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【7巻12/15発売】転生陰陽師・賀茂一樹  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第4巻 天狗の羽団扇

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111話 最後の風切羽を求めて

「これが斑猫喰の風切羽なのね」


 奈良県の陰陽師協会本部にある談話室。

 そこで一樹から、瓶詰めされた風切羽を受け取った宇賀は、それを光に透かして眺めていた。

 羽根には化学兵器よりも遥かに強力な毒があり、他人に委ねられない一樹は瓶に封入した上で、協会本部にいる宇賀の元まで直接持参している。

 高校には、重役出勤からの欠勤という連続技をかました。

 だが流石に致し方がないと、判断せざるを得なかった。


「見事に赤いわね」

「はい。明らかな火行です。呪力はA級下位でした」

「それは重畳だったわね」


 一樹が持ち込んだ風切羽の色は、探していた火行を如実に表わしている。

 斑猫喰の呪力もA級下位であったため、羽団扇の素材としての要件を満たしていた。

 一樹はA級中位と評価されており、A級下位の妖怪との戦いは推奨されない。

 だが斑猫喰は、妖毒に特化したタイプだった。最大の武器が一樹や式神に通じなかったため、戦闘での相性は非常に良かった。

 斑猫喰の調伏によって、風切羽探しは残り1種類、水行を残すのみとなったのである。


「斑猫喰を素材にすると、羽団扇の力に妖毒が加わる。その点については、懸念しました」


 羽団扇は、素材に使った妖怪や天狗の力を引き出して使える。

 斑猫喰の風切羽を使ったならば、妖毒を扱えるようになるのだ。

 ニューギニア島に生息するピトフーイは、ホモバトラコトキシンという猛毒を持つ鳥であるが、保有する毒の量には限りがある。

 ホモバトラコトキシンは、サリンの4000倍から1万4000倍も強力な毒性を持つが、それならサリンを4000倍から1万4000倍も製造すれば互角だという考え方も成り立つ。

 だが呪力で生成できる妖毒になると、話は変わってくる。

 羽団扇に呪力を籠めれば妖毒を放てるならば、呪力がある限り、妖毒を製造できることになる。


「ですが、五鬼童家が広範囲の煙鬼を一度に殲滅するには、とても有効だと考えます」

「確かに五鬼童家は近接型で、広範囲の攻撃手段は持たないのだけれどね」


 一樹から懸念を伝えられた宇賀は、考え込む素振りを見せた。

 B級の呪力で、どれくらいの人間を殺せる妖毒を生産できるのか。

 呪力で生み出した妖毒は、呪毒として呪符や勾玉に籠めて、保管できるのか。

 伝承では、古池に毒を撒けば、足を踏み入れた人間を皆殺しにできた。また屋内で羽ばたけば、部屋で密談する人間達を皆殺しにできた。

 畑に撒けば、作物が毒に塗れる。そして現代では、上水道や地下鉄がある。

 その恐ろしさを知った中国の皇帝は、鴆を駆除するために、山ごと焼き払わせている。

 しばらく悩んだ宇賀は、やがて結論を出した。


「どんな妖怪の風切羽を使っていて、何が出来るのかは、公開しないことにしましょう。強い呪力を浴びせて、霊体の煙鬼を倒しているのだとでも、説明するしかないわね」

「わかりました」


 羽団扇は、作成時に呪力を混ぜた本人にしか使えない。

 羽団扇を所有することになるのは、義理堅い五鬼童一族だ。

 しかも羽団扇を渡す側は、五鬼童の危機に際して羽団扇を手配した宇賀や、過去に五鬼童家を助けて収集も全面的に手伝った一樹となる。

 五鬼童家は、社会的な地位・数多の名誉・千年以上に亘る信用・莫大な財産・子孫の安寧まで併せ持つ。それら全てを五鬼童家が捨てて、宇賀や一樹の信頼を裏切るとは、おおよそ考え難い。

 裏切って得られる利益が皆無で、感情面での動機も無いからだ。

 五鬼童家の誰か1人が暴走しても、他の誰かが止めるだろう。

 だからこそ宇賀や一樹は、五鬼童家には渡しても問題は起こらないと考える。


 だが世間は、そこまで五鬼童家を信頼できないかも知れない。

 宇賀や一樹であれば、もしもの時には実力で阻止できる。

 一樹は、生血鳥の風切羽によって自身の血が混じった羽団扇を追える。そこに信君を送り込めば、A級下位までであれば寝首を掻けるだろう。

 だが世間には、B級やA級の五鬼童家を止める手段が無い。個人携帯対戦車弾でも倒せない集団に、強力な化学兵器を持たれるのは、怖いだろう。

 故に情報を公開しないことで、不安を抱かせず、口も出させない判断を下したのだった。


「それにしても、想定以上に強力な羽団扇が作れそうね」


 斑猫喰の風切羽を検分し終えた宇賀は、残り1枚を残す現状を振り返った。


「10枚が集まった現時点で、羽団扇による呪力加算は、B級中位くらいですね」

「そうね。大森山の怪鳥は想定内だけれど、A級下位の生血鳥と斑猫喰は、想定外だったわ」


 風切羽の素材となる妖怪が、B級中位の鵺くらいで揃えられた場合、加算はB級下位だった。

 B級中位の呪力2万に、11枚と5%を掛けて、呪力は1万1000。

 それが現時点で、1万9000まで上がっている。残る水行がB級中位であれば丁度2万になって、紫苑でもB級中位の呪力加算を得られるようになるだろう。


「失われた製法で作られた翡翠製の勾玉と同等品かしら」

「使用者が天狗に限定されて、呪力を溜めるのも自前ではありますが」


 羽団扇への呪力補充は自前で行うため、実用性があるのはC級上位の紫苑くらいからだ。

 紫苑であれば、自身の5倍もの呪力容量を持つ羽団扇に、呪力を補充しなければならない。羽団扇の呪力を使い切った場合、紫苑ならば呪力を5度回復する期間、呪力を注ぐ必要がある。

 呪力の回復速度は、年齢、食事、休息方法、霊場など様々な条件によって異なる。

 そのため一概に何日だとは言えないが、本来は半月が必要だとすれば、自身と羽団扇とで6倍、3ヵ月に伸びる。C級中位ならば6ヵ月、C級下位ならば1年だ。

 それでも技さえ身に付ければ、B級中位の呪力を用いた呪術を行使できる。

 紫苑の陰陽術は、上級陰陽師向けの五鬼童式だ。B級の呪力加算を得た紫苑は、本来は同格であったC級上位の妖怪など、軽々と倒せるようになるだろう。


「元々B級に届く五鬼童家くらいしか、実用性に乏しいのが残念だわ。B級の戦力を持った統括陰陽師も増やしたいのだけれど、羽団扇の作成では無理ね」


 羽団扇に期待できる範囲について、宇賀は魔王と煙鬼への対策が精々だと見切った様子だった。

 沙羅の分を除いて11本を作成する羽団扇の本数を増やして、C級中位や下位の天狗に持たせても、新たな統括陰陽師にするのは容易ではない。

 1年に1回しか全力で戦えないのでは、二度目が出た際には隣県から応援を得なければならず、周囲の負担に鑑みて、統括を増やしたとは言い難いだろう。

 もちろん居ないよりは、居たほうが良いのだが。


「陰陽大家はいくつもありますし、宇賀様は昔から手を掛けておられたのだと存じますが、どうして増えないのでしょう」

「どうしてかしら。妖怪が病気だとして、妖怪の脅威を科学で解決できる分だけ、人間の免疫が落ちているようなものなのかしら。全体で見ると、明らかに呪力が落ちているのよね」

「西洋は極端に弱まったそうですし、それはあるのかもしれませんね」


 現代の陰陽師は、天候を天気予報で知り、地脈と無関係に生産された食糧を食べ、占いなど行わず、宇賀の知るかつてのような生活は送っていない。

 そのため陰陽師の呪力が落ちていき、陰陽師同士で婚姻を続けても、昔ほど呪力を保てないのは有り得る話だった。


「あたし達は昔の考え方を持っているから、あなたが側室を作っても気にしないし、呪力の高い分家を増やしてくれるなら有り難いとすら思うわよ。それで、最後の羽団扇についてなのだけれど」

「は、はぁ」


 宇賀は一樹に反論の隙を与えず、話を進めた。


「B級以上で、水行に属する鳥の妖怪は、これが良いと思うのだけれど」


 そう告げた宇賀が、一樹に資料を差し出す。

 それを手に取った一樹は、大阪府の陰陽師協会から寄せられた情報を確認した。


「場所は大阪府の北西にある剣尾山で、対象は天津鰐という鷲の姿をした妖怪よ」


 渡された資料は、『摂津国風土記』の逸文を基にしている。

 昔、天津鰐という神が、鷲となって下樋山(現・剣尾山)に下り、留まって住んだ。そして剣尾山に10人行くと、5人は消えた。

 その後、久波乎くわおという者が、神の元まで下樋(地下に掘る水路)を堀り、堀内から神を祀ると、被害は収まった。

 それから山は、下樋山と呼ばれるようになったという。


「天津鰐というと、天津神が住む高天原から地上に降りてきた鰐になるのでしょうか」


 天津神は、高天原に住む神々のことだ。

 高天原は天照大神を主宰神とし、天神達が住んでいる天上の世界である。

 ただし神しかいないわけではなく、動物なども住んでいる。分かり易い例では八咫烏がおり、神使として地上に送り出された。

 ほかには天照大神が大国主神への伝令として、天迦久神という鹿を派遣している。

 稲荷神は狐を神使に、速玉男命は海洋生物のタコを神使にしている。


「天津国の鰐で、地上に降りるために鷲の姿になったのだと考えられるわ。それで鰐なら、水行だと考えられないかしら」

「間違いなく水行でしょう。強さは、B級ではない気もしますが」


 五行の要件は満たすが、それとは別の問題があるのではないかと訝しんだ一樹であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 古代から存在している妖狐たちなら、「失われた製法で作られた翡翠製の勾玉」の製作方法を知っている存在がいたり、製作方法を知っている神に伝手があったりしませんかね?
[一言] 五鬼童家には渡しても問題は起こらないと考える。 まぁ、今までの五鬼童家の全てを失う訳だからやるわけ無いし、バカが居ても内々で始末するでしょうね。
[良い点] 一樹くんの想定以上の団扇作らせようと当初から糸引いてませんか宇賀様?
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