の柄に手を伸ばしたところで、背中から赤牛の突進を受けた。


「ムオオオオオッ!」

「ヌオオオオオッ」


 斧の柄を握った羅刹は、赤牛に弾き飛ばされて、再び酒匂川を転がった。

 盛大に水飛沫が上がる中、肋骨を折って脂汗を掻く羅刹が、赤牛に斧を向けてけん制した。

 すると斧を向けられた赤牛は、僅かに躊躇う素振りを見せた。

 そして次の瞬間、躊躇う素振りを見せて油断を誘った赤牛は、突進して羅刹に襲い掛かった。


 肋骨を骨折して威力の落ちた斧が、赤牛の背中を叩き切る。

 そして赤牛の角は、羅刹の胸部を再び打ち据えた。


 ――獅子鬼さえ居なければな。


 両者の呪力、そして獅子鬼の呪力も知覚する一樹は、戦いの結末を想像して惜しんだ。

 獅子には、テリトリーがある。

 そして小田原市は獅子鬼の領域内であり、一樹達は獅子鬼にとって、テリトリーに踏み込んだ侵入者だ。

 この範囲内で羅刹を倒そうとしても、必ず獅子鬼が介入する。


 もっとも、箱根山の山頂に現れた獅子鬼は、すぐには動かなかった。

 羅刹が即座に敗北することは無いとみなしたうえで、周囲を警戒したのである。


 ――流石に2000年も暗躍しただけあって、慎重な性格だ。


 最初に獅子鬼と戦った際、人間側はA級陰陽師4名を投入した。

 さらに宇賀が珊瑚の簪をした霊物を用いて、三尾の白狐である良房は泰山府君の霊符を用いて、それぞれ加勢した。

 人間側の戦力は少なからず居て、獅子鬼に手傷も与えて、脅威になると示した。

 だから獅子鬼は、単調に突撃せずに、周囲を警戒したのだ。


 だがキヨと赤牛は、いずれもA級の力を持つ。

 それが敵側にいるのであれば、獅子鬼も座視できない。

 排除すべきと判断した獅子鬼は、ついに動き出した。

 もっとも獅子鬼は、羅刹のようには駆け出さなかった。内包する呪力を籠めて、その場で腰を落としたのである。


 ――来るっ!


 呪力の知覚に関して、一樹は他人の追随を許さないと自負する。

 そんな一樹にとって、視覚情報よりも遥かに分かり易い動きだった。


『PL200、撃て』


 獅子鬼が跳ね飛んだ瞬間、その身体が巡視船からの砲撃を浴びて、空中で弾き飛ばされた。

 空中で立て続けに追撃を受けた獅子鬼は、バランスを崩して、箱根山の斜面を転がっていく。

 それは一樹が隠形させながら、相模湾に待機させていた、幽霊巡視船からの砲撃だった。


「ぐぬうううっ、やはりか!」


 獅子鬼の雄たけびが、激しい射撃音に飲み込まれて消えていった、

 一樹が使役する船幽霊の『みやこ型巡視船』は、砲撃が一発では終わらない。

 2門の70口径40ミリ機関砲は、毎分330発を撃てて、初速は秒速1025メートル。霊弾であり、物理的な減衰は無いので、有効射程は10キロメートルにも及ぶ。

 秒速1025メートルは、音速331.5メートルの3倍以上だ。

 命中してから射撃音が伝わったのは、砲弾が音速を超えていたからである。


「魔王は強大だけど、無敵じゃない」


 車内の一樹は、B級の晴也と堀河に言い聞かせるように呟いた。

 地球上の生き物では、ハヤブサの時速390キロメートルが最速だ。

 それは秒速100メートルほどで、それを超える生き物がいないのだから、生き物を捕食する妖怪変化や悪魔邪神も、それよりも圧倒的に速くはならない。

 音速を3倍も超えて撃ち込まれる砲撃は、毎分330発が2門。

 獅子鬼であろうとも、避けられるはずがなかった。


「賀茂も、無茶苦茶やな」


 晴也が呆れて評す中、一樹は獅子鬼の呪力を知覚し続けた。

 その様子は、遠望からも観測されていた。

 一樹の式神に撃たれた獅子鬼は、逃げる車に向いており、右半身を相模湾に向けていた。

 その相模湾から飛んできた砲弾に対して、獅子鬼は左手で斧を生み出すと、それを右半身に構えて銃弾を防ごうとしたのである。

 それは、あまりにも不自然な動きだった。


 もしも右腕が無事であったならば、右手で身体を庇っただろう。

 だが右腕を負傷している獅子鬼は、それを行えなかった。

 撒き散らされた霊弾が、獅子鬼の身体を激しく打ち据える。霊弾の一部は右腕に命中して、癒やせぬ傷を揺さぶり、獅子鬼の痛覚を刺激した。


「ぬぉおぉぉおっ」


 獅子鬼の顔が、激痛に歪んだ。

 巡視船の砲撃は、術者である一樹の想定以上に効果を発揮していた。


「追って来んな」


 後部座席から獅子鬼の様子を観察する晴也が、意外そうに報告した。

 獅子鬼の負傷は、陰陽師協会も把握している。

 だが程度は不明であり、宇賀が調べるべきだと主張して、充分なバックアップ体制の下に一樹達を送り出したのだ。

 ほかの誰かが主張したのであれば、危険なため一樹は応じなかったかもしれない。

 だが宇賀の予知であったために、一樹は応じたほうが良いと考えて、今回の作戦に至った。


「一応、近付いている。油断するな」


 堀河が警戒したのは、獅子鬼が苦しんでいるように見えて、同時に箱根山から滑り降りるように東進していたからでもあった。

 一樹も慢心せずに、気を引き締めた。


「そもそも、俺の呪力では足りない」


 巡視船の砲撃は、一樹の呪力を霊弾として、叩き付けている。

 その呪力量は、S級中位の獅子鬼が相手では不足する。もっとも呪力だけ高くても、一樹が宇賀や豊川に勝てるとは限らないが。

 箱根山を下り終えた獅子鬼は、羅刹と赤牛の争う場所へと向かった。


 獅子鬼が羅刹の下に向かったのは、元から助けるつもりであったのか、それとも一樹を追いかけるのを断念したからか。

 いずれにせよ結果は見えており、獅子鬼に加勢されそうになった赤牛は、自ら異界へと戻っていった。


「ぐっ」


 歯を食いしばる堀河の、はるか後方。

 そこでは赤牛との戦闘から解放された羅刹が、御殿場市へと逃れていった。


「どうせなら、自衛隊も巻き込むべきやったか」


 車が二宮町を東進する中、手持無沙汰の晴也が、火力不足を補う方法を顧みた。

 獅子鬼は顕現しており、肉体を持っている。そして肉体を持っているのであれば、自衛隊の部隊による砲撃も通じる。

 そんな晴也の考えに対して、一樹は武器が通じる点については賛同を示した。


「蜃の術の範囲外なら、自衛隊の攻撃も効くだろう」


 自衛隊の装備は、巡視船を上回る。

 一時期、箱根山に陣取っていた特科教導隊は、巡視船よりも圧倒的に高い火力を有していた。

 また巡視船が入れる場所ならば、自衛隊の多機能護衛艦も入れる。巡視船と自衛隊の護衛艦では、やはり自衛隊の艦船の火力が圧倒的に高い。

 護衛艦の62口径5インチ(127ミリ)砲は、射程が37キロメートルもあって、威力は特科教導隊が有する155ミリりゅう弾砲 にも匹敵する。そのほかに、ミサイルなども搭載している。

 蜃が生み出す蜃気楼の中では効かないが、外であれば効果がある。


「だけど箱根山からは、周囲を見渡せる。隠形できない自衛隊が待ち構えていれば、単純には迫って来ないだろう」

「陸の部隊なら、民家に隠したり出来へんか」

「隠しても、露見するんじゃないか。陰陽師が居ない組織には、人に化けた妖怪が忍び込めるし」


 獅子鬼の厄介なところは、2000年前に日本へ土着した魔王である点だ。

 羅刹ほどの配下であれば、B級陰陽師でも確実に見破れるとは限らない。そのような相手が、防衛省や自衛隊の中枢にでもいれば、作戦内容はダダ漏れだ。

 そのほかに、絡新婦の配下でもいれば、人を喰って化ければ潜り込める。


 ――水仙の祖父は、大魔だ。大魔なら、魔王の配下かもしれない。


 日本に土着した悪魔といえば、真っ先に候補に挙がるのが貪多利魔王の率いた軍勢だ。

 いずれかの魔王の配下には、絡新婦の夫や父、祖父にあたる存在が居る可能性が高い。

 何人か優秀な子供を見繕って連れて行ったならば、それが魔王の手駒の一つとして、人間社会に潜んでいるかもしれない。

 それもあって今回は、政府を通さずに作戦を行った。


「大磯町に入るぞ」


 堀河が指摘した後、二宮町を抜けた車は、大磯町に入った。

 その先には、真のA級全員、羽団扇を持つ五鬼童と春日が、隠形しながら待ち構えている。

 それらは、宇賀が手配した陣容だ。

 A級3位の豊川は、三尾の良房を筆頭とする豊川稲荷の狐霊1000体を召喚できる。そして1位の諏訪と、2位の宇賀は、豊川以上だと評価されている。

 それらを投じた総力で迎え撃てば、今日にも魔王との戦いに決着するかもしれない。

 陰陽師協会には、それだけの準備と覚悟がある。


 だが獅子鬼は、一樹達を追っては来なかった。

 忌々しい表情を浮かべながら、後方に大きく跳躍する。

 そして家屋を次々と踏み潰しながら、御殿場市へと消えていった。

――――――――――――――――――


式神編のSSには、19話『鬼猫島』の

あとがきにあったお話しも、含まれます!



[その頃、相川家では]


                    中鬼

八咫烏「クワッ」( 〃 ❛ᴗ❛ 〃 )ノ⌒ ~~~ (||゜Д゜)グォォォ


和則「ぎゃああっ、生きた中鬼を、連れて来るなぁっ!」((( ;゜Д゜)))



    中鬼            和則

~~~ (||゜Д゜)グォォォ  ......((( ;゜Д゜)))ギャァァッ


( 〃 ❛ᴗ❛ 〃 ) ……クワッ?



物凄くパワーアップした鬼ごっこになります!

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― 新着の感想 ―
パパ、今の鬼ごっこと全国からのお局攻勢と色々誤解した弟子入り志願攻勢ならどれが一番楽だったんだろ?w
[一言] 読み返し中 ここの人間に化けた魔王の配下が政府や自衛隊にーってところでデビルマンのトラウマシーンを思い出してしまった …これは公表出来ませんね ストレスいっぱい避難生活者たちには知られちゃい…
[一言] よし!護衛艦を沈めて式神にしよう!! ……S級になったら調伏出来ないかな?
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